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35/107

35,妹は可愛いものだなぁ。

 


 燃える〈紫ガ城〉。

 崩落が始まっているようだ。


 ダンジョンが崩落するということは、そこに致命的なトラブルが起きたことを意味する。

 ボスが死んだくらいでは、こんなことにはならない。


 いや〈滅却絡繰り〉を使って、ボスが存在を抹消されたのならば話は別か。

【廃都卿】。

 魔人の中でも最も強く(まぁ妹は別格だったらしいが)、サリア様亡きあと、ラスダンに君臨していた王が……


 やっちゃったのかぁ、セーラ。


 崩れゆく〈紫ガ城〉に入っていく。

 モブ敵の魔物たちが、消滅していくところだった。

 なるほど。モブ敵はダンジョンと紐づけられているので、ダンジョン崩落で消滅するのか。

 知らんかったぁ。


 やがて進むと、セーラを発見。


「あら、兄貴。なにしにきたの?」


「お前が〈炎の帝〉から、〈滅却絡繰り〉を奪うのを見たから、こうして何が起きたのか、確かめにきたんだ……まさか【廃都卿】をやっちまうとは……なんだって、また?」


 百歩譲って、【廃都卿】がセーラにセクハラしたから、とかならば仕方ない。

 それくらいの悪逆を働いたのならば。


「なぜって、あたしを偉そうに呼び出したからでしょ?」


「……それかぁ。それだけが、理由かぁ」


 ふとセーラが、いいことを思いついたという顔になる。

 妹の『いいこと』にろくなことはない。


 なんたって、衝動で魔人の王を滅却してしまうわけだし……呼び出したからって、そりゃあ、向こうは王だったからな。


「その顔はなんだ、セーラ?」


「ふふっ。そうだわ、兄貴。これがあたしからの誕生日プレゼント」


「…………は?」


「あげるわ。これからは、ここ〈紫ガ城〉が兄貴の本拠ダンジョンよ。いまは崩落しているけど、新たなボスが定まれば、ダンジョンや魔物も復活するでしょうし」


「いや、まて。お前、世の中はそんなふうに回ってないぞ。魔人の王を殺しておいて、そんな、何も問題が起きないと思っているのか?」


「思っているわよ。あたし、誰よりも強いし」


「セーラ。お前という妹は、妹は………そーいう問題じゃない。魔人だって、強ければなんでもよし、の世界じゃないんだぞ。大人の社会というものは」


「兄貴、怒っているの?」


「怒っている。これは、怒りの頂点に達している」


「ふーーーん」


 さて、セーラは兄の扱いかたがよく分かっている。

 その証拠に、見よ。


 涙目になって、潤んだ瞳で、おれを見上げてくる。

 そして、しゅんとした口調で。


「ごめんなさい。お兄ちゃんを困らせるつもりは、なかったのよ」


「……お前、こんなときだけ、そんな可愛いふりをしても、通用しない」


「あたしのこと、嫌いになっちゃった?」


「なるわけがないだろ。妹を嫌いになるものか!」


「お兄ちゃん!」


 ひしと抱き着いてくるセーラ。

 妹は可愛いものだなぁ。


「じゃ、兄貴。後始末はよろしく」


「……………」


 妹は、可愛いもの、だなぁ?



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