42,毒で殺すのは時間がかかるが確実だ。
ダンジョン領域というものがある。
これはダンジョン外の一部も、ダンジョン扱いされている場所。
よって、このダンジョン領域では、外の世界でも魔物がいたりする。
この魔物の再生権限は、そのダンジョン領域のボスにある。
ようは、殺してもちゃんと復活するというわけだ。
【碁怒卿】は、14幹部の中でも上位にくる魔人。
【碁怒卿】が管理するダンジョン〈義人墓〉は、冒険者推奨レベル350以上。
そんな〈義人墓〉の外にも、一体、中ボス格の魔物がいる。
ヤマタノオロチが。
〈義人墓〉から数百メートル離れた、谷底だ。
おれはケイティを連れて、この谷底を見下ろせる崖上にまで来た。
ヤマタノオロチが、その巨躯は八つの首で、ウロチョロしている。暇そうだな。
「どうも、もともとは、〈義人墓〉の入口に門番のようにいた魔物らしい。ところがあるとき、谷底に復活してしまった。【碁怒卿】は細かいことは気にしない性格だから、そのまま放置している。で、この谷底は、〈義人墓〉の裏手にあるので、ほとんどの冒険者は気づかない」
と、おれが説明すると、ケイティが困った様子で。
「あの、たとえ気づいても、スルーしますよね? ヤマタノオロチって、話には聞いたことがありますけど、強いですよね? というか、たしか八俣城のボスじゃなかったですか?」
「八俣城は推奨レベル150だっけ。まぁ、『あそこのボスがモブ敵やっているのか』は最高位ダンジョンのあるあるだから」
「はぁ。それで、ヤマタノオロチをどうするのです?」
「ヤマタノオロチ・マラソン。殺して魔水晶を獲得し、復活するのを待って、また殺す。これを繰り返していれば、数日で、レベル250はいけるだろ」
「そ、そんな! どうやって推奨レベル150のボスを、そんな易々と倒すんですか? しかも見てくださいよ。あの谷底の狭いこと。ヤマタノオロチの巨大さで、ほぼ動ける空間が限られてしまっています。まともに回避もできませんよ」
「谷底に降りる必要はないんだよ。ヤマタノオロチは毒属性攻撃に弱い。まぁ弱点ってほどじゃないが、あのクラスの魔物で耐性がないのは、相当だぞ」
毒攻撃ほど冒険者有利なものはないので、上位魔物や魔人は、たいてい毒耐性を持っているものだからな。
「あ、分かりました! この崖の上から毒攻撃して、毒状態にして倒すんですね? 確かに、それなら安心安全です! ではさっそく」
と、意気揚々とケイティが弓に毒矢をつがえて、放つ。
「あー、ケイティ。なんてことを」
毒矢は、ヤマタノオロチの表皮に弾かれる。ダメージゼロ。当然、毒蓄積もゼロ。
しかも攻撃したことはバレたので、ヤマタノオロチの八つの頭がこちらを向く。
「逃げるぞ、ケイティ!」
「え? でもヤマタノオロチは谷底に」
「これくらい飛び越えられるんだよ! 普段は谷底にいるが、外から攻撃を受けたら飛び出してくる!」
「そ、そ、そんな!」
「とにかく〈義人墓〉の領域外まで、走れ!!」
というわけで、死に物狂いで走って、脱出。
ぜいぜいと荒い息をついているケイティを、おれは見やって。
「あのな、人の話は最後まで聞け。ちょっとヤマタノオロチを紹介しただけだ。まずおれたちは、レベル23まで、ほかの手段で上げる。そうして、レベル23で会得できる〈存在薄弱〉のスキルを覚える」
「〈存在薄弱〉ですか?」
「まぁ、存在が希薄になるので、魔物に気付かれにくくなるスキルだな。ただダンジョン内じゃ、あんまり役に立たない。少しでも近づけば、すぐにバレるし。ただし谷底にいるヤマタノオロチには、〈存在薄弱〉を使っていれば、攻撃しても気づかれない」
「ですが毒矢は通らなかったですよ?」
「表皮はな。眼を狙うんだ。八つの頭のどれでもいいが、とにかく眼だ。だから理想は、精密射撃系のスキルも会得することだが──君、〈アーチャー〉になる気はないよな?」
「いまのところは」
「じゃ精密射撃スキルは諦めよう。まぁ頑張れば、眼を射れるだろう。それを繰り返して毒蓄積を溜めて、毒状態にする。あとは放っておけば大物殺し成功だ」
「もうひとついいですか? レベル23までは、どうやって上げます?」
「この近くに低級ダンジョンがあるから。そこでゴブリン狩りを、ひたすら、淡々とする」
「了解です」




