45,勇者が来た。
レベル150あたりから、レベル上げ速度も鈍麻してきた。
さすがにヤマタノオロチでは、ここらでスピードダウンは仕方ない。
ただレベル120のところで、ケイティが自主的に精密射撃スキルを得たので、毒矢狙撃は簡単になった。
それとケイティは、こつこつやるのが好きなようで、レベル上げ速度が低下してからも、なんら不満もなくやっている。
おれは飽きた。
毒状態になったヤマタノオロチがくたばるのを待ちながらうたた寝していると、遠距離通話スキルの呼び出しが入る。
アーグか。
この通話スキル、脳内で話せないのがたまにきず。
つまり、ここで通話すると、ケイティからはいきなり独り言を話し出したように見えてしまう。
「ケイティ。ちょっと、用事を思い出した。コツコツ続けていてくれ」
「了解です」
ケイティの瞳に、何か気がかりな光がよぎったような。
まぁ、いいか。
ケイティから離れたところで、通話に出る。
「アーグ。どーした?」
『世界征服計画進行中のところ、申し訳ございません師匠』
おい、おれの立ち位置が、いよいよ意味不明なものになっているぞ。
世界征服ってなに?
どこの妄想狂の発想?
こんどアーグとメアリーとはじっくり話す必要がありそうだが、とりあえず用事を聞いておくか。
「忙しいと分かっていて、なんの用事だ?」
『じ、実は、〈紫ガ城〉に、冒険者が』
ラスダンたる〈紫ガ城〉に来たということは、〈魂の欠片〉を14個集めたのか。
「〈帝〉の一人か?」
『いえ、それがどうやら、勇者という触れ込みでして』
「はぁ? なんだ、その勇者って」
『冒険者の王、みたいな感じです。魔王を討つ者』
「そんなジョブがあったのか」
『ジョブというより、称号でしょうか』
「よく分からんが、いま戻る」
次元の裂け目を使えば、空間転移も可能。
しかしその前に、ケイティに断っておくか。
いったんケイティのもとに戻り、思ったより用事が長引きそうだ、と話しておく。
「分かりましたソルトさん。私も試してみたいことがありましたので、大丈夫です」
「そうか」
試してみたいこと? まぁ、いいや。
少し離れてから、紫ガ城に空間転移で戻る。
「アーグ、戻ったぞ。あっ、」
首無し騎士アーグが八つ裂きにされているところだった。もちろん勇者に。
そのとなりでは、すでに【堕落した聖女】メアリーが討たれている。
「おっと、やけに気が短いお客さんだな」
バトルフォルムになり、〈魔滅の大槌〉を構える。
勇者とやらは、まだ10代の少女だった。桜色の甲冑を身にまとい、桜色の髪を伸ばしている。とりあえず、この勇者の好きな色だけは分かった。
「勇者だかなんだか知らんが、おれは忙しい」
初っ端から、〈時間跳躍ディレイ攻撃〉で決めよう。
しかし勇者は距離を取る。
〈時間跳躍ディレイ〉の唯一の弱点は、近距離攻撃専用だから距離を取られると意味がないこと。
それを直感で気づいたか。
ステータスを見やると、その勇者のレベルは、15。
レベル15? いや、そんなはずがない。レベル15で、ラスダンに挑めるはずがない。
「わたしのレベルを見たの? それは意味がないことよ。わたしは、バグだから。分かる、ソルトさん?」
「冒険者には【破壊卿】と呼んでもらいたいものだな。お前、何者だ?」
「だからバグだと言っているでしょう。そして、ここであなたと戦うつもりもないの。いまは、あなたがラスボス役なのでしょう? 〈サリアの大樹〉を管理している。だからこそ、あなたと取引がしたくて来たのよ」
「取引だと? ふっ。このおれに取引を持ちかけようとは、思い上がった人間だな」
と、威厳たっぷりに言いながら、おれはいろいろと思ったね。
まてまて、バグってなに?
というか、なんでおれがラスボス役って知っているの?
この子、なんか怖いんだけど。ちょっと。




