26,人類の敵る。
神殿騎士団の死体を箱詰めして送り返すことになった。
え……どーゆこと?
ちなみに冒険者たちの死体をどうするかは、そのダンジョンボスによって対応が変わってくる。
よく魔物の餌にされる、とか言う者もいるが、これはない。
魔物は人肉を食べないので。体質的な問題。
ゆえに豚を飼っているところもある。
豚に冒険者の死体を食わすわけだ。
またはマグマに溶かす、奈落に捨てる、などなど。
おれがボスだったころ、〈暴力墓〉では冒険者の死体は丁重に埋葬していたものだ。
もちろん原型が留めていないのがほとんどだったが。それでも潰れた死体を、地下墓地に土葬していた。
たまにゾンビが生まれていたが。
で、話を戻すと。
「送り返すというのは、つまり、遺族のことを思ってか?」
「遺族? バカね、兄貴。人類に恐怖を植え付けるためでしょうが。〈ガリア城塞〉に乗り込んだ神殿騎士団が全滅したようだ、という推測だけでは、真の恐怖は成り立たない。こうして、『現物』を見せてあげないことには、ね」
現物とは、もちろん死体。
ほとんどがセーラの全体攻撃〈闇が降る〉によって、無残に殺されまくった死体群。
「131人分の死体を? グロイし、面倒だし、嫌がらせが過ぎる。人間が可哀そうだろ」
「兄貴。ここのダンジョンのボスは誰?」
「……お前」
というわけで、箱詰め作業開始。
※※※
──聖都ボーリの人々の視点──
神殿騎士団のおひざもと。
クラ国の聖都ボーリ。
いまは神殿騎士団の凱旋パレードの準備に忙しい。
信仰あつい人々は、神殿騎士団の勝利を疑わない。
神に愛された騎士たちが、なぜ邪悪なる魔族に倒されることがあるだろうか?
カネと名声のため戦っている冒険者どもとは、訳が違うのだ、と。
ちなみにクラ国では、他国より冒険者の人気が低いのは、神殿騎士たちへの憧れが強いからだろう。
クラ国民はほとんどが信心深いボーリ教徒であり、そのため神殿騎士への崇拝も強いのだ。
それと教会側も、冒険者を悪しざまに言うことが多い。
これは国境の垣根をこえて支配権を握る冒険者ギルドへの牽制もあるのだろう。
なにはともあれ。
勝利を疑わない人々が、凱旋パレードに備えていると。
聖都の入口付近が騒がしい。
「一体、どうしたんだ?」
「何か、大量の箱が運ばれてきたらしい」
その大量の箱──131箱分は、複数のロバによって引きずられてきた。
聖都民の知らないことだが、これらのロバは、セーラに使いを命じられたソルトが、わざわざ最寄りの町に購入しにいったもの。
そしてロバたちが引きずってきた箱の中には──
「何かサプライズプレゼントかもしれないぞ?」
と、浮かれた民の一人が、箱のひとつを開けた。
なかには、原型を留めぬ騎士の死体一人分。潰れた頭部の眼と、目があってしまった。
はじめは理解できなかったが、すぐに悲鳴を上げる。
ほかの民も、まさかそんなはずが、とばかり他の箱を開けていく。
それらには、原型留めているかの状態違いこそあれ、騎士たちの死体が詰められていたのだった。
凱旋パレードの雰囲気から一転、阿鼻叫喚。
さらに憎悪の嵐。
「敵だ! 〈ガリア城塞〉は、人類の敵だぞ!」
「許せん! 【破壊卿】! 許さんぞ!」
「必ずや、天罰がくだるぞ!」
大いに盛り上がった。
※※※
死体を詰めた箱を引きずって、ロバたちが行く。
それを見届けてから、おれはあることに気付いた。
神殿騎士団って、おれを討伐しにきたんだよな。
……あれ。これって、ヘイトが全部、おれに集まるのでは?




