4,冒険者と遭遇。
〈ガリア城塞〉まで向かうのに三日もかかった。
国境検問所とかいうもののせいで。
人間たちの国家も、昔はひとつの超大国しかなかったものだが。何度かの内戦以降は細かく分かれており、そのせいか国家間移動も面倒くさい。
一応、おれはバトルフォルムでない限り、人間のおっさんにしか見えない。
だから魔人として無駄な争いに巻き込まれることはないわけだ。
まぁこれは良かった。
というのも、自分のダンジョンでもないのに人間を殺しても、なんのポイントにもならんからな。
それにおれは古風なたちだから、冒険者以外の人間は殺さんのだ。
ただ人間のフリしても、どこの国籍だとか、なんの仕事をしているんだとか、国境を渡るたびに問いただされて、だるいにもほどがあった。
人間は魔人と戦うだけじゃ飽き足らず、同族同士でも殺しあっているからなぁ。暇人どもが。
とにかく、ようやくわが妹が支配している〈ガリア城塞〉の前に到着した、わけだが。
「どっから入るんだ、これ?」
おれの〈暴力墓〉は、地下ダンジョンとはいえ入口が明々白々だったが。
この〈ガリア城塞〉、難攻不落を絵に描いたようなところで、どこに入り口があるのかさえよく分からん。
困っていると、三人の人間が馬車に乗ってやってきた。
いや、あれは冒険者どもか。
おれも伊達に、ボスをやっていた身じゃない。一目でわかる。
まぁ剣と槍装備と、あと魔術杖装備。これを見て商人とは思わんだろうが。
冒険者には、二タイプある。
ソロ派か、パーティ組む派。
ソロでがんがん進む奴のほうが、上位者は多い。
ただパーティを組んでいる奴らが雑魚かというと、そんなこともない。たとえ各人が低レベルでも、それぞれの個性を生かした戦いかたをされると厄介だ。
まぁ全員がパリィスキルを取得していることは、疑いの余地もないがな。
つーか、憎きパリィスキル。
冒険者がどんなビルドでも取得できるって、自由がききすぎだろ。
せめて『技術系を伸ばしている戦士タイプだけ』とか、限定しろよ。
魔術師でもパリィできるって、嫌がらせかよ。まえ、聖女にパリィ決められたときは、屈辱で死にたくなったんだが。
おっと、つい愚痴っぽくなってしまった。まぁ冒険者どもだ。近接戦士が二名に、後方魔術師が一名。
国家は数多あり、国境をわたるのも一苦労。
ただし冒険者だけは別だ。
冒険者ギルドは、それこそ魔人と同じくらい歴史が古い。
で、ギルドの権威だけは絶対で、国家権力でも手出しできない。
よって冒険者カードを所持していると、検問所も即パスするそうだ。
冒険者たちが、おれを見た。
あ、ヤバい。【破壊卿】ってバレたか? いや、人間フォルムなので、その心配はないばずだが。
リーダー格が歩いてきて、なんか『分かっているぜ』という顔をされた。やはり、バレたか?
「あんた、ファンだな」
はじめ、『ファン』という名前の奴と間違われたのかと思ったが、これはあれか。サインとか欲しがるファンか。
「……あ、はい。です」
「ふっ。やはりか。オレたち、〈牙の閃き〉も、有名になったもんだぜ。天空城ダンジョンをクリアしたのが、大きかったかな」
冒険者も名をあげると二つ名で呼ばれるようになるが──この間抜けが、そんな上位プレイヤーには思えん。あぁ、パーティ名のことか。天空城を攻略したんなら、中程度のパーティレベルはありそうだ。
「あのー。あんたたち、天空城をクリアしたんで? 攻略難易度Bランクの?」
ほかの二名も歩いてきた。
リーダー格は傲慢そうに言う。
「そうさ。まぁオレたちの手にかかれば、楽勝だったがね」
「はぁ。それで、まさか次はこの〈ガリア城塞〉に挑もうって? いやあ、悪いことは言わんから、やめたほうがいいよ」
とたんリーダー格がムッとした様子。他人からの助言を聞かないタイプだな、これは。
「なんだと? おい、一般市民の分際で、生意気なことを言うんじゃない。斬るぞ」
リーダー格のそばにいた、魔術師の女が、おれを小ばかにした様子で言う。
「やめなさいよ。庶民には、冒険者のことなんか分かりはしないんだから」
おー、驚きだな。
冒険者って、自分がほかの人間より優れていると思っている奴らなのか。まあ全員がそうだとは思わんが。正直、これまで人間といえば冒険者としか接していなかったので、新鮮だな。
「すみません、偉そうなことを言って」
面倒はごめんなので、おれは大人しく引き下がった。
「ちっ。身の程をわきまえろよ」
とリーダー格が苛立たしそうに言ってから、仲間を率いて、〈ガリア城塞〉に入っていく。
攻略難易度SSSランクの、わが妹のダンジョンへ。
「あー、あそこが入口なのか。ひとつだけ役に立ったな、あいつらも」
というわけで後ろから、冒険者どもにこっそりついて行くか。
運がよければ、最下層にいる妹のもとまで案内してくれるかもな。
まぁ、可能性は低そうだが。