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53/107

53,妹の機嫌こそが。

 


 勇者少女を裏口から送り出してから、おれは妹のセーラのもとへと急いだ。


「セーラ。どうした? 何事だ?」


 勇者少女の噂を聞きつけ、追跡してきた可能性もある。

 だが杞憂だった。


「兄貴。顔を見せにきてあげたわよ」


 と、満面の笑みで言う。

 さて、こちらも状況が違えば大歓迎したのだが。


「それだけか?」


 とたん、セーラの顔が曇る。


「それだけって何よ。妹が兄に顔を見せにきただけじゃ足りないというの?」


 まずい。妹の機嫌を損ねた。これは世界中のすべての兄にとっての悪夢。

 うちの場合、真剣に悪夢。


「いや、そういうわけではなくて。嬉しくはあるんだぞ、セーラ。ただタイミングが悪かったというか、なんというか」


 不愉快そうに腕組みして、セーラは踵をかえした。


「もういいわ。兄貴、あたし、帰る」


 このとき、最悪のタイミングで、首無し騎士のアーグが駆けつけてきた。

 先ほど勇者少女に切り刻まれ、ようやく復活したらしい。


「師匠! ただいま戻りました! あっ」


 セーラがちらりとアーグを見てから、


「あんた、邪魔よ」


 それから、アーグをメチャクチャに千切りだす。

 気の毒なアーグ。


 おれは知らん。


 一度不機嫌モードに入ったセーラは、そっとしておくに限る。

 ここは無理に引き止めず、ひとまず帰るのを見届けた。


 賢く避難していたメアリーがやってきて、アーグの残骸を見やる。


「セーラ、怒ってしまいましたよ?」


「見れば分かる」


 セーラがいる限り、たとえ幹部が全滅しても、魔人が衰退することはなさそうだな。

 冒険者側にも、そういう柱がいれば、衰退を免れることができるのかもしれない。


 勇者少女はサリア様の転生ということなので、当てはまらない。

 〈帝〉も、〈炎の帝〉と戦ってみたが、そこまでの器ではない。


 となると、いまのところ冒険者に、そんな柱はないのか。

 では、誰かなる可能性はあるだろうか。

 たとえば──


「あ、ケイティのことを忘れていた」


 メアリーが感心しないという様子で言う。


「ソルトさん。外に女を囲っていること、セーラに知られたら、地獄の雨が降りますよ。この大陸に」


 囲っているとは、またとんでもない誤解。

 しかしその誤解を解くためには、ケイティの身分を明かす必要になる。

 それはそれで面倒なことになりそうだ。


「……余計なことを考えるな。しかし、ケイティのことを間違っても、セーラには言うなよ」


 にっこり笑うメアリー。


「はい、承知です」


【堕落した聖女】メアリー。

 セーラの友達。

 意外と口は軽そう。なんか心配。


 次元の裂け目を使った空間転移で、ケイティのいる宿まで移動。

 部屋の扉をノックしても返事がない。

 本当に蘇ったのか?


 心配になったのでドアを開けて中に入った。


 この村、クラフトスキルの恩恵を受けているようで、上下水道の発展ぶりは王都級。

 部屋には浴室まであり、そこでケイティはシャワーを浴びていた。どうりでノックが聞こえなかったわけだ。


 鼻歌をうたいながら、浴室から出てくるケイティ。

 火照った裸体のままで。


 おれと目があうなり、悲鳴をあげてタオルを手にとって、身体に纏う。


「ソ、ソルトさん! 一体、どうして──!?」


「あぁ、気にするな。君の裸に、おれは何も感じない」


「あの、まったく何も感じられないというのも、それはそれで傷つくのですが」


「いや、だっておれは魔人──じゃなくて、まった、やり直す。すっごく気になった。じっくりと見たい」


 ジト目で見返された。


「変態ですか?」


 難しいなぁ、人間として生きるのは。


「……とにかく、生き返っていて良かった」


「はぁ。あまり記憶がないのですが……生き返ったとは、どういうことです?」


「記憶にないなら、思い出さなくてもいいよ。じゃ、あとでな」


〈サリアの大樹〉の拡張は本物だったか。


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