32,殺したい→よし殺そう、の距離が近いのだ。
──【虐殺娘】ことセーラの視点──
〈紫ガ城〉というのが、ラストダンジョンの名。
かつて魔女神サリアが支配していた城のこと。
サリアといえば、あたしがノリと勢いで殺しちゃったのだけれど。
おっと。これは誰も知らない秘密だった。
兄ににさえも教えたことはない。というよりサリアを崇拝している兄貴に話したら、何かと面倒そうだし。
いま、〈紫ガ城〉の謁見の間に立ち、ふとそんなことを考えていると、【廃都卿】が現れた。
14幹部のトップであり、冒険者からするとラスボス。
あたしからすると、上官にあたる──らしい。
おそらく、向こうはそう誤解しているような気が、する。
信じがたいことだけれども。
なぜならば、このあたしを呼び出したのだから。
【廃都卿】の第一形態は、身の丈30メートルをこえる巨人。
ちなみにラスボスにふさわしく、形態は最終形態の第三まである。
あたしの場合、バトルフォルムを第一形態とするならば、第二形態まであるけど。
「貴様が、【虐殺娘】か」
と、【廃都卿】が禍々しい声で言う。
あたしは腕組みして、見上げていた。
「ええ」
「貴様、なぜ余を前にして跪かんのだ?」
「…………え?」
「貴様は、余の配下の一体にすぎん。いま、サリア様亡きあと、余こそが魔人軍の総指揮官。貴様は将の一人にすぎぬ。ゆえに、余の前に跪くのが礼儀というものであろう?」
「………え? …………え?」
「跪けと言っているのだ!」
【廃都卿】が放った百雷が、あたしの上に落ちた。
つい直撃を受けてしまう。
なぜかって、それはもう、なぜかって。
驚いていたから。あと呆然ともしていた。
いま、こいつ、なんて言ったの?
跪けと? このあたしに、跪けと?
あー、殺したい。こいつ、殺したい。一族郎党、皆殺しにしたい。
よし、殺そう♪
〈万艱〉スキルで、自分にバフをかける。敏捷性、防御力、攻撃力の激上がり。
そして闇属性スキル、〈常闇の槍〉を召喚。
右腕に〈常闇の槍〉を装着し、空中を駆ける。
一点突破の、〈常闇の槍〉で貫く死技《闇貫》。
しかし【廃都卿】の肉体は消え、かわりに青紫の雷と化した。
肉体そのものの雷化。物理攻撃しかできない冒険者だったら、この時点で詰んでいるわけね。
そして、これが【廃都卿】の最終形態というわけねぇ。
雷化した【廃都卿】が、大地を裂くほどの雷撃を叩きこんできた。
これが噂の、レベルカンストしていた冒険者パーティを一撃全滅させたという、死技《無限の落雷》。
防御結界を五重にして、なんとか防いだけれど。
その衝撃で、あたしは床に叩きつけられてしまった。
ふむ、痛くはないけど、ちょびっとイラっときたかも。
雷状態のまま【廃都卿】が勝ち誇る。
「貴様ごとき、下等なる魔族が、余にかなうと思うたか? 余は雷を統べる者であるぞ!!」
そういえば。
殺したいと思って殺したけれど。
この【廃都卿】、あたしのこと、どうして呼んだのかしら?
何か呼び出す訳があったわけよね。
「【廃都卿】、死ぬ前に、あたしを呼び出した理由を話しなさい。いますぐに」
【廃都卿】が雷状態を歪に変えつつ、哄笑する。
「なんと愚かな小娘か。貴様はこれより、魔人の王である余によって、粛清されるのだ」
バカすぎて困ったわ。
「うーん。わからない奴ねぇ。あたしの攻撃を、あんた躱したでしょ? 躱しちゃったでしょ? 躱したものだから、あんた、あたしにイラっとされたのよ? 分かる? あたしにイラっとされたのよ」
「なにを言っておる?」
「あたしのパッシブスキル〈天上天下、唯我独尊〉。スキル効果は『あたしがイラっとした相手は、10秒以内に消滅する。防ぐことはできない』。さ、消滅する前に、あたしを呼んだ理由を話しなさい。この雑魚さん?」
「なにを愚劣な。そのような卑劣なスキル、存在を許されるはずがあるまい」
「サリアもそう言っていたのよね。だから、やっぱりイラっときちゃったのよ」
「なにを……」
というわけで、それはすぐに起きたわけ。
消滅をはじめた【廃都卿】が情けない悲鳴を上げだして。
「アギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……………!!!」
跡形もなく消滅した。
さて。
この〈紫ガ城〉にいるであろう、【廃都卿】の一族郎党も皆殺ししておきましょう。
あたしは、自分の気持ちに正直なのよね。




