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42/107

42,毒で殺すのは時間がかかるが確実だ。

 


 ダンジョン領域というものがある。


 これはダンジョン外の一部も、ダンジョン扱いされている場所。 

 よって、このダンジョン領域では、外の世界でも魔物がいたりする。


 この魔物の再生権限は、そのダンジョン領域のボスにある。

 ようは、殺してもちゃんと復活するというわけだ。


【碁怒卿】は、14幹部の中でも上位にくる魔人。

【碁怒卿】が管理するダンジョン〈義人墓〉は、冒険者推奨レベル350以上。


 そんな〈義人墓〉の外にも、一体、中ボス格の魔物がいる。

 ヤマタノオロチが。

〈義人墓〉から数百メートル離れた、谷底だ。


 おれはケイティを連れて、この谷底を見下ろせる崖上にまで来た。

 ヤマタノオロチが、その巨躯は八つの首で、ウロチョロしている。暇そうだな。


「どうも、もともとは、〈義人墓〉の入口に門番のようにいた魔物らしい。ところがあるとき、谷底に復活してしまった。【碁怒卿】は細かいことは気にしない性格だから、そのまま放置している。で、この谷底は、〈義人墓〉の裏手にあるので、ほとんどの冒険者は気づかない」


 と、おれが説明すると、ケイティが困った様子で。


「あの、たとえ気づいても、スルーしますよね? ヤマタノオロチって、話には聞いたことがありますけど、強いですよね? というか、たしか八俣城のボスじゃなかったですか?」


「八俣城は推奨レベル150だっけ。まぁ、『あそこのボスがモブ敵やっているのか』は最高位ダンジョンのあるあるだから」


「はぁ。それで、ヤマタノオロチをどうするのです?」


「ヤマタノオロチ・マラソン。殺して魔水晶を獲得し、復活するのを待って、また殺す。これを繰り返していれば、数日で、レベル250はいけるだろ」


「そ、そんな! どうやって推奨レベル150のボスを、そんな易々と倒すんですか? しかも見てくださいよ。あの谷底の狭いこと。ヤマタノオロチの巨大さで、ほぼ動ける空間が限られてしまっています。まともに回避もできませんよ」


「谷底に降りる必要はないんだよ。ヤマタノオロチは毒属性攻撃に弱い。まぁ弱点ってほどじゃないが、あのクラスの魔物で耐性がないのは、相当だぞ」


 毒攻撃ほど冒険者有利なものはないので、上位魔物や魔人は、たいてい毒耐性を持っているものだからな。


「あ、分かりました! この崖の上から毒攻撃して、毒状態にして倒すんですね? 確かに、それなら安心安全です! ではさっそく」


 と、意気揚々とケイティが弓に毒矢をつがえて、放つ。


「あー、ケイティ。なんてことを」


 毒矢は、ヤマタノオロチの表皮に弾かれる。ダメージゼロ。当然、毒蓄積もゼロ。

 しかも攻撃したことはバレたので、ヤマタノオロチの八つの頭がこちらを向く。


「逃げるぞ、ケイティ!」


「え? でもヤマタノオロチは谷底に」


「これくらい飛び越えられるんだよ! 普段は谷底にいるが、外から攻撃を受けたら飛び出してくる!」


「そ、そ、そんな!」


「とにかく〈義人墓〉の領域外まで、走れ!!」


 というわけで、死に物狂いで走って、脱出。

 ぜいぜいと荒い息をついているケイティを、おれは見やって。


「あのな、人の話は最後まで聞け。ちょっとヤマタノオロチを紹介しただけだ。まずおれたちは、レベル23まで、ほかの手段で上げる。そうして、レベル23で会得できる〈存在薄弱〉のスキルを覚える」


「〈存在薄弱〉ですか?」


「まぁ、存在が希薄になるので、魔物に気付かれにくくなるスキルだな。ただダンジョン内じゃ、あんまり役に立たない。少しでも近づけば、すぐにバレるし。ただし谷底にいるヤマタノオロチには、〈存在薄弱〉を使っていれば、攻撃しても気づかれない」


「ですが毒矢は通らなかったですよ?」


「表皮はな。眼を狙うんだ。八つの頭のどれでもいいが、とにかく眼だ。だから理想は、精密射撃系のスキルも会得することだが──君、〈アーチャー〉になる気はないよな?」


「いまのところは」


「じゃ精密射撃スキルは諦めよう。まぁ頑張れば、眼を射れるだろう。それを繰り返して毒蓄積を溜めて、毒状態にする。あとは放っておけば大物殺し成功だ」


「もうひとついいですか? レベル23までは、どうやって上げます?」


「この近くに低級ダンジョンがあるから。そこでゴブリン狩りを、ひたすら、淡々とする」


「了解です」


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