49,口封じするのも時には大事。
何しにきたんだか。
【護魔卿】といえば、おれを〈暴力墓〉から実際に追い出した幹部。
まぁ怨んではいないが。幹部会の総意を伝えにきただけだろうし。
ただ感じ悪い奴だが。
【無庫卿】に至っては、記憶がほぼない。
確か武闘派の幹部で、冒険者との戦いを愛しているとか。
幹部のほとんどは、仕事だしな、という感じで冒険者と戦うので、そういう意味では少数派か。
おれはラスボス部屋前まで、急いで向かう。
さてと、面倒くさい現況を整理してみると、だ。
ラスボスの【廃都卿】は、妹が消滅させてしまったが、そのことは隠している。
今は、おれが〈紫ガ城〉のラスボス紐づけしているが、その事実も隠しているわけだ。
なぜか勇者少女は見抜いていたが、サリア様の転生者なら、それくらいおかしくないかもしれない。
ただ【護魔卿】とかの間抜けが、この事実を見抜いているとは思えんので、誤魔化しとおさんとな。
「よお、お二人さん」
我ながら、変なテンション。
「ソルト? なぜ貴様がここにいるのだ?」
と、ここにおれがいるのを知らなかったようで、【護魔卿】は驚いた様子。
【無庫卿】に至っては、魔物型のせいで、表情が分からない。なんだか、巨大な芋虫みたいな奴だ。そういや幹部会議に出てきたことがないなと思っていたが、この図体のせいかな。
「おれがいるのを知らなかったか? 実はおれは、いまは【廃都卿】に雇われて、ここで中ボスをしている」
「信じがたいな。貴様のような『パリィ練習台』を、実力主義にして最強無比の【廃都卿】殿が雇うとは思えん」
ちょっと、失礼じゃないか?
にしても、【護魔卿】が【廃都卿】の名を言うときの、この感じ。
畏怖しきっている、この感じは何か。
そうか、こいつは【廃都卿】派か。
実は幹部内には、封印されているサリア様の位階を廃止し、代理ではなく真の意味で魔人の王をたてるべき、という派閥がある。
もちろん、この派閥が魔王として求めているのは、【廃都卿】。
【廃都卿】当人もまんざらではないようだったが、時節を見ていたのか、そのような動きは見せなかった。
まぁ、その野望が形になる前に、セーラが消滅させてしまったがなぁ。
「信じられないと言っても、【護魔卿】、ここにおれがいるのは、その証拠では?」
「ふん。まったく納得のいかないことだが、【廃都卿】ご自身にお尋ねすればよい話。ソルト、そこをどきたまえ」
「いや、それは……」
「なんだね、ソルト?」
「【廃都卿】は、いま留守にされている。それで、おれが一時的に〈紫ガ城〉を預かっている」
「なんだと? ソルト? 貴様、脳が腐っているのか? たとえ【廃都卿】が〈紫ガ城〉を留守にされたとしても、貴様に全権を預けるはずがない。【廃都卿】には、ご立派に成長されたご子息たちがいらっしゃるのだからな」
えー、【廃都卿】、息子とかいたんだぁ。
へぇ。
セーラ、そっちも消滅させたのか。
鬼畜か。
ふいにこれまで黙っていた【無庫卿】が、言った。
「あの小娘は、ここにいるぞ。勇者を自称していた、あの小娘は」
なるほど。やはり勇者少女を追跡してきたか。
突如として現れ、13幹部を撃破してしまった勇者少女。そのまま放置はできず、【護魔卿】は武闘派の【無庫卿】を連れ、リベンジに追ってきたというのか。
【護魔卿】が険しい顔で言う。
「貴様、ソルト。あの勇者を名乗る小娘がここにいると知っているな? その上で、われらに隠し立てしているというのならば──まぁ、いい。貴様の処遇はのちほど済ます。そこをどけ」
「…………」
さてと、困る。
ここで同期中の勇者少女のもとに行かすわけにはいかない。勇者少女を殺されたら、ケイティが蘇らなくてなってしまう。
それに、本当にサリア様の転生者だというのならば、おれが仕えるべきは……
だがここで、【護魔卿】と【無庫卿】と戦うのもなぁ。
仮に勝利して、二人を殺しても、どうせ復活する。
復活したあげく、幹部会に、おれの裏切りを報告することだろう。
だから、理想は──
ふと視界に、アイテムリストが表示された。
魔人スキルで異空間収納している、アイテム一覧だ、が。
まさか……なんで、これが、ここに?
さてはセーラだな。
いつのまに、おれの収納先に、『コレ』を入れたんだ?
だが好都合だ。
〈滅却絡繰り〉。
この世から消滅させてしまえば、幹部会に報告もできまい。
あれ。この発想、地味に鬼畜?
まぁ、いっかー。




