58,推奨レベル489。
「ジョンソぉぉぉぉぉぉン!」
と大騒ぎするカールとその仲間。
そういう反応は、どこかからこっちを見ている【消滅卿】を喜ばせるだけなんだがなぁ。
パニックに駆られたカールが掴みかかってくる。
「おい、ジョンソンはどうなっちまったんだ!?」
「どうなったって。両足を膝下だけ残して、その上は消滅した。どうやられたかは知らんが、結果はそうだな」
「畜生ぉぉぉ!!」
「落ち着け、落ち着け。集中しろ。いいな。敵は近くにいるぞ」
しかし、どこにいるのだろうね?
【消滅卿】。二つ名通り、冒険者を消滅させるとは。
しかし、これが『最初の関門』のボスの能力か? この手の初見殺しチートは、せめて攻略終盤のダンジョンボスだろ。
カールたちはもうダメだな。
ジョンソンの殺されっぷりが、あんまりだったので、すっかり戦意を喪失している。
確かに、仲間が何も抵抗できずに肉体のほとんどを消滅させられたら、ショックだろうが。
おれはケイティのもとに戻った。
「ケイティ。大丈夫か?」
ケイティもさすがに青ざめた様子。ただカールたちとは違い、戦意喪失には至っていないが。
「ソ、ソルトさん。私、どうすれば……」
「おそらく、攻撃がくるさい何かあるはずだ。遠距離から標的を好きなだけ消滅できる、という、そこまでのチートスキルではないはず。ケイティ、聞いているか?」
振り返ると、ケイティはすでにやられていた。
こちらは腰より下だけは残っている。
しかし腰より上、上半身は消滅させられていた。
「………………………………」
視線を転ずると、カールたちも次々と、その肉体を消されていく。
「なんだ? どうやっている?」
やがて、ここに生きているのは、おれだけとなった。
人間形態のまま【消滅卿】が姿をあらわす。
「まさかと思ったが、あんたとはね。【破壊卿】。いや、その名はもう使えないか。幹部から追放されたんだからね。あんたはただの役立たずだよ、ソルト。だからといって、まさか人間のフリをしているとはね」
うーむ。前回会ったときは、これをしなかったが。
「ちょっとまて、【消滅卿】。お前……」
魔人には、冒険者のような分かりやすいレベルはない。
ただあるとしたら、スキルやステータスからはじき出す、冒険者にとっての推奨レベルか。ボスの攻略推奨レベルなので、そのダンジョンの推奨レベルにも直結するわけだが。
【消滅卿】。
こいつの場合、冒険者の推奨レベルは489~。
「おれの後釜に座ってから、この〈暴力墓〉をクリアできたのは、勇者少女くらいなんじゃないか?」
【消滅卿】が不愉快そうな顔する。
「勇者少女? 君は、あの小娘と知り合いなのか?」
「……冒険者が衰退するぞ、お前みたいなのが『はじまりの関門』のボスをしていたら」
【消滅卿】はニヤッと笑って。
「そんなこと、僕の知ったことじゃない。何しにきたんだか知らないが、ここはもうあんたのダンジョンじゃない。とっとと失せるんだね。それとも、僕に殺されたいのかい?」
「なるほどな。そういう姿勢か。お前は。なら、こっちにも考えがある」
少しばかり警戒した様子で。
「僕に殺されたいわけだね?」
「いや、いや。戦うつもりはない。おれは大人しく引き下がるとしよう」
【消滅卿】が勝ち誇ったように笑う。
「そうだろうね、ソルト。あんたはもうロートルだよ、おっさん。次世代の魔人のやりかたには、ついていけないんだ」
おれは地上まで戻った。
さっそく〈サリアの大樹〉と接続し、ケイティ、それとついでにカールたちを復活させてやる。
狼狽しているケイティたちは無視して、さらに〈サリアの大樹〉に指示を出した。
今後、〈暴力墓〉で死んだ冒険者たちは、地上で復活することにする、と。
さらに死ぬまで得た魔水晶は、失わないように調整する。
「【消滅卿】。お前を殺すのは、冒険者たちだ」
繰り返しチャレンジすれば、いつかは【消滅卿】を倒す冒険者も現れるだろう。
いや、どうかな。もう一押ししてやろう。
「ケイティ。それと、そっちのカールたち。いいことを教えてやる。自分たちで試して、それでうまくいったら、次はこのネタをほかの冒険者たちにも広めてやれ。とくに新米冒険者たちにな」
ケイティが怪訝そうに尋ねる。
「あの、そのネタとは、なんですか?」
「【消滅卿】を簡単に殺せる攻略法」
あの若造。
おれの前に姿を現したことで、うっかり消滅スキルのネタをばらしてしまったわけだ。




