28,妹の留守中。
首無し騎士アーグからの情報を、さっそくセーラに伝えようとしたところ。
セーラがだるそうに首をかきながら、
「兄貴。しばらく留守にするから、〈ガリア城塞〉をよろしく」
この妹は、やる気がないのか、妹は。
「あのな。〈帝〉の一人が来るというのに、お前はどこにいくんだ?」
「【廃都卿】に呼ばれたのよ。このあたしを呼び出すなんて、舐めた真似してくれるわよね」
と、穏やかに笑うセーラ。
これはよくない兆候だ。
「殺すなよ。魔人のトップを、いまはまだ殺すなよ。頼むぞ、妹よ」
「まぁ、気が向かなきゃ殺さないわよ」
それはおれが求めていた殺さない約束ではないんだが。
こうしてセーラは行ってしまった。〈ガリア城塞〉をおれに預けて。
アーグの姉貴が来るというのに。〈炎の帝〉だぞ、おい。
「いや、それより滅却対象にされていることを話さなかったな」
これは妹に不必要な心配をかけたくない、という兄としての意地。
または、単に話し忘れていただけで。
魔人はサリア様のご加護によって復活する。
その復活を帳消しにする方法が、確かに冒険者側にあることは、ある。
が、それをなぜ普段は使わないのかといえば、かなりの犠牲を伴うものだからだ。
その犠牲は、そのときによって変わる。
ただ少なくとも、使用者も死ぬ、とかの甘いものではない。
「そこまでして、おれを消したいというのか……え、なんかショックなんだけど」
冒険者ギルドが動いた、というのがおかしな話だ。
そこまで冒険者たちが、おれを憎む理由があるか?
聖ボーリ教の奴らなら分かるが。
聖ボーリ教が、冒険者ギルドに圧力をかけたのか?
いや、そんなことはできないはず、だが。
考えても仕方ない。
とりあえず、〈ガリア城塞〉を維持することが大事だ。ボスが不在ということで、誰一人、ボス部屋までたどり着かせることはできない。
その午後。
最近は徘徊系から卒業し、ボス部屋付近でどっしりと構えている。
この位置は中ボスの魔牙龍を突破しなければ至らないので、けっこう暇だ。
そんなとき、メアリーが一人の女冒険者を伴って歩いてきた。
赤毛の娘で、年のころは25くらい。顔貌が整っているので、きっと同僚の男どもにモテることだろう。
ドラゴンライダーのようで、小型のドラゴンが、いまは捕獲状態で同行している。
「メアリー。友達か?」
まぁ魔人も、冒険者の友達の一人くらいはいるかもしれない。
しかしメアリーは、首を横に振った。
「いえ。こちら、ミシェルさんですが。ソルトさんのお友達だとか? それで案内してきたのですよ?」
おれに冒険者の友達なんかいたかな。
で、ドラゴンライダーのミシェルをじっと見ると、思い出した。
「あぁ。三年くらい前に、話したことがあったな?」
すでにパリィ全盛の時代に、パリィスキルを会得していなかった、稀な冒険者だったな。
まだドラゴンライダーにも覚醒しておらず、結局、おれに殺されそうになったんだ。
ただなんとなく、ここで殺すのは惜しかったので、パリィスキルを会得してから再チャレンジするように助言したのだった。
その後、彼女は助言に従ってパリィスキルを会得し、今度はちゃんとおれを殺した。
冒険者に助言したのは、後にも先にもあのときくらい。
さすがに、それだけで友達とはいえんが。
「ミシェルという名だったのか。しかし、またなんだって会いにきたんだ?」
ミシェルは、おれの前まで来ると、跪いた。
「久しぶりだ、【破壊卿】殿。三年前は助言をいただいたこと感謝する」
まさか、闇堕ちしたい第2号じゃないだろうな?
その手のはアーグだけで結構なんだが。
「一体、なんの用で?」
「実は、【破壊卿】殿にお願いがあってきたのだ。冒険者たちの未来のために──頼む。〈暴力墓〉に戻ってはくれないだろうか?」
「〈暴力墓〉に?」
どいうことか尋ねる前に、アーグがやってきた。生首を抱えて。
「あぁ師匠! よろしいのですか? 妹君の留守中に、女など連れ込んで?」
「なんだ、その引っかかる言い方は?」
「知りませんよ。あとで妹君がこのことを知ったら──ううむ、寒気がしてきました」
「……え、これって怒られるのか、おれは?」




