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58/107

58,推奨レベル489。

 

「ジョンソぉぉぉぉぉぉン!」


 と大騒ぎするカールとその仲間。

 そういう反応は、どこかからこっちを見ている【消滅卿】を喜ばせるだけなんだがなぁ。


 パニックに駆られたカールが掴みかかってくる。


「おい、ジョンソンはどうなっちまったんだ!?」


「どうなったって。両足を膝下だけ残して、その上は消滅した。どうやられたかは知らんが、結果はそうだな」


「畜生ぉぉぉ!!」


「落ち着け、落ち着け。集中しろ。いいな。敵は近くにいるぞ」


 しかし、どこにいるのだろうね?


【消滅卿】。二つ名通り、冒険者を消滅させるとは。

 しかし、これが『最初の関門』のボスの能力か? この手の初見殺しチートは、せめて攻略終盤のダンジョンボスだろ。


 カールたちはもうダメだな。

 ジョンソンの殺されっぷりが、あんまりだったので、すっかり戦意を喪失している。


 確かに、仲間が何も抵抗できずに肉体のほとんどを消滅させられたら、ショックだろうが。


 おれはケイティのもとに戻った。


「ケイティ。大丈夫か?」


 ケイティもさすがに青ざめた様子。ただカールたちとは違い、戦意喪失には至っていないが。


「ソ、ソルトさん。私、どうすれば……」


「おそらく、攻撃がくるさい何かあるはずだ。遠距離から標的を好きなだけ消滅できる、という、そこまでのチートスキルではないはず。ケイティ、聞いているか?」


 振り返ると、ケイティはすでにやられていた。

 こちらは腰より下だけは残っている。

 しかし腰より上、上半身は消滅させられていた。


「………………………………」


 視線を転ずると、カールたちも次々と、その肉体を消されていく。


「なんだ? どうやっている?」


 やがて、ここに生きているのは、おれだけとなった。

 人間形態のまま【消滅卿】が姿をあらわす。


「まさかと思ったが、あんたとはね。【破壊卿】。いや、その名はもう使えないか。幹部から追放されたんだからね。あんたはただの役立たずだよ、ソルト。だからといって、まさか人間のフリをしているとはね」


 うーむ。前回会ったときは、これをしなかったが。


「ちょっとまて、【消滅卿】。お前……」


 魔人には、冒険者のような分かりやすいレベルはない。

 ただあるとしたら、スキルやステータスからはじき出す、冒険者にとっての推奨レベルか。ボスの攻略推奨レベルなので、そのダンジョンの推奨レベルにも直結するわけだが。


【消滅卿】。

 こいつの場合、冒険者の推奨レベルは489~。


「おれの後釜に座ってから、この〈暴力墓〉をクリアできたのは、勇者少女くらいなんじゃないか?」


【消滅卿】が不愉快そうな顔する。


「勇者少女? 君は、あの小娘と知り合いなのか?」


「……冒険者が衰退するぞ、お前みたいなのが『はじまりの関門』のボスをしていたら」


【消滅卿】はニヤッと笑って。


「そんなこと、僕の知ったことじゃない。何しにきたんだか知らないが、ここはもうあんたのダンジョンじゃない。とっとと失せるんだね。それとも、僕に殺されたいのかい?」


「なるほどな。そういう姿勢か。お前は。なら、こっちにも考えがある」


 少しばかり警戒した様子で。


「僕に殺されたいわけだね?」


「いや、いや。戦うつもりはない。おれは大人しく引き下がるとしよう」


【消滅卿】が勝ち誇ったように笑う。


「そうだろうね、ソルト。あんたはもうロートルだよ、おっさん。次世代の魔人のやりかたには、ついていけないんだ」


 おれは地上まで戻った。


 さっそく〈サリアの大樹〉と接続し、ケイティ、それとついでにカールたちを復活させてやる。


 狼狽しているケイティたちは無視して、さらに〈サリアの大樹〉に指示を出した。


 今後、〈暴力墓〉で死んだ冒険者たちは、地上で復活することにする、と。

 さらに死ぬまで得た魔水晶は、失わないように調整する。


「【消滅卿】。お前を殺すのは、冒険者たちだ」


 繰り返しチャレンジすれば、いつかは【消滅卿】を倒す冒険者も現れるだろう。


 いや、どうかな。もう一押ししてやろう。


「ケイティ。それと、そっちのカールたち。いいことを教えてやる。自分たちで試して、それでうまくいったら、次はこのネタをほかの冒険者たちにも広めてやれ。とくに新米冒険者たちにな」


 ケイティが怪訝そうに尋ねる。


「あの、そのネタとは、なんですか?」


「【消滅卿】を簡単に殺せる攻略法」


 あの若造。

 おれの前に姿を現したことで、うっかり消滅スキルのネタをばらしてしまったわけだ。


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