54,〈暴力墓〉。
その夜。
宿の食堂で夕食をとっていると。
「ソルトさん。わたし、夢を見ました。ヤマタノオロチにソロで立ち向かい、殺される夢を」
と、ケイティが能天気なことを言う。
一瞬、このまま夢で終わらせてしまおうかと思ったが、それだとケイティのためにならない。
「いいか、それは夢ではないぞケイティ。君は本当に死んだのだ。ヤマタノオロチにさしで挑み」
「奮闘の末に?」
「いや奮闘したかは知らんけども」
「どうして死んでしまったのに、こうして生きているのでしょうか」
ケイティが当然の疑問を口にする。
さすがに〈サリアの大樹〉のことを話すわけにはいかないので、適当にお茶を濁しておくか。
まぁケイティは純粋なので、テキトーな嘘でも騙されそう。
「冒険者の中には、時たま『謎の復活』をとげるケースがあるんだ。ケイティ。君は、どうやらどこまでも偶然の結果として、偶然的に、偶然復活したようだ」
「そうだったのですね」
すっかり信じたケイティ。
「せっかく二度目のチャンスを与えられたんだ。もう無茶はするなよ。確かに、おれたちはレベル152まで上がり、毒矢でヤマタノオロチを殺すのに飽きてきたころだろう」
「いえ飽きたというより、自分の力を試してみたかったんです」
「違うんだよ、ケイティ。それは建前というやつだ。自分の中で、納得させるための嘘だな。真実は、すっかり飽きてしまった、に尽きる。だが無理もない。はじめはヤマタノオロチを一度倒すだけで得た魔水晶量で、ぐーんとレベルが上がったものだ。それはとても興奮し、脳も快感として覚えたものだろう。分かるか、身体が強烈な快感を覚えてしまった」
「はぁ。なんか、『身体が快感を』とか、エッチな話ですね」
「……いや、ぜんぜんエッチな話じゃない」
そういえばケイティの年齢は、人間の思春期というやつか。なんでもエッチなことに結びつきたくなる思春期という。
「君は冒険者だぞ、ケイティ。思春期を乗り越えろ」
「はぁ。すみません、なんの話ですか?」
「知らん。とにかくレベル上げは、飽きてからこそが勝負」
というわけで、さっそく翌日、ヤマタノオロチのいる谷まで向かう。
昨日、〈紫ガ城〉に勇者少女を追ってきた中に、【碁怒卿】がいなくて良かった。
この谷は〈義人墓〉の一部であり、管理しているのが【碁怒卿】。
よって【碁怒卿】が消滅してしまっていたら、この素晴らしき稼ぎ魔物ヤマタノオロチも消えてしまうところだった。
それから四日間。
ヤマタノオロチでこつこつレベル上げ。
ついに、次のレベルへ上がるのに、ヤマタノオロチを何度も倒さねばならないといけないまでになった。
「ふむ。レベル214か」
「目標のレベル200を14も超えましたね、ソルトさん」
〈暴力墓〉の実際の推奨レベルは不明だから、かなり余裕をもって、レベル200としていたわけだ。
おそらく【消滅卿】を倒すには、レベル150あれば充分。
しかし【消滅卿】とは一度会ったきりだし、どうもこの二つ名の『消滅』要素が気になる。
そこで余裕をもって、レベル200としていた。
「冒険者のスキルツリーは、解放していないな、ケイティ」
「はい」
魔水晶獲得でのレベル上げ時に溜まる神魂ポイントとやらを使い、スキルツリーを解放することで、冒険者は新たなスキルを獲得する。
このスキルツリーの解放方向を誤ると面倒。
人生と同じで、振り直しは不可だからな。
そこでケイティには、基本的にスキルツリーは触るな、と言っておいた。
そんな状態でヤマタノオロチに挑んだら、そりゃぁ死ぬわけだ。
「よし、おれの指示通りに解放していけ。それが終わったら、ついに行くぞ」
「もしかして?」
「〈暴力墓〉へのリベンジだ」
いろいろな意味で。




