31,おっさんしか勝たんぞ。
さて、どうしたものかな。
姉が弟を叩きのめしているのなら、無視一択だが。
一応は、アーグは首無し騎士で、おれの弟子なのかもしれん。
そしてそれをボコっているのが、〈炎の帝〉なので、無視はできんのか。
「あー、もしもし? それは、一応はうちのモブ敵だから。殺すならさっさと殺してやれ。しかし無駄に甚振るな」
「あぁ?」
と、〈炎の帝〉がこちらを睨みつけてくる。
眼光は鋭く、攻撃的。橙色の髪は短く切っている。すらりと背は高く、中性的な顔立ち。陽炎のような揺らぎのある鎧を装着していた。
「なんだ、てめぇは?」
通りすがりの無関係な人と言いたい。が、仕方ない。
「【破壊卿】」
「ほう、てめぇがな」
装備しているのは、ランス。
ただのランスではなく、レジェンド級。〈太陽突き〉か。
火炎属性の効力300パーセント増し。さらに火炎属性攻撃には、魔力を消費しない。まさしく火炎属性を極めた〈炎の帝〉が持つにふさわしい──というか、ちょっとずるくない?
「私の名はコリーヌ。まぁ〈炎の帝〉といったほうが、分かりやすいだろうよ」
「確かに」
これまで〈暴力墓〉という序盤ダンジョンにいたため、〈帝〉と直に戦ったことはない。
ここで負けると、はたして本当に滅却されるのかどうか。消えるのは嫌だなぁ。
しかしコリーヌのレベルは上限523。
〈帝〉になるには、レベルカンストなどは条件のひとつにすぎないのだろうが。
うーむ。強そう。
そんなコリーヌの足に、アーグがくらいつく。
「姉上! おやめください」
イライラした様子でコリーヌが片足を振り上げた。
で、がしがと振り下ろす。この姉弟、さては仲が悪いな。
「てめぇ、どうしてそうなんだ! 闇黒騎士なんぞになりやがって、お母さまが泣いて悲しむだろうが!」
「ひぃぃぃ! ごめんなさい!!」
と悲鳴を上げているのは、少し離れたところに転がっている生首のほう。
おれはつい反射的に訂正をいれてしまった。
「あ、申し訳ないが、アーグは闇黒騎士にはなれてない。ひとつ格下の首無し騎士。見てわかるだろ?」
言って思ったが、余計な発言だったものだ。
「あぁ? 首無しだぁ? それは中ボスにさえなれない、モブ敵だろうが。私はほかのところで、騎乗した首なし騎士と戦ったことがあるが。弟、てめぇは何か乗らねぇのか?」
転がっている生首が、当惑した様子で言った。
「姉上。生首を抱えたまま、騎乗することは難しいかと」
「バカか、てめぇは。真の首無し騎士は、生首なんかねぇんだよ。てめぇは、魔族堕ちしても中途半端な野郎だな。この一族の恥が。その生首を消してくれる」
「ひぃぃぃ姉上ぇぇぇ! 助けてくださいぃぃ、師匠!」
うわぁ。おれに話を振りやがった。こっそりと退散しようと思ったのに。
おかげでコリーヌが、目的を思い出してしまったじゃないか。
〈炎の帝〉が。
肩のところで〈太陽突き〉の柄をこんこんとしてから。
「あぁ、そうだった。まずは、てめぇを滅却すんだったな。それが、私が与えられた指令ってやつだ。じゃ行くぜ。パリィ対策を身につけたらしいが、それだけででかい顔をすんじゃねぇぞ」
バトルフォルムにチェンジ。
戦闘開始。
アーグが余計なことを叫ぶ。
「師匠! たとえ僕の姉上でも、容赦なく叩き呑めしてください!」
そりゃぁね、叩きのめせたらな。
「死んどけ【破壊卿】、《極熱突き》!」
〈太陽突き〉が突き出されると、凄まじい火炎地獄が渦巻いてきた。
これは防御できるのか。できない気がする。
死んだかも。
「いや、まて。これでどうだ」
《極熱突き》の火炎に《魔滅弾》を叩きこんでみると、凄まじい衝撃波とともに相殺された。
「へぇ。やるじゃねぇか、おっさん」
「おっさんではなく、古株だ」
そういえば、【消滅卿】もおっさん呼ばわりしてくれやがったな。
「おっさんしか勝たん現実を教えてやろう」
それはそれで、嫌な現実だな。
「出し惜しみなしの《時間跳躍ディレイ攻撃》!」




