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32/107

32,殺したい→よし殺そう、の距離が近いのだ。

 


 ──【虐殺娘】ことセーラの視点──



 〈紫ガ城〉というのが、ラストダンジョンの名。


 かつて魔女神サリアが支配していた城のこと。


 サリアといえば、あたしがノリと勢いで殺しちゃったのだけれど。


 おっと。これは誰も知らない秘密だった。

 兄ににさえも教えたことはない。というよりサリアを崇拝している兄貴に話したら、何かと面倒そうだし。


 いま、〈紫ガ城〉の謁見の間に立ち、ふとそんなことを考えていると、【廃都卿】が現れた。

 14幹部のトップであり、冒険者からするとラスボス。


 あたしからすると、上官にあたる──らしい。

 おそらく、向こうはそう誤解しているような気が、する。

 信じがたいことだけれども。


 なぜならば、このあたしを呼び出したのだから。


【廃都卿】の第一形態は、身の丈30メートルをこえる巨人。

 ちなみにラスボスにふさわしく、形態は最終形態の第三まである。


 あたしの場合、バトルフォルムを第一形態とするならば、第二形態まであるけど。


「貴様が、【虐殺娘】か」


 と、【廃都卿】が禍々しい声で言う。


 あたしは腕組みして、見上げていた。


「ええ」


「貴様、なぜ余を前にして跪かんのだ?」


「…………え?」


「貴様は、余の配下の一体にすぎん。いま、サリア様亡きあと、余こそが魔人軍の総指揮官。貴様は将の一人にすぎぬ。ゆえに、余の前に跪くのが礼儀というものであろう?」


「………え? …………え?」


「跪けと言っているのだ!」


【廃都卿】が放った百雷が、あたしの上に落ちた。

 つい直撃を受けてしまう。


 なぜかって、それはもう、なぜかって。

 驚いていたから。あと呆然ともしていた。


 いま、こいつ、なんて言ったの?


 跪けと? このあたしに、跪けと?


 あー、殺したい。こいつ、殺したい。一族郎党、皆殺しにしたい。


 よし、殺そう♪


〈万艱〉スキルで、自分にバフをかける。敏捷性、防御力、攻撃力の激上がり。


 そして闇属性スキル、〈常闇の槍〉を召喚。

 右腕に〈常闇の槍〉を装着し、空中を駆ける。


 一点突破の、〈常闇の槍〉で貫く死技《闇貫》。


 しかし【廃都卿】の肉体は消え、かわりに青紫の雷と化した。

 肉体そのものの雷化。物理攻撃しかできない冒険者だったら、この時点で詰んでいるわけね。


 そして、これが【廃都卿】の最終形態というわけねぇ。


 雷化した【廃都卿】が、大地を裂くほどの雷撃を叩きこんできた。


 これが噂の、レベルカンストしていた冒険者パーティを一撃全滅させたという、死技《無限の落雷》。


 防御結界を五重にして、なんとか防いだけれど。

 その衝撃で、あたしは床に叩きつけられてしまった。


 ふむ、痛くはないけど、ちょびっとイラっときたかも。


 雷状態のまま【廃都卿】が勝ち誇る。


「貴様ごとき、下等なる魔族が、余にかなうと思うたか? 余は雷を統べる者であるぞ!!」


 そういえば。

 殺したいと思って殺したけれど。


 この【廃都卿】、あたしのこと、どうして呼んだのかしら?

 何か呼び出す訳があったわけよね。


「【廃都卿】、死ぬ前に、あたしを呼び出した理由を話しなさい。いますぐに」


【廃都卿】が雷状態を歪に変えつつ、哄笑する。


「なんと愚かな小娘か。貴様はこれより、魔人の王である余によって、粛清されるのだ」


 バカすぎて困ったわ。


「うーん。わからない奴ねぇ。あたしの攻撃を、あんた躱したでしょ? 躱しちゃったでしょ? 躱したものだから、あんた、あたしにイラっとされたのよ? 分かる? あたしにイラっとされたのよ」


「なにを言っておる?」


「あたしのパッシブスキル〈天上天下、唯我独尊〉。スキル効果は『あたしがイラっとした相手は、10秒以内に消滅する。防ぐことはできない』。さ、消滅する前に、あたしを呼んだ理由を話しなさい。この雑魚さん?」


「なにを愚劣な。そのような卑劣なスキル、存在を許されるはずがあるまい」


「サリアもそう言っていたのよね。だから、やっぱりイラっときちゃったのよ」


「なにを……」


 というわけで、それはすぐに起きたわけ。

 消滅をはじめた【廃都卿】が情けない悲鳴を上げだして。


「アギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ……………!!!」


 跡形もなく消滅した。


 さて。

 この〈紫ガ城〉にいるであろう、【廃都卿】の一族郎党も皆殺ししておきましょう。


 あたしは、自分の気持ちに正直なのよね。




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