36,ラスボス就任。
仕方ないものは仕方ないので、対応した。
まず、〈紫ガ城〉は存続させた。
ラスダンが崩壊してしまっては、世界のバランスが崩れる。
そもそも〈サリアの大樹〉がこの地下にはあるのだからな。
というわけで、仕方なくおれがボスに紐づけ。
まさかラスダンのボスになるとは。
しかし、そんなこと公けになっては、いろいろと面倒だ。
ほかの幹部どもが認めるわけがないし、かといって、妹が【廃都卿】を消してしまったことを明かすわけにもいかない。
ではどうするか。
おれがボスとして紐づけることで、〈紫ガ城〉を存続させる。
そして【廃都卿】が生きているように、振る舞う。
不幸中の幸いとして、【廃都卿】は自身ではなく、使者を使って幹部たちに命令を下していた。
──だから、わざわざ妹を呼び出した理由は謎なわけだが。
とにかく、この使者役には事情を知っていて、口のかたい者を選べばよい。
ただし元【廃都卿】の部下では、いつ告げ口されるか分からないので、こちらの手札から切ることになった。
といっても、わが手札は豊富ではないが。
さらにいえば、首なし騎士アーグ一択だが。
このアーグを『【廃都卿】の新たな使者』として、あたかも【廃都卿】の命令で動いているかのように、ほかの幹部たちには思わせておく。
あと問題があるとしたら、冒険者がラスダンのボス部屋に到達した場合だが。
それは、ボス部屋に到着させなければいい。
つまり、ボス部屋に至る前に、モブ敵としておれが対峙し、申し訳ないが全滅してもらうというわけだ。
「やれやれ。いつまで誤魔化せるかは分からないが、このプランでいくとしよう」
〈紫ガ城〉のボス部屋に移動して、頭を悩ませつつ、計画を話した。
これまで黙って聞いていたアーグだが、すっかり感動した様子で。
「さすが師匠です。妹君を使い、魔人の王を仕留めさせるとは。しかも、自らが滅却対象となることで、冒険者ギルドに〈滅却絡繰り〉を持ちださせる。それを妹君に奪わせて使わすことで、邪魔な【廃都卿】が、二度と復活しないようにするとは。悪魔のような策略ですな!」
「そんな偶然要素のありすぎる頭脳戦を仕掛けるわけがないだろ」
と、 言いたいところだ、が。
ここはアーグには調子のよいことを言っておくか。
そうでないと、【廃都卿】の使者として振る舞うのを怠るかもしれん。
「あ、ああ、もちろん、すべては計画のうちだ。おれの掌のうえで、すべての駒たちが動いたに過ぎない。だからこそアーグ、しくじるなよ。いまはまだ、【廃都卿】が消滅したことは、極秘で進めねばならん。おれが、真の魔王となるためにはな」
いやぁ、サリア様、なんか申し訳ございません。
「そ、そんな壮大な計画が動いていたのですね!」
と、アーグとは別のところから感動の声がした。
視線を向けると、ボス部屋の入口に【堕落した聖女】ことメアリーの姿が。
「げっ。メアリー、いつからそこに?」
「ソルトさんが、すべては計画のうち──と、おっしゃったところからです」
「あー、そうなのかぁ」
まずい。おれの偽の企みを知られてしまった。
存在しない企みなのだが、これを真に受けられたら、面倒なことになるかも。
ところがメアリーは、おれのもとに駆けてきて、跪いてきた。
「やはりソルトさんは、ただものではありませんでしたね。セーラちゃんのお兄さまだけあります! 是非とも、このわたしも、正式に配下にお加えください!」
「……あー、よかろう」
余計なことを知ってしまった以上、メアリーも手元に置いておいたほうがいいだろう。
あー、妹よ。
お前のせいで、より面倒くさいことになってきた。
これなら、まだ冒険者にパリィされまくっていたころのほうが、マシだったんだが。




