44,レベル上げとは、無心で行うものだ。
アレックス君、王都の高級住宅街に自宅を持っていた。
冒険者というのは、大きく二種類にわかれる。
魔人との戦いのため、ひたすら自らを鍛え、レベル上げするストイックタイプ。
ある程度の高位レベルに達し、成長の鈍麻が起きたところで、ちょうどよいダンジョンを巡回しては、金目の素材を回収しまくるタイプ。
アレックスは後者タイプとみた。
儲かっているのは結構ですね。
結界の類も張ってないので、普通にお邪魔侵入する。
アレックス君、寝室のほうで、複数の女を連れ込んでの、乱交中だった。いや、そのうち何人かは、本人の同意なしだな、これは。
おれは寝室に入って、咳払いしておく。
「アレックス君。そういう悪さをするのは、いただけんな」
そこは人間性は腐っても、130レベル冒険者。
驚きつつも、ベッドから飛び出す。一瞬で全身を軽装鎧がまとい、右手にはそこそこレアリティの高い剣が握られている。
「なんだ貴様!」
「ツール鞄もらいにきた人」
ただの頓馬だとでも思ったのか、すっかり余裕を取り戻し、小ばかにしたように笑う。
「この僕が、誰か分かっているのか? 〈ソードマスター〉を極めたアレックスだぞ!」
どうかな。〈ソードマスター〉のジョブには到達したようだが、まだまだ深みには達していない。
〈ソードマスター〉といえば、〈気〉のパッシブスキルが有能だが、一切使用していないところを見ると、まだ会得していないなアレックス君。
女たちが悲鳴を上げて逃げていったのを見届けてから、おれはバトルフォルムになった。
はじめこそ、「なぜ【破壊卿】がここに?」と驚愕していた、レイプ犯のアレックス君。
しかし、すぐにまた余裕を取り戻し、嘲笑を浮かべた。
「お前がなぜ僕の家にいるのか知らないが、この雑魚ボスめ。また、僕にパリィされにきたのか?」
「アレックス君、少々、情弱じゃないかな。おれはもう、とっくに〈暴力墓〉のボスではないし」
〈魔滅の大槌〉を振り上げる。
「ほら来たな、パリィでダウンされろ雑魚が!」
もちろん、こちらはディレイしたので、アレックス君のパリィは失敗に終わる。
「な、なんだと!????」
「われ、ディレイを覚えた也」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ぐちゃり。
さて、アレックス君を殺したことで、異空間収納スキルでため込んでいたものが、どばっと外に出てきた。
その中には、お求めのツール鞄。
ツール鞄、ゲットだぜー。
夜中だから、変なテンション。
朝までに、ケイティのいる町まで戻る。
朝食の席で、おれはツール鞄を出して見せた。
「実は、先輩冒険者が急に引退するといって、昨夜、これをおれのもとに届けてくれたんだ」
「え、そんなことがあるのですね。では、これで?」
「純度の高い毒矢を、アイテム作成できる。そのための素材集めに数日使うだろうが」
「私たちのような新米冒険者は、コツコツこそが、大事ですよ」
「その心意気だ」
四日後。
大量の純度の高い毒矢を持って、ヤマタノオロチのもとまで戻る。
今回もケイティは毒矢を外しまくったが、こちらはこっそり精密射撃スキルを使い、ヤマタノオロチの眼を連続で射る。
「おお、ついにヤマタノオロチを毒状態にした」
毒蓄積が一定に達することで、どんな魔物でも、毒状態となる。
ただし幹部クラスの魔人なら、自分で治癒できる術はいくらでもある。が、ヤマタノオロチならば、問題なし。
「毒状態にしてしまえば、これ以上、毒矢を当てても意味はない」
「すると、あとは何をすれば?」
「待ちだな」
三十分経過。
日向が気持ちよく、うとうとしていたら、どしんという地響きが起きた。
ヤマタノオロチが、ついに毒死したのだ。
大量の魔水晶が、おれとケイティのもとへと放たれる。
一気にレベルが58まで上がった。
「凄いです、ソルトさん! 力がみなぎります!」
「じゃ、いったん去ってからまた戻ってくるぞ。ヤマタノオロチが復活しているから、同じことを繰り返す」
レベル上げとは、無心で行うものだ。




