57,【消滅卿】。
「ここがボス部屋って、どいうことです?」
うろたえた様子で、周囲を見回すケイティ。
ここはただただ、だだっ広い。
ボス部屋はもっと狭いところだと思っていのたかも。
しかし、階層移動後、即ボス部屋というのも珍しい構成だな。
いやそれよりも、おれがいたころは〈暴力墓〉は全100階層だった。
階層を進むごとにモブ敵の魔物は強くなるが、冒険者たちも魔水晶を稼いでレベルを上げ、おれのもとにたどり着いたころには、いい感じのレベルになっている。
という構成で、冒険者たちの育成も兼ねた、『はじめの関門』〈暴力墓〉だったというのに。
いろいろと弄ってくれたなぁ、【消滅卿】。
悪いほうに。
「ですが、そのボスはどこに?」
確かに、いない。
周辺には暗闇が漂っているので、そこらに潜んでいるのかもしれない。
えー。
だとしたら、おれは【消滅卿】を感知できていない? なんか地味に負けた気分だ。
「どこかに潜んで様子をうかがっているのかもな」
ダンジョン階層システムを解除できるのは、ボス部屋のみ。
そこだけがボスが手動で切り替えできる。
おれは複数パーティを同時に相手するのが怠すぎるので、切り替えたことがないが。
ここに、おれとケイティのパーティと、向こうの五人組パーティがいるということは、【消滅卿】は解除したのだろうな。
ケイティが緊張した様子で。
「どこかに潜んでいること、向こうの人たちにも教えてあげたほうがいいのでは?」
と、ケイティが五人組パーティを指さして言う。
うちの子は良い子に育ったなぁ。
まぁ、人格育てたのはこの子の両親だけども。
五人組パーティのほうに歩いていくと、リーダー格が睨みつけてきた。
この男の名は、カールか。
冒険者レベル47、ジョブは〈グラディエーター〉。
魔人は、やろうと思えばこれくらいの情報は、視界から取得できる。
この五人組の中では、最も高いレベル。
そしてこいつらが、ここまで〈暴力墓〉を進められたのは、パーティとしてある程度は機能しているからなのだろう。
「なんだお前、文句があるのか?」
とカール。
「いや文句はない。正直、おたくらはどうでもいい。だが、そうだな。冒険者は助け合いが大事だ。魔人たちに立ち向かっていくためには、冒険者同士でいがみあっていてはいけない。というわけで、教えておく。ここはボス部屋だ。〈暴力墓〉のボス【消滅卿】がどこかにいる」
カールが鼻で笑った。
それから仲間の一人を見やって、
「おい、ジョンソン。こいつが、このフロアにボスが潜んでいると言っているぞ」
ジョンソンがニヤニヤ笑って。
「おれの感知スキルは、このフロアには魔物を一体もとらえていないぜ。そいつ、臆病風に吹かれて妄想を吐いているんじゃないか」
「だとさ、バカップルの片割れ。怖くなったんなら、戻ったらどうだ?」
「……うーむ」
冒険者の性格悪いところが集まったのかな、このパーティ。
だがこのままだと、余裕ぶっこいているうちに、【消滅卿】に狩られてしまう。
この冒険者パーティよりも、【消滅卿】の思いどおり進むほうが癪だ。
ここは丁寧に説明するしかない。
「ジョンソンといったか、あんたの感知スキルでは、奴を捉えることはできない。気を悪くしないでもらいたいが、あんたの冒険者レベルで会得できる感知スキル程度では──」
ジョンソンがいない。
「……カール。ジョンソンはどこに行った?」
「あぁ? てめぇ、なんでおれの名前を知っていやがる?」
「いや、それよりも、おたくらのジョンソンが……」
いやぁ、まてよ。
いなくなったわけではないらしい。厳密には。
ジョンソン君の両足だけが残っていたので。
厳密には、両ひざより下だけが。
両ひざより上は、綺麗さっぱり消えているが。
勇者少女にボコられたくせに、【消滅卿】。
「なかなか、やるなぁ。癪だが。なかなかやる」
カールたちがやっと、ジョンソンの残骸に気付いた。




