43,ツール鞄が欲しい。
下級ダンジョンの最上層付近で、ゴブリン殺しまくって帰る。
で、またダンジョンに入り、同じようにゴブリン殺しまくって、やはり帰る。
へたに最深部とかまで行ってボス戦となると、生死がかかってくるので、やらん。おれはともかく、ケイティの場合、死んだら復活できないからな。
かくして目標のレベル23になったので、〈存在薄弱〉スキルを獲得。
〈義人墓〉の近くの谷底まで戻り、今度こそ〈存在薄弱〉スキルを発動した状態で、崖上からヤマタノオロチに毒矢攻撃。
ちなみに、おれとケイティはパーティ設定しているので、獲得できる魔水晶も山分け。
どちらの毒矢が当たってもいいわけだ。
ということで、こちらはこっそりと精密射撃スキルを使っておく。
冒険者ならば、通常アーチャー系のジョブにならないと入手できないスキルだが、こちらは追放されても元魔人幹部が一体。
低レベルの精密射撃でいいならば──たとえば、50キロ遠くからコインを射抜く、とかいう冗談みたいなレベルでなくていいならば、好きなだけ使える。
「外しても気づかれないのは有難いですが、まったく当てりません。あの、小さな眼に」
と、ケイティが嘆くとなりで、こっそり精密射撃モードで、毒矢を発射。
ヤマタノオロチのひとつの頭の眼に命中。
「お、当たったー。精密射撃スキルを使わなくても、この距離で当てられるものだなぁー」
棒読み。
しかしケイティは、素直に信じて小さく拍手する。
「凄いです、ソルトさん」
「いやぁ、マグレだろ。マグレ。次は当たらんよー。と思ったが、また当たったぞー」
棒読み。
それからも毒矢を当てまくる。たださすがに百発百中では、ケイティも疑うかもしれないので、たまには外したりするわけだ。
で、毒矢を当てて、毒を蓄積させていく。あとは毒状態にして、ヤマタノオロチが死ぬのを待つだけ。
しかし……
「どうかしましたか、ソルトさん?」
小枝をペンがわりに、地面に数式を書く。
「……面倒くさくて計算しなかったんだ。与える毒容量と、ヤマタノオロチの通常の全状態異常への耐性値、さらにバカ重い体重を踏まえて計算すると」
「そんな計算法があるのですね? どこで学べますか?」
「えーーー、本。本を読みなさい、本を」
「読書の大切さですね」
実際のところ、この手の計算式は、魔人の基本知識としてある。サリア様が、おれたちを生み出すときにお与えくださったのだろう。
で、問題は計算結果だが。
「おっと。このままだと、2万3千発の毒矢を打ち込まないと、ヤマタノオロチを毒状態にできないぞ」
「え………………」
ケイティが絶句するのも分かる。楽勝の魔水晶稼ぎと聞いていたのに、と文句も言いたいだろう。
いやぁ、ちょっとヤマタノオロチを舐めていたな。
「毒の質がよくない。こんな、どこの村でも売っているような、へぼな毒矢じゃダメだ」
「はぁ。でしたら、もっと純度の高い毒矢を買いにいきます?」
「いや、たとえ売っていても、一本がバカ高い。まずヤマタノオロチを毒状態にする前に、破産してしまう。ここは自分たちで、アイテム作成するしかないな。もっと純度の高い毒矢を」
することは素材集め、いやまて、その前にアイテム作成のための万能道具、かのツール鞄を入手しないと。
まてよ。ツール鞄って、あれはダンジョンの宝箱にあったはず。
しかも最低でも推奨レベルが100以上の。
つまり下級冒険者はアイテム作成などできないということだ。
おれがバトルフォルムになって、推奨レベル100以上のダンジョンの宝箱を漁ってもいいが……
「なぁ、ケイティ。たとえば、死んでも惜しくない、レベル120くらいの冒険者とか、心当たりあるか?」
「……………いえ、冒険者の仲間に死んでもいいなんて、そんなこと思ったことありません」
「だよなぁ」
「ですが……友達の女冒険者が受けた被害のことなんですが。ソルトさん。ここだけの話にしてくださいね」
信頼のもと話してくれたのは、アレックスという冒険者のこと。
新米の女冒険者を、先輩風ふかして指導するフリして、寝技に持ち込む。
ようはレイプしているようだ。
しかしアレックスはレベル132の冒険者。新米の女冒険者は泣き寝入りするしかない、とか。
死んでも惜しくない。というか、死んだほうが人のため。
しかもレベル132なら、ツール鞄も所持していることだろう。
まったくもって、所持してることだろう。
よし、アレックス君。いま会いにいくぞー。




