5,妹のダンジョンが死にゲーすぎた。
〈ガリア城塞〉は、思ったより明るいところだった。
ダンジョンの照明を暗めにしたがるボスは多い。物陰から手下(敵モブ)の攻撃をかまさせようという策で。
だが妹のセーラは、その手は姑息と思っているのかもしれん。参考になる。いや、おれはもうボスじゃないから、どーでもいいが。
前方を進む冒険者パーティ。
さっそくはじめの敵モブに遭遇。いや、初っ端に中ボスを配置しておく手もあるので、まだモブとは決めつけられん。
ぱっと見は、スケルトンのような奴だった。骸骨シリーズは、種類が多すぎてなぁ。
冒険者パーティは、天空城をクリアしただけのことはあった。
あの偉そうなリーダー格が、スケルトンへ斬撃スキルをかます。魔術師の性格悪い女が、バフ魔法をかけている。
バフとかデバフとか、ボスだったころから、嫌いだね。正々堂々と戦えよ、とおれは言いたい。
もう一人の戦士系は、周囲へと警戒を怠らない。
一体の雑魚が囮で、まわりから敵モブがわんさか出てくる、という展開を懸念しているのだろう。
確かに雑魚枠のモブ魔物も、数の暴力に頼れば、上位冒険者を殺すこともできるしな。
そうそう。冒険者は、死んだらそこで終わりだ。
おれたち魔人のように、魔水晶によるサリア様の加護で復活したりはしない。死んだらそれまで。それでも果敢に死地に挑むんだから、そこは評価してもいいよな。
少なくとも、あの偉そうなパーティリーダーも、そこは勇敢だろう。
まぁ自分が死ぬとは思っていないバカ、という可能性も充分あるが。
いるんだよなぁ。『おれは主人公だから絶対に死なないぜ』とか思い込んでいる冒険者。
たいてい、早死にする。
などと考えていたら、スケルトンは死亡。
まわりから他の雑魚が出てくることもなかった。
偉そうなリーダー格が、ぺっと唾を吐いて。
「入口付近だからって、こんな雑魚一体しか配置してないとはな。この城塞ダンジョンも、たいしたことがないようだな」
もう一人の戦士系が、注意を怠らずに言う。
「だがSSSランクという噂を聞いたことがあるぞ」
「バカね。それがデマだって言うのよ。それに、たとえSSSランクでも、アレクなら余裕よ。ね、アレク」
と、魔術師の性格の悪い女が、偉そうなリーダー格にしなだれかかる。
はぁ~できているのかぁ~。どーーーーーーでもいい。
ところで、いま撃破されたばかりのスケルトンだが。
いまさらながらどこかで見たことがあるような。
スケルトンの知り合いなんかいたか? 幹部の一人に骸骨騎士ならいるが。まぁ、奴でないことは確か。
では?
冒険者パーティに発見されないよう遠目からしか見れないので、はっきりと思い出せない。
スケルトンが妙に小柄だな、とは思った。
まるで子供のスケルトン。
まぁ軽量タイプは動きが敏捷で、冒険者を惑わすことができる。ただ、そのわりには鈍かったなぁ。
本当にただの雑魚だったのか……または、倒されたがっていたのか。
子供のスケルトン……違和感………子供……女児。
「あー!」
つい大声を上げたものだから、冒険者パーティに気付かれた。
偉そうなリーダーことアレクが、おれに向かって剣先を向ける。
「なんでついてきているんだ? まさか同業者か? おい、名前を──」
「おれは親切だから、言ってやる。逃げろ。全力で」
アレクが嘲笑する。
「バカか、お前。どうして、オレが逃げなきゃなら、ないん、だ?」
後半は、生首だけで話していたな。
アレクの、切断された頭部がゴロゴロ転がってくる。
しばし沈黙。それから、アレクとできていた女魔術師が悲鳴を上げる。
その身体が、中央で二つに裂けた。胴体両断されてからも、しばらくは叫んでいたな。
で、こいつらに何が起きたのか?
先ほどのスケルトンの仕業だ。アレクの首を吹き飛ばし、女魔術師の胴体を引き裂いた。
ただし、スケルトンも、いまは正体を現している。
人間年齢でいえば、10歳程度。
金髪碧眼、ガキのくせに妙に煽情的なドレスを着ている。
セーラ。おれの妹。
二つ名は、えーと、【虐殺娘】だっけ?
おれは唖然として言った。
「ボスが、なんで初っ端にいるんだよ?」
妹はおれを見て、にこりと微笑む。
「唯一の攻略法が、『初っ端に出てきた雑魚のスケルトンを回避する』なのよ。そのスケルトンを倒しちゃったら、あたしが正体を現して、問答無用で殺しちゃうから。こんなふうに」
といって、悲鳴を上げていた戦士系から心臓を引き抜き、握りつぶした。
冒険者パーティ、あっけなく全滅。SSSランクの洗礼を受けて、それまでよ。冒険者には死んでもリトライの権利はないからなぁ。
「……なんて酷い初見殺しだ」




