35,妹は可愛いものだなぁ。
燃える〈紫ガ城〉。
崩落が始まっているようだ。
ダンジョンが崩落するということは、そこに致命的なトラブルが起きたことを意味する。
ボスが死んだくらいでは、こんなことにはならない。
いや〈滅却絡繰り〉を使って、ボスが存在を抹消されたのならば話は別か。
【廃都卿】。
魔人の中でも最も強く(まぁ妹は別格だったらしいが)、サリア様亡きあと、ラスダンに君臨していた王が……
やっちゃったのかぁ、セーラ。
崩れゆく〈紫ガ城〉に入っていく。
モブ敵の魔物たちが、消滅していくところだった。
なるほど。モブ敵はダンジョンと紐づけられているので、ダンジョン崩落で消滅するのか。
知らんかったぁ。
やがて進むと、セーラを発見。
「あら、兄貴。なにしにきたの?」
「お前が〈炎の帝〉から、〈滅却絡繰り〉を奪うのを見たから、こうして何が起きたのか、確かめにきたんだ……まさか【廃都卿】をやっちまうとは……なんだって、また?」
百歩譲って、【廃都卿】がセーラにセクハラしたから、とかならば仕方ない。
それくらいの悪逆を働いたのならば。
「なぜって、あたしを偉そうに呼び出したからでしょ?」
「……それかぁ。それだけが、理由かぁ」
ふとセーラが、いいことを思いついたという顔になる。
妹の『いいこと』にろくなことはない。
なんたって、衝動で魔人の王を滅却してしまうわけだし……呼び出したからって、そりゃあ、向こうは王だったからな。
「その顔はなんだ、セーラ?」
「ふふっ。そうだわ、兄貴。これがあたしからの誕生日プレゼント」
「…………は?」
「あげるわ。これからは、ここ〈紫ガ城〉が兄貴の本拠ダンジョンよ。いまは崩落しているけど、新たなボスが定まれば、ダンジョンや魔物も復活するでしょうし」
「いや、まて。お前、世の中はそんなふうに回ってないぞ。魔人の王を殺しておいて、そんな、何も問題が起きないと思っているのか?」
「思っているわよ。あたし、誰よりも強いし」
「セーラ。お前という妹は、妹は………そーいう問題じゃない。魔人だって、強ければなんでもよし、の世界じゃないんだぞ。大人の社会というものは」
「兄貴、怒っているの?」
「怒っている。これは、怒りの頂点に達している」
「ふーーーん」
さて、セーラは兄の扱いかたがよく分かっている。
その証拠に、見よ。
涙目になって、潤んだ瞳で、おれを見上げてくる。
そして、しゅんとした口調で。
「ごめんなさい。お兄ちゃんを困らせるつもりは、なかったのよ」
「……お前、こんなときだけ、そんな可愛いふりをしても、通用しない」
「あたしのこと、嫌いになっちゃった?」
「なるわけがないだろ。妹を嫌いになるものか!」
「お兄ちゃん!」
ひしと抱き着いてくるセーラ。
妹は可愛いものだなぁ。
「じゃ、兄貴。後始末はよろしく」
「……………」
妹は、可愛いもの、だなぁ?




