51,人生は選択の連続……。
さらば、【護魔卿】。
マジで、嫌な奴だったなぁ。
一方、【護魔卿】の『滅却』を前にしても動じぬ【無庫卿】。
「〈滅却絡繰り〉を使い、同じ魔人を消滅させるとは。ソルトどの、どうやら越えてはならぬ一線をこえたようだな」
そう改めて言われると、けっこうビビるんだが。
しかし、進めてしまったことは、いまさら変えられぬ。
というわけで、はじめた口封じはやめられぬ、だ。
一方、巨体芋虫形態の【無庫卿】が蠢く。
「ソルトどの。われは毒スキルを極めた魔人だ」
「魔芋虫だろ」
いらぬ指摘だったようで、完全にスルーされた。
「わが奥義スキルは、初見殺し。冒険者たちは、事前に秘薬〈毒の無〉を摂取し、完全解毒状態になっていなければ、避けることは不可能。それはソルトどの、魔人にも言えることだ。さぁ、〈毒の無〉を摂取しているのかね、ソルトどの?」
そーいうさ。
『これこれをしていなければ絶対に勝てません、敗北イベント必須です』というのは、たとえ終盤登場のボスでも、好きじゃないなぁ。
サリア様が健在だったら、許さなかっただろうに。
「その奥義の毒とやらをくらわなければいい話だろ」
「甘い! 周囲を見てみるがよい!」
「なんだと」
おれの周りには、いつのまにか毒結界が張られていた。
ここまで張り巡らされていたのに、気づかなかったのか? どれだけ鈍感?
いや、まて。これが奥義の能力なのだろう。
毒結界の完成まで、決して気取られることはないという(感知スキルとか使えば気づけるのかもしれんが)。
「なんということだ」
「はっはっはっ。わが《毒》の結界、ソルトどの、どう突破するつもりだね?」
《時間跳躍ディレイ攻撃》発動。
《毒》の結界が張られる前に戻る。
それはパリィのタイミングをずらすようなものだ。
遅延攻撃の枠組みからは外れていないぞ、たぶん。
かくして時間を跳躍しての、渾身の《魔滅弾》を叩きこんだ。
……芋虫を踏んでしまったことがあるかね?
あんな感じで、【無庫卿】は死んで、〈滅却絡繰り〉が起動し、消滅させた。
「《時間跳躍ディレイ》スキル。いよいよチートになってきたな」
二体も幹部を消してしまった……。
まぁ、性格の悪い奴とでかい芋虫だったし、よしとしよう。
それに、これもケイティを救うためだ。
しかしおれは、魔人よりも冒険者の命を選んだのか。
というより、仕事の同僚より、友達を選んだのだな。
〈サリアの大樹〉のところまで向かう。
そこには開花した〈サリアの大樹〉。これが拡張を成功させた証か?
そのそばには、力尽きた勇者少女が倒れていた。
「死んだか、勇者少女よ。力を使いはたし──その魂が、涅槃の海に行けるよう祈っておこう」
と思ったが、勇者少女から、「すやー」と寝息が聞こえてくる。
なんだ、本当にただ疲れて眠っていただけか。
風邪をひかぬよう、毛布をかけてやる。
本当に、サリア様の転生かもしれんからな。
「さて、拡張が済んだのならば、好きに冒険者を復活できるのか?」
試しに〈サリアの大樹〉に触れてみると、視界に項目選択画面が現れた。
『魔人』
『冒険者』
『冒険者』を選択。
とたん、数えきれない数の冒険者名が、視界に表示される。星のごとくの数。
「これまで死んだ、すべての冒険者の名か。おー、すご」




