38,推奨レベルは正しく。
人間フォルムならば、人間社会に溶け込むことも可能。
通常、冒険者たちにはバトルフォルムしか見せていないしな。
唯一の例外は、ドラゴンライダーのミシェルくらいか。
ミシェルと連絡を取りたかったが、住所とか聞いてなかった。
仕方ない。
とりあえず冒険者ギルド本部のある、ガル国の王都に向かう。
冒険者には、どこの都市でもギルド支部さえあれば入れるが、このガル国王都が、『はじまりの町』的な立ち位置で、新米冒険者に人気が高い。
何より、近くには〈暴力墓〉もあるので。
ガル国王都まで片道八日の旅。
人間として、徒歩やら乗合馬車やらを使ったため。
以前、セーラからもらったクラ国の身分証が役立った。
ガル国とクラ国は友好関係であるため、国境移動もすんなり。
で、ガル国王都で、さっそく冒険者ギルド本部に行き、入会手続き。
この入会のための書類には、ジョブなどの書き込み欄もあった。
「なんだって、ジョブ?」
ジョブはまだ定まっていない場合、ジョブ希望でも良いとか。
しかし、まだ本格的に冒険者として生きる前から、ジョブ希望なんて決めていいものか?
魔法系のジョブになりたいと思っていても、実際は脳筋系こそ天職かもしれんのに。
自分がどんな戦いかたが向いているのか、それは経験の中で知っていくもので、この段階で可能性を定めてしまっていいのか?
ということを受付係に熱弁したら、面倒そうな顔をされたので、大人しく〈ローニン〉にしておく。
これ、一度だけ遭遇したことのある、メチャクチャレアなジョブ。
その後、最低限の実力があるかテストされた。
ようはギルド側の者との模擬戦で。
ここで能力を出し過ぎてしまい、『あの新米冒険者、ただものではない!』という噂がたつ。
という心配は一切ない。人間フォルムのままだと、雑魚いので。なんのためのバトルフォルムだと思っているんだ。
しかし人間フォルムでも、パリィはできたので、合格。
とりあえず、このパリィ神話をどうにかしろ。
「さて、晴れて冒険者か。では、まずは何をしたものか」
人間フォルム時のレベルは、5か。
そういやバトルフォルム時のレベルとか、気にしたことがないな。
とにかく冒険者レベル5だとやれることが少ない。
こっちはとっとと〈暴力墓〉に行き、正しい推奨レベルを確認したいのだが。
ちなみに、おれがボスをしていたころの〈暴力墓〉の挑戦推奨レベルは、15から。
『最初の関門』としては、これは高いのか低いのか。
いずれにせよ、【消滅卿】がボスになってからも、推奨レベルは15なのか?
ボスが変わったのだから、情報も更新されているはず。
「あの、先ほどテストを受けていたかたですよね?」
と、声をかけられた。
振り返ると、初期装備のお手本のような、ただの剣と盾装備の女冒険者が立っている。
「はじめまして、私はケイティといいます」
「はじめまして。おれは、ソルトです」
ケイティはくすりと笑って。
「【破壊卿】と同じ名前なのですね」
え。おれの本名情報、出回っていたの?
なんかショック。
「ははっ……そう、そんな偶然。だけど、おれの地元じゃ、ソルトという名は、よくあるもので」
「そうなんですね。あの、よろしかったら、私とパーティを組みませんか? 実は私も、先ほど冒険者テストをクリアした者でして」
「はぁ」
こっちは【破壊卿】なんだし、ソロで動きたいところだ、が。
パーティを組めば、〈暴力墓〉の推奨レベルがぐんと下がるか。
「一時的、ということなら」
ケイティは嬉しそうに言う。
「本当ですか? 良かった。私、ソロには自信がなくて」
「じゃ、さっそく手近の森とかでレベル上げしようか」
「はぁ。ですが、ほかの新入り冒険者たちはみな、〈暴力墓〉に向かわれるそうですよ?」
「なんだって? さすがに推奨レベル15の〈暴力墓〉にいきなりは、厳しいだろうに」
ケイティが不思議そうな顔をする。
「推奨レベル15? いえ、〈暴力墓〉の挑戦推奨レベルは5ですけど?」
まてよ。なんか、これは陰謀くさいんじゃないか?




