表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/107

29,死亡率。

 



「さてミシェル。ドラゴンライダーのジョブおめでとう。しかし、おれは〈暴力墓〉に戻る気はない」


 というか、戻りたくても戻れない。


 ミシェルが無念そうに言う。


「だが、それではあなたが話していたバランスが崩れてしまう」


 アーグが、ハッとした様子で。


「師匠のおっしゃっていた『冒険者と魔族』のバランスのことか。だがそれを師匠から先に聞いたのは、この僕だということを忘れるな」


 ミシェルはアーグをちらりと見てから、眼中にないという口調で言う。


「なんなのだ、このモブ敵? 殺してよいか?」


「貴様! 貴様!」


 アーグが、小物臭い怒りかたをするものだから、ミシェルは余計に眼中にないという様子。

 確かにアーグはモブ敵だが……この首無し、聖騎士をしていたほうが幸せだったのにな。


 アーグを黙らせてから、おれは言った。


「〈暴力墓〉のボスは、いまは【消滅卿】がしているだろ」


「そう、それが問題なのだ。今年に入ってからの冒険者の死亡率を知っているかい、【破壊卿】。いや、もちろん知らないだろう。とても跳ね上がっている。もともと危険と隣り合わせの仕事ではあったが」


「まさか〈暴力墓〉が原因か?」


「そうだ。初心者にとっての、『はじめの関門』の死亡率が、とても高いのだ。これは【消滅卿】が、すべての冒険者を容赦なく殺しているせいだろう」


「まあ、おれがいたころは、パリィされまくっていたからな」


 自嘲気味に言ってみたところ。

 意外なことに、メアリーが強い口調で言ってくれた。


「ですが、パリィスキル全盛の前から、ソルトさんは程よく初心者の冒険者たちに突破させていましたよね? 魔人のなかでも、そのやりかたは賛否両論でしたが。わたしは賛成していました。冒険者が栄えなければ、魔人の未来もありません」


「そうか、ありがとう、メアリー。……というか、賛否両論って、そんな話題になっていたのか?」


 知らんかった。

 おれはただ、サリア様の教えに従っていただけだがな。


 ただ冒険者が栄えることは、魔族にとってもプラスになる。

 というより冒険者が滅びでもしたら、そこまでいかなくとも衰退するようなことがあっては、魔人たちは自分で自分の首を絞めることになる。


【消滅卿】。あの若造め。そんなことも分からないとは。


 確かにサリア様がお隠れになってから生まれた世代だとは思っていたが。

 ただ【護魔卿】は何をしているんだ? あいつが教育係だろ。


 魔牙龍の使者がやってきた。


 とたんミシェルが剣を抜こうとする。


「むっ、魔物か」


「落ち着けって。あれは伝言があるんだろう」


 魔牙龍の使者は、大型犬サイズの蚤なので、まぁミシェルが殺したそうにするのは分かるが。


「どうした?」


「貴様、冒険者と密会しているな? われは構わんが──セーラ様が、お帰りになったぞ。とのことです」


 ぺこりと頭をさげる蚤。


「なに、セーラが? あいつ、もう戻ってきたのか。いや早すぎる。忘れものか何かか」


 ミシェルと目があう。

 このドラゴンライダー、【虐殺娘】が来るというのに危機感がないな。


「まずいぞ、隠せ隠せ!」


 ミシェルを、空間の裂け目に入れて隠す。

 この裂け目、〈ガリア城塞〉内には至るところにあって、解放するとショートカットになる。


 隠すのに協力してから、不思議そうにメアリーが言う。


「なぜ隠したんです?」


「うーむ。アーグのバカのせいで」


 セーラがすたすたと歩いてきた。


「忘れものよ、兄貴。というか、なんでみんな、ここで集まっているの?」


 それから、くんくんと匂いをかぎだす妹。

 なんだろう。


 やがて、不愉快そうな顔でおれを見た。


「人間の女を連れ込んでいるわね、兄貴」


 セーラの後ろで、アーグが『ほらやっぱり』という顔をしているのが、ムカつく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ