表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/107

30,〈炎の帝〉かぁ。

 


 セーラが次元の裂け目を開く。


 すると隠していたミシェルが、優雅に飛び出してきた。


 セーラがジト目で見てくる。


「兄貴。やはり、大きいほうがいいというわけね」


 と、ミシェルの胸元を指さした。

 あー、たしかに豊かだが。


「冒険者のおっぱいをじろじろ見ているはずがないだろ」


 セーラの対応だけで面倒なのに、ミシェルはミシェルで、謎の納得感をかもしだしつつ。


「なるほど、この女児のようなものが、〈ガリア城塞〉のボスか。丁度よい。【破壊卿】に伝えることは伝えた。あとはダンジョン攻略がてら、貴様を倒すとしよう」


 おれは慌てて、ミシェルの腕を取って引っ張る。


「せっかく、かつて見どころありと助けた命だ。セーラのことは忘れて、このままラスダン行ったらどうだ? えーと。レベル452? 凄いな、おい」


 改めてステータス確認をしたところ、ミシェルはかなり高位冒険者だということが判明。〈帝〉に空席があれば、候補者になったかもしれない。

 だからとって、セーラには敵わないだろうが。


 いや、そうだった。そんなことよりも、〈炎の帝〉が来るんだった。


「まてよ。アーグ。お前の姉貴が〈炎の帝〉ならば、ここにきたらショックを受けるんじゃないか」


 ミシェルが不可解そうに言う。


「このモブ敵の姉が、〈炎の帝〉どの? 【破壊卿】どの、バカも休み休み言いたまえ」


「貴様! この、貴様!」


 首なし騎士アーグが、軽く煽られただけで、雄叫びをあげている。


 セーラがうんざりした様子で言った。


「あたしは忙しいのよ。兄貴、その人間の女を、とっととあたしのダンジョンから追い出しておきなさい。それと、そこの首のない、えー、名前なんだっけ?」


 いまだに名前を憶えてもらっていなかった首なし騎士が、いくぶん落ち込んだ様子で名乗る。


「……アーグです、妹君」


「あんたの姉が〈炎の帝〉だというのなら、このダンジョンには入れないことね。生きては帰さないわよ。じゃ、あたしは今度こそ行くわ」


 セーラが去り、戦いそびれてガッカリした様子のミシェルを横目に見てから、おれはアーグに指示する。


「追い払えなくても、いつ来たかくらいは報告できるだろ。お前は〈ガリア城塞〉の表に行って、〈炎の帝〉の到着を見張っていろ」


「あの、師匠。この姿で姉上に会うのは、さすがに躊躇われるのですが?」


 と、首なし騎士が、自分の生首をかかげて言う。


「確かに弟が闇堕ちしていたら、ショックかもな。精神的ダメージを与えて、事前にデバフをかけられるか。よし、やはり行ってこい」


「そうではなくて、師匠。僕は──いえ、分かりました。向かいます!」


 使えん弟子を見送ってから、おれはミシェルに向き直った。


「君の伝えたいことは分かった。しかし、〈暴力墓〉の件は、冒険者ギルドの総意なのか? それとも、君が独断での考えなのか?」


「いまのところ、ギルドは〈暴力墓〉での死亡率増加のことを、気にも留めていないようだ。ギルドは、冒険者の志望者が増加傾向にあることを嘆いていた。才能のない者までギルドに属したがる、と。もしかすると、よい新人減らしくらいに思っているのかもしれない」


 しかし、新人のときに才能があるかどうかなど、分かるものか?


 確かに天才はいるだろうが、ほとんどは凡庸なるものだ。

 凡人の冒険者が、切磋琢磨し、いつしかSランクに到達していた。そんな場面を、長い魔人の人生で、おれは何度も見てきたものだが。


 何か手を打つ必要がある。


「〈暴力墓〉の件は、なんとかする。とにかく、君は自分の冒険者人生を続けろ。ただし──セーラには手を出すな」


「妹さんという話だからな」


 と、ミシェルが誤解して納得したが、まぁなんでもいいや。


 メアリーに、ミシェルを裏口まで案内してもらう。

 ミシェルとは、ちかぢかまた会いそうな気がする。


 さて、問題は【消滅卿】か。または。


 アーグの、情けない悲鳴が聞こえてきた。

 裂け目のショートカットで、〈ガリア城塞〉の入口付近まで向かう。


 と、そこでは戦士系の女冒険者に、アーグが半殺しの目にあっていた。


「ぎゃぁぁ、姉上、助けてぇぇ! 命だけはぁぁ!!」


 と叫んでいることから、あれがアーグの姉、SSSランク冒険者、〈炎の帝〉か。


 ……アーグが嫌がっていたのは、姉にショックを与えるからではなく、闇堕ちしていると知られたら、問答無用でボコられる、と分かっていたからか。


 あいつ、聖騎士のままでいたほうが幸せだったよなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ