55,隠しデバフ効果。
〈暴力墓〉の入口に、面白いものがいた。
サイズの大きい貴族の衣装を着た、男の白骨死体。
いや、これは魔物の一体だ。
各ダンジョンの入口にランダムで出現するが、とてもレア。
ケイティも気づき、双剣を構える。
「なんですか、ソルトさん、あれは?」
「危険な魔物じゃない。ちょっとここで待っていてくれ」
白骨死体の魔物まで歩いていき、
「どうも骸骨伯爵閣下!」
お歳なので耳が遠い。または骸骨だからかも知らんが。
「あぁ、なんだと、ソルトか? 貴様、いまは人間をしているのか」
「まぁ、いろいろとありましてね。骸骨伯爵閣下とお会いできるとは、幸先がよい。あぁそれと、おれが魔人であることは、連れの冒険者には隠しておいてもらいたい」
「あー、あぁ、よい、よいぞ」
ケイティのもとに戻り、説明した。
「骸骨伯爵は、お助けキャラみたいなものだ。加護を受けると、そのダンジョンを探索している間、バフ効果を得られる。ただし、その設定を知らずに、魔物だからと容赦なく殺すと、デバフがかかる。デバフの内容は、ランダム」
さらにいうとこのデバフは、隠しパラメータ扱いになるので、当人は気づかない可能性がある。
しかも、デバフの中には、条件が整うと発動するものもある。
たとえば敏捷性を上げるスキルを使ったときだけ、逆にスロウ化が入るとか。
ここぞというボス戦で敏捷性アップを使った冒険者は、突然の遅鈍化で慌てふためき、殺される。
ふむ。そう考えると、ぜんぜん、お助けキャラじゃないな。
「なぜ、そのような魔物が存在するのでしょう?」
サリア様の悪戯心か。
または正しい情報をたくさん持つことこそが、冒険者に求められること、というわけか。
「とにかく、おれたちはバフをかけてもらうとしよう。あぁ、バフの内容も、ランダムだが」
骸骨伯爵のもとまでケイティと戻り、加護を授けてもらった。
「むむむ。冒険者の若者たちよ。あー、行くがよい」
おれとケイティが先に進もうとしたところ、後ろから冒険者パーティがやってきた。
しかも大所帯で、5人はいる。
「おい、そこのバカップルども」
と、大剣を背負ったリーダー格らしき冒険者が言ってきた。
おれは周囲を見回してから、自分たちを指さす。
「え? おれたち?」
「男女でイチャイチャ入ろうなんて、間抜けなバカップル冒険者と決まっているんだ。冒険者の仕事を遊びと勘違いしたな」
「なんという偏見」
ケイティは、なぜか顔を赤らめてもじもじしている。
「え? カップルに見えます? 困りましたね」
「……大丈夫か?」
五人のパーティは、それぞれのレベルは50前後か。
ちなみに他者のレベルを見ることができるのは、おれが魔人の元幹部だから。
通常、冒険者たちは互いのレベルなどを見ることはできない。まぁレベル上級者ならば、立ち振る舞いや殺気などから、だいたい察しはつくそうだが。
ケイティが進もうとするので、おれは止めた。
「まった。連中を先に行かせよう」
ほかのパーティと一緒に動くことになることこそ、厄介なことはないからな。
敵モブよりも、見ず知らずの同僚にこそ、足を引っ張られることもある。
五人組のパーティは、いまは骸骨伯爵を囲んでいた。
「なんだ? 〈暴力墓〉の入口に魔物がいるなんて、聞いたことがないぞ」
「雑魚そうだな」
「おい、殺しちまおうぜ」
ケイティが慌てた様子でおれに言った。
「デバフのことを教えてあげませんと」
「仕方ないなぁ」
ケイティの善良さに救われたな、バカどもめ。
というわけで五人組のほうに歩いていき、リーダー格に教えてやった。
「その骸骨伯爵を殺すのはためにならんぞ」
「黙ってろ、バカップルの雑魚は」
おれを押しやってから、そのリーダーが直々に、大剣を振り下ろす。
骸骨伯爵を真っ二つにしてしまった。
じゃあな、骸骨伯爵。
またどこかで会おう。
「あーあ」
五人組は満足した様子で、おれとケイティをバカにしてから、〈暴力墓〉に入っていった。
「デバフ効果は、パーティ全体にかかるんだがな。まぁ、こっちは教えようとはしたんだ。な、ケイティ」
ケイティは、こっちの話を聞いておらず。
「カップルに見えましたか、えへへ」
「……これだから冒険者は衰退するんだ」




