27,滅却対象。
あれから三か月がたった。
あれというのは、神殿騎士団皆殺しの件から。
全滅させたのは、ほとんどがセーラの手柄だが。
容赦なく鬼畜強いわが妹よ。
とはいえ、おれも〈時間跳躍ディレイ〉という、新たなユニークスキルを身につけることができたわけだ。
魔人をはじめて、かれこれ何百年。
まだ進化の余地があったとは。
これもサリア様のご加護か。
というわけで、そこからの三か月は大忙しだった。
まず、〈ガリア城塞〉の人気が妙に高い。
冒険者だけでなく、聖ボーリ教会が送り込んできたモンクなど、とにかくやたらとおれを殺しにくる。
どうも、聖ボーリ教会によって、討伐対象ナンバー1にされているらしい。
このおれが。
まぁ騎士団を皆殺しにした(ことになっている)上に、箱詰めで送り返される嫌がらせをされたらなぁ。これも、セーラの仕業で、おれはいやいや手伝っただけなんだが。
この件、冒険者には関係のない話にも思えるが、クラ国の冒険者は、同時に聖ボーリ教徒でもあるわけだ。
おかげで、ひっきりなしに〈ガリア城塞〉に乗り込んできては、徘徊中のおれを探してくる。
こちらも、最近はまったく撃破されることがなくなった。
ディレイ攻撃と、〈時間跳躍ディレイ攻撃〉のおかげだな。
もちろん、最初から〈時間跳躍ディレイ〉を使うような、そんな味気のないことはしていない。
ひとまず通常ディレイ攻撃。
それで殺される相手ならば、それまで。
しかし上位レベルの冒険者ともなれば、通常ディレイ攻撃にはすぐに対応してくる。
ちなみに教会専属の教会モンクは、通常ディレイで殺されている。やはり質も量も、冒険者のほうが上ということだろう。レベルにもよるが。
話を戻すが、通常ディレイに慣れてきた冒険者が、いよいよパリィをかます──
というところで、こちらは〈時間跳躍ディレイ〉だ。
完璧にパリィのタイミングをあわせたはずが、その攻撃だけが『タイムトラベル』して戻っている現象。
これでバランスを崩した冒険者は、すぐさま来る『時間跳躍』後の攻撃を直撃するというわけだ。
ちとチートすぎるかね?
まあ全員の命を取っているわけではない。
ここでも、かつての〈暴力墓〉と同じ。
ランダムで、殺す相手と、生かして逃がしてやる相手をわけている。
向こう側としては、生かされるかは時の運。
もちろん自力で、おれを撃破すればいい話だが。
妹のセーラからは、『兄貴はラスボスより強いモブ敵になれるわ』というお墨付きをもらってしまった以上は、そうそう撃破されている場合ではないわけだ。
そんな感じで、冒険者とモンクの撃破数が四桁をこえた。
『撃破』というのは、殺した者と逃がした者を含む。
「うーむ。我ながら、ここのところいい仕事をしている。人類の敵、あつかいされているのは、ちょっと悲しいが」
「さすが師匠です! 僕も負けてはいられません!」
と、首なし騎士のアーグ。
三か月前。
魔牙龍によって頭部を潰されてがっくりきていたアーグだが、サリア様の恩恵によって、頭部も復活した。
ただし『首なし騎士』なので、頭部が再接続されたわけではないが。
で、いまは生首を小脇にかかえている。
その小脇の生首が、やたらと嬉しそうに言ってくる。
「ついに冒険者ギルド本部にも動きがあるようですよ!」
「動き? というか、お前はいまだにギルドに情報源があるのか」
元冒険者とはいえ、もう闇堕ちして長いのに。
「はい。姉です」
「……え、姉? 姉、いたの?」
「いまは〈炎の帝〉の座にいる姉から、いろいろと知らせが届くのです。もちろん手紙ですが」
えー。こいつの姉、〈帝〉の一人だったのか。
〈帝〉というのは、冒険者ギルドのSSSランク5人のこと。
それぞれの属性を極めたもので、こいつの姉は火炎属性を極めた〈炎の帝〉。
「アーグ。お前は、いろいろとおれを驚かせてくれるな。別に褒めてないぞ。先に言っておくが」
「ありがとうございます、師匠!」
「だから褒めてないと言っただろうが……で、何が動き出したって?」
「ギルドの滅却対象に、師匠がなったとのことです。これは100年ぶりのことです! さすが、偉大なるわが師匠です!!」
滅却対象。
禁忌の術式で殺すことで、サリア様の恩恵でも復活させなくする。
まさしく『滅却』するという。
「……よし、引きこもろう」




