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48,拡張中。

 


「いや、そんなはずがない。お前が、サリア様の生まれ変わり、転生した姿だって? ありえない。サリア様が人間に転生するのもそうだが──そもそも、サリア様は死んではいない。あー、封印されているだけだ」


「だけど、魔人たちはサリアのことを、お隠れになったと言っているでしょ。わざわざ言うまでもないけれど、これは死んだという意味でしょ」


「……」


 確かに、いつからか『サリア様は封印されたとはいうが、まずお亡くなりになっているのだろう』という認識が、一般的になっていたが。


「……しかし、だ。仮にサリア様が魔に召されているとしても、なぜにお前のような、ちんちくりんに転生される? なんの罰だ?」


 勇者少女、地味にイラっとした様子で。


「ちんちくりん、とは何よ。いいこと【破壊卿】。私には、二つの証拠があるのよ。まず、この異常な強さ。魔人幹部たちも太刀打ちできなかった、この私の強さよ。レベル15でありながら、どんな魔人も手だしできない、この圧倒的な強さ」


 いや、まて、お前はまだ、うちの妹と戦っていない。

 と思ったが、本筋から逸れそうなので、いちいち言わんでおく。


「バグ、と言っていただろ」


「そのバグの原因が、サリアの生まれ変わりだから、ということよ。さらに〈サリアの大樹〉の拡張方法を知っているのも、私がサリアの生まれかわりだから、ということ」


「……それを証明するには、お前の話を信じて、〈サリアの大樹〉の拡張に手を貸さねばならない。つまり、どこのウマの骨とも知らない人間を、〈サリアの大樹〉に近づけねばならない、ということだ。お前の真の狙いが、〈サリアの大樹〉の破壊だった場合、とんでもないことになる」


「またそこを議論するわけ? 破壊する気だったら、あなたを問答無用で殺すわよ」


「言ってくれるな。おれはまだ、本気の3割程度しか出していなかったというのに」


「はい、はい」


「いや、信じろよ」


「とにかく、あなただって、〈サリアの大樹〉を拡張したいのでしょ? 事情が変わった、と言っていたでしょ。なら、もう選択の余地はないでしょ? 私がサリアの転生者であること、私の目的が言葉どおり〈サリアの大樹〉の拡張であることを信じるしか、道はないのよ」


 うーむ。

 ケイティ。最悪のタイミングで、死んでくれたものだ。


「分かった。すべて信じよう。こっちだ。〈サリアの大樹〉のもとで案内する。しかし──誰にも言うなよ?」


 勇者少女は怪訝そうな顔をする。


「私たちが〈サリアの大樹〉を拡張すること?」


「それもそうだが──これから見せるものを」


〈紫ガ城〉の最深部に向かう。

 そこには魔導式の昇降機があるので、これに乗り込む。ちなみにこの昇降機を動かせるのは、〈紫ガ城〉とボスの紐づけをされている者だけだ。


 やがて最下層で、魔導昇降機が止まる。


 その先に、玉座があった。

 かつてサリア様がお座りになられていた、唯一無二の魔人の頂点を意味する玉座が。


 いま、この玉座には、ひとつの花盆が置かれている。

 そこには、生命に満ち溢れた、しかし小さな植物が植えてあった。


 勇者少女が怪訝そうに言う。


「なにこれ、盆栽? 可愛いわね」


「こちらが、〈サリアの大樹〉だ」


「え? だって……大樹要素が欠片もないわよ? ただの盆栽にしか見えないわよ」


 と言う勇者少女、笑いをかみ殺している様子。

 だから見せたくなかったんだ。


「うるさい。〈サリアの大樹〉に敬意を払え。そして、とっとと拡張とやらを始めろ──〈サリアの大樹〉に傷はつけるなよ」


「心配しないで。これから、わたしは〈サリアの大樹〉と同期するから」


「動悸、息切れ、めまい」


「バカなことを言ってないで。わたしは同期作業中、無防備になる。だから〈サリアの大樹〉を拡張させたいのなら、わたしを守ってよね、【破壊卿】」


「あいよ」


 ここはラスダン、一体どんな脅威が現れるというのか。

 というわけで安請け合いすると、勇者少女はうなぎ、同期とやらを行い始める。

 確かに同期中は、こちらから何を言っても反応がないようだ。


 しばらくすると、復活していたメアリーが小走りでやってくる。


「あの、ソルトさん──」


「あぁ、勇者とは取引を済ませたから、もう安心だよ」


「いえ、その件ではなくて──【護魔卿】と【無庫卿】がお見えです」


「………あー、こういうことか」


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