37,苦労性。
〈紫ガ城〉に異動して良かったのは、ここがラスダンということか。
ラスダンなので、冒険者が挑戦するための条件が厳しい。
魔人14幹部が所持する〈魂の欠片〉14個を入手する必要がある。
厳密には──〈魂の欠片〉はそれぞれの幹部が、自分の分を無限に所有しているわけだが。
そうでないと、ラスダン突入できる冒険者が一人になってしまうからな。
それと、ラスダンのボスであった【廃都卿】、こいつも幹部14体の一体だが、その〈魂の欠片〉は、【廃都卿】がラスダン異動する前にいたダンジョンにあり、その後釜にすわった幹部が二つ所有しているらしい。
なんという、どうでもいい情報か。
とにかく滅却対象にまでされたが、これで一息つける。
いくら滅却したくとも、まずはラスダン入りするための条件を満たさねばならないからな。
しかし──
〈滅却絡繰り〉を、いまだに妹のセーラが持っている事実。
冒険者ギルドには、まだ二つ〈滅却絡繰り〉が保管されているはず。
これを使うときのとてつもない代償が、セーラは支払っていないのはなぜなのか。
セーラが、規格外の魔人だからか。
または、もっと別の理由からか。
とにかく、セーラがこれ以上、同僚を消さないことを祈るしかない。
で、もう一つの問題は、どうしたものか。
わが元ダンジョン、〈暴力墓〉。
ここで冒険者と魔人のバランスも考えず、ドヤ顔(ここは予測)で新米冒険者たちを殺しまくっている、【消滅卿】。
【消滅卿】に、時には手加減して、わざと負けることの重要性を説きたいものだが。
あいつ、おれの言葉を聞きそうにないからなぁ。
もっと解決のアプローチを変える必要がある。
あぁ、悩ましい。
ラスダンの玉座に腰かけて──ほかに椅子がないから、これに座っているわけ──溜息をついていると、だ。
アーグとメアリーの会話が聞こえてくる。
「見ろ、汚濁した聖女よ。われわれの師匠が、溜息をつかれている」
「はぁ。わたしは【堕落した聖女】、またはメアリーですが。あの、アーグさん。名前を間違えるの、これで何回目だと思っています? あと、わたしは厳密には、ソルトさんの弟子ではありませんが」
「くだらんことを抜かすな。それより、師匠はなにを悩んでおられるのか」
「それはもう、世界を統べるプランのことでしょう。それ以外に、何かありますか?」
「うむ、確かに。さすが、わが師匠。魔人の王となるだけでは、その偉大なる野望は止まらぬのだな。人類世界も支配しようとされている」
「はい。さすがです、ソルトさんは」
なんだ、この二人の、当人たちの妄想入っている会話は。
こっちは人類と魔人のバランスのことで悩んでいるのに、なんだって人類を支配する話になっているんだ。
とにかく〈暴力墓〉が、いまだに初心者用のダンジョン、という認識がまずいんじゃないか?
自力で【消滅卿】を倒せる者だけが、〈暴力墓〉に行くようにすればいい。
つまり取り掛かるべきは、まず現在の〈暴力墓〉の、正しい推奨レベルの割り出し。
さらに、〈暴力墓〉にとってかわる、新たな初心者用ダンジョンの見つけ出しか。
おれは玉座から立ち上がった。
これらを確かめるためには、フィールドワークしかない。
「おれは、少し出ている。万が一、このラスダンに冒険者が来たら、アーグ、首無し騎士として、全力で止めろよ。ラスボス部屋にだけは来させるな」
「師匠。了解しましたが、一体どちらに向かわれるのですか?」
「とりあえず冒険者になってくる」
アーグとメアリーが顔を見合わせる。
「【堕落した聖女】よ、師匠のおっしゃることが理解できるか?」
「ソルトさんの、世界を統べるための計画が動き出したということでは?」
「おお、なるほど」
いや、なるほどじゃないだろ。




