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55/107

55,隠しデバフ効果。

 

〈暴力墓〉の入口に、面白いものがいた。


 サイズの大きい貴族の衣装を着た、男の白骨死体。

 いや、これは魔物の一体だ。


 各ダンジョンの入口にランダムで出現するが、とてもレア。


 ケイティも気づき、双剣を構える。


「なんですか、ソルトさん、あれは?」


「危険な魔物じゃない。ちょっとここで待っていてくれ」


 白骨死体の魔物まで歩いていき、


「どうも骸骨伯爵閣下!」


 お歳なので耳が遠い。または骸骨だからかも知らんが。


「あぁ、なんだと、ソルトか? 貴様、いまは人間をしているのか」


「まぁ、いろいろとありましてね。骸骨伯爵閣下とお会いできるとは、幸先がよい。あぁそれと、おれが魔人であることは、連れの冒険者には隠しておいてもらいたい」


「あー、あぁ、よい、よいぞ」


 ケイティのもとに戻り、説明した。


「骸骨伯爵は、お助けキャラみたいなものだ。加護を受けると、そのダンジョンを探索している間、バフ効果を得られる。ただし、その設定を知らずに、魔物だからと容赦なく殺すと、デバフがかかる。デバフの内容は、ランダム」


 さらにいうとこのデバフは、隠しパラメータ扱いになるので、当人は気づかない可能性がある。


 しかも、デバフの中には、条件が整うと発動するものもある。

 たとえば敏捷性を上げるスキルを使ったときだけ、逆にスロウ化が入るとか。

 ここぞというボス戦で敏捷性アップを使った冒険者は、突然の遅鈍化で慌てふためき、殺される。


 ふむ。そう考えると、ぜんぜん、お助けキャラじゃないな。


「なぜ、そのような魔物が存在するのでしょう?」


 サリア様の悪戯心か。

 または正しい情報をたくさん持つことこそが、冒険者に求められること、というわけか。


「とにかく、おれたちはバフをかけてもらうとしよう。あぁ、バフの内容も、ランダムだが」


 骸骨伯爵のもとまでケイティと戻り、加護を授けてもらった。


「むむむ。冒険者の若者たちよ。あー、行くがよい」


 おれとケイティが先に進もうとしたところ、後ろから冒険者パーティがやってきた。

 しかも大所帯で、5人はいる。


「おい、そこのバカップルども」


 と、大剣を背負ったリーダー格らしき冒険者が言ってきた。


 おれは周囲を見回してから、自分たちを指さす。


「え? おれたち?」


「男女でイチャイチャ入ろうなんて、間抜けなバカップル冒険者と決まっているんだ。冒険者の仕事を遊びと勘違いしたな」


「なんという偏見」


 ケイティは、なぜか顔を赤らめてもじもじしている。


「え? カップルに見えます? 困りましたね」


「……大丈夫か?」


 五人のパーティは、それぞれのレベルは50前後か。

 ちなみに他者のレベルを見ることができるのは、おれが魔人の元幹部だから。


 通常、冒険者たちは互いのレベルなどを見ることはできない。まぁレベル上級者ならば、立ち振る舞いや殺気などから、だいたい察しはつくそうだが。


 ケイティが進もうとするので、おれは止めた。


「まった。連中を先に行かせよう」


 ほかのパーティと一緒に動くことになることこそ、厄介なことはないからな。

 敵モブよりも、見ず知らずの同僚にこそ、足を引っ張られることもある。


 五人組のパーティは、いまは骸骨伯爵を囲んでいた。


「なんだ? 〈暴力墓〉の入口に魔物がいるなんて、聞いたことがないぞ」

「雑魚そうだな」

「おい、殺しちまおうぜ」


 ケイティが慌てた様子でおれに言った。


「デバフのことを教えてあげませんと」


「仕方ないなぁ」


 ケイティの善良さに救われたな、バカどもめ。


 というわけで五人組のほうに歩いていき、リーダー格に教えてやった。


「その骸骨伯爵を殺すのはためにならんぞ」


「黙ってろ、バカップルの雑魚は」


 おれを押しやってから、そのリーダーが直々に、大剣を振り下ろす。

 骸骨伯爵を真っ二つにしてしまった。


 じゃあな、骸骨伯爵。

 またどこかで会おう。


「あーあ」


 五人組は満足した様子で、おれとケイティをバカにしてから、〈暴力墓〉に入っていった。


「デバフ効果は、パーティ全体にかかるんだがな。まぁ、こっちは教えようとはしたんだ。な、ケイティ」


 ケイティは、こっちの話を聞いておらず。


「カップルに見えましたか、えへへ」


「……これだから冒険者は衰退するんだ」



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