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37/107

37,苦労性。

 


〈紫ガ城〉に異動して良かったのは、ここがラスダンということか。


 ラスダンなので、冒険者が挑戦するための条件が厳しい。

 魔人14幹部が所持する〈魂の欠片〉14個を入手する必要がある。


 厳密には──〈魂の欠片〉はそれぞれの幹部が、自分の分を無限に所有しているわけだが。

 そうでないと、ラスダン突入できる冒険者が一人になってしまうからな。


 それと、ラスダンのボスであった【廃都卿】、こいつも幹部14体の一体だが、その〈魂の欠片〉は、【廃都卿】がラスダン異動する前にいたダンジョンにあり、その後釜にすわった幹部が二つ所有しているらしい。


 なんという、どうでもいい情報か。


 とにかく滅却対象にまでされたが、これで一息つける。

 いくら滅却したくとも、まずはラスダン入りするための条件を満たさねばならないからな。


 しかし──


〈滅却絡繰り〉を、いまだに妹のセーラが持っている事実。


 冒険者ギルドには、まだ二つ〈滅却絡繰り〉が保管されているはず。

 これを使うときのとてつもない代償が、セーラは支払っていないのはなぜなのか。


 セーラが、規格外の魔人だからか。

 または、もっと別の理由からか。


 とにかく、セーラがこれ以上、同僚を消さないことを祈るしかない。


 で、もう一つの問題は、どうしたものか。


 わが元ダンジョン、〈暴力墓〉。

 ここで冒険者と魔人のバランスも考えず、ドヤ顔(ここは予測)で新米冒険者たちを殺しまくっている、【消滅卿】。


【消滅卿】に、時には手加減して、わざと負けることの重要性を説きたいものだが。

 あいつ、おれの言葉を聞きそうにないからなぁ。


 もっと解決のアプローチを変える必要がある。

 あぁ、悩ましい。


 ラスダンの玉座に腰かけて──ほかに椅子がないから、これに座っているわけ──溜息をついていると、だ。


 アーグとメアリーの会話が聞こえてくる。


「見ろ、汚濁した聖女よ。われわれの師匠が、溜息をつかれている」


「はぁ。わたしは【堕落した聖女】、またはメアリーですが。あの、アーグさん。名前を間違えるの、これで何回目だと思っています? あと、わたしは厳密には、ソルトさんの弟子ではありませんが」


「くだらんことを抜かすな。それより、師匠はなにを悩んでおられるのか」


「それはもう、世界を統べるプランのことでしょう。それ以外に、何かありますか?」


「うむ、確かに。さすが、わが師匠。魔人の王となるだけでは、その偉大なる野望は止まらぬのだな。人類世界も支配しようとされている」


「はい。さすがです、ソルトさんは」


 なんだ、この二人の、当人たちの妄想入っている会話は。

 こっちは人類と魔人のバランスのことで悩んでいるのに、なんだって人類を支配する話になっているんだ。


 とにかく〈暴力墓〉が、いまだに初心者用のダンジョン、という認識がまずいんじゃないか?


 自力で【消滅卿】を倒せる者だけが、〈暴力墓〉に行くようにすればいい。


 つまり取り掛かるべきは、まず現在の〈暴力墓〉の、正しい推奨レベルの割り出し。

 さらに、〈暴力墓〉にとってかわる、新たな初心者用ダンジョンの見つけ出しか。


 おれは玉座から立ち上がった。

 これらを確かめるためには、フィールドワークしかない。


「おれは、少し出ている。万が一、このラスダンに冒険者が来たら、アーグ、首無し騎士として、全力で止めろよ。ラスボス部屋にだけは来させるな」


「師匠。了解しましたが、一体どちらに向かわれるのですか?」


「とりあえず冒険者になってくる」


 アーグとメアリーが顔を見合わせる。


「【堕落した聖女】よ、師匠のおっしゃることが理解できるか?」


「ソルトさんの、世界を統べるための計画が動き出したということでは?」


「おお、なるほど」


 いや、なるほどじゃないだろ。


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