34,〈虚炎〉。
──〈ガリア城塞〉──
なんか微妙な空気になった。
〈炎の帝〉が、思いだしたように、おれに向かって怒鳴る。
「てめぇ、どういうつもりだ? 妹を使って、私の〈滅却絡繰り〉を奪い取るとはなっ!」
「妹をコントロールできる立場にはないんだよ、おれは」
〈滅却絡繰り〉の持ちだしの件は、セーラも知っていた。
しかし、『〈炎の帝〉が〈滅却絡繰り〉を持ちだしたから、それを奪うことを計画に加えよう』などと、セーラが考えたとは思えない。
べつにセーラが、いつも考えなし、と言いたいわけではない。
が、あいつは基本、衝動で動いていそう。
つまり、『どこかの魔人に腹が立ったから、完全に殺してやりたくなった。そういえば滅却指令を受けて、〈炎の帝〉が〈滅却絡繰り〉を持ちだしているんだっけ。じゃ、奪って使おう』という、流れだったのに違いない。
まてよ。
妹が呼び出されて会いに行った相手って……
え?
マジか。
やっちゃった?
魔人の現王、やっちゃった?
〈炎の帝〉ことコリーヌが、気を取り直した様子で。
「ま、いいだろう。てめぇを一度しか殺してはいけない、という命令は受けていないからな。ここでいったん殺してから、あとあと〈滅却絡繰り〉を取り戻して、もう一度、こんどは綺麗さっぱりに殺してやるよ、【破壊卿】!」
まことに申し訳ないが、こいつの相手をしている暇はない。
「今度な、また今度」
「今度はねぇんだよ、死ね!」
コリーヌが突き出す〈太陽突き〉。
消えぬことのない火炎をまとっている。
火炎属性魔法のひとつの頂点、〈虚炎〉か。
さすが〈炎の帝〉。通常時の攻撃で〈虚炎〉をまとうということは、火炎精霊のパッシブスキルを会得しているな。
こっちは燃えたくないので、その攻撃が達する前に、〈時間跳躍ディレイ攻撃〉で決めてしまう。
今回は手加減なし。
時間を超越したディレイが、コリーヌに回避を失敗させる。
「な、てめぇ、いまなに、を──ぐぁっ!!」
直撃。
死技は使ってないが、〈魔滅の大槌〉をまともに喰らえば、よほど防御特化でなければ大ダメージは避けられない。
アーグが歓声をあげる。
「おお、姉上! ざまぁないですな、姉上!」
倒れ伏したが、それでも殺意のまなざしを弟に向けるコリーヌ。
「てめぇ、アーグ、覚えてやがれ、よ」
さすがにレベルカンストしているだけあって、陽炎鎧が粉砕されるだけのダメージで済んだか。
「アーグ。お前の姉さんなんだから、どうにかしろ。煮るなり焼くなり開放するなり。おれは確かめにいかなきゃならないことがある」
「まちやがれ、てめぇ、逃げるのか、この〈炎の帝〉を前にして──」
そういえば、〈帝〉相手に一撃粉砕してしまった。
よくよく考えると、おれの通常攻撃って、ここまで破壊力あったのだな。
パリィ全盛以前は、無意識に手加減でもしていたのだろうか。そういえばサリア様がお隠れになってから、パワーが増したような。
そのころ、冒険者たちにパリィ時代が来たものだから、とくに実感はなかったが。なぜならば──パリィされまくるようになったから。
おれはレジェンド武器〈太陽突き〉に〈魔滅の大槌〉を叩きつけて、粉みじんに破壊した。
「なっ! てめぇ、なにしてくれやがる!」
「命は取らないまでも、これくらいのペナルティがないとな。敗北したペナルティだ。さてと。空間転移は、あまりしないが上手くいくか微妙だが」
裂け目からπ次元を経由しての空間転移は、一応は魔人の全員が可能。
ただそれぞれ得意不得意はあるもので、おれは大の苦手。
それでも、今回は成功させた。
ラストダンジョン〈紫ガ城〉へ。
が、しかし──
燃えている。ラスダンが。
なんか普通に陥落している。
「あぁ、妹よ!」




