24,悪魔的ディレイ。
首無し騎士として魔族覚醒したアーグ。
わが弟子よ……お前、いまだに聖属性なのな。
そんな首なし騎士アーグだが、不思議なことに声がする。
「ここです! 師匠、ここです!」
「どこだってー?」
振り返ると、アーグの生首を発見。
なるほど。魔族覚醒したので、生首も話すことができるのか。
「よし拾ってやるぞ」
と思ったら、魔牙龍が歩いてきて、アーグの生首を踏みつぶしていった。
「うわー。足元を見ない奴っているよなぁ」
まぁ首無し騎士なのだから、生首がなくてもやっていけるだろう。
実際、首無し騎士アーグは、〈アイオーのつるぎ〉の騎士とバトル中だ。
首がなくとも敵の位置は分かるらしい。変わらぬ聖属性攻撃ではあったが──いや、まてよ。
ただの聖属性ではないようだ。
混沌属性が付与されている。これは貴重な属性だ。
相手がガードしても、接触するだけで地道に混沌状態を蓄積できる。
だんだん〈アイオーのつるぎ〉の騎士の様子がおかしくなっている。
混沌デバフが効いてきたようだ。
ついに隙を見せ、首無し騎士にお返しとばかり、首を刎ねられた。
こちらは人間のまま、ご臨終。
アーグよ、成長したなぁ。師匠として感慨深い。
まったくもって、何も教えたことはないが。
おれは〈アイオーのつるぎ〉を拾い上げて、アーグに放った。
「聖剣エクスカリバーがメインだろうが、これもサブウェポンにしておけ。聖属性持ちの魔族として、重宝する剣だぞ」
ふと振り返ると、騎士団長が、〈アイオーのつるぎ〉の騎士の生首を抱きしめ、慟哭していた。
甲が外されると、女の頭部が現れる。
「〈アイオーのつるぎ〉の騎士は女だったのか……鎧がごつくて気づかなかった」
まあ女だと知っていても、アーグを止めなかったが。
その手の差別はしない主義。
騎士団長が生首をそっと置き、憎悪の眼差しをおれに向けてくる。
「よくもわが愛しの人を殺してくれたな!」
「……え、おれ? いや、おれじゃなくて、こっちの首無し騎士がやったんだが。そもそも、戦場に出ている以上、命散らすことも覚悟の上だっただろうが」
「問答無用!」
騎士団長の姿が消える。
いや、これはとつもない速度だ。
慌てて〈魔滅の大槌〉を振るうも、回避され、肉薄される。
騎士団長が装備するは、聖剣のひとつ〈ガンダのつるぎ〉か。
これはもろに食らうと、大ダメージ間違いなしだ。
などと考えていたら、もろに斬撃をくらった。
余計な思考をするからこうなる。
距離を取ろうと後ろに跳ぶも、騎士団長も追いかけてくる。
ならば、攻撃あるのみ。
〈魔滅の大槌〉を振り上げ、ディレイ攻撃。
が、あっけなく躱される。
あれ、ディレイ最強説が、あっさりと死んだんだが。
騎士団長が怒号する。
「許さんぞ、【破壊卿】! 貴様を殺し、貴様の仲間も皆殺しにしてくれる! このダンジョンのボスも、殺してくれるぞ!」
「なに妹を?」
こいつがセーラに傷ひとつつけられるとは思えんが。
兄たるもの、少しは反応するのだ。
とたん騎士団長が、にやりと笑った。
「なに? ここのボスは、お前の妹なのか? ならば、ただでは殺さんぞ。生きたまま手足を切断してくれる」
「そういうことを言われるとさぁ、兄としては、やる気にならなきゃならんわけだ。妹に手出しはさせんぞ、と」
おれが再度、〈魔滅の大槌〉を振り下ろすも、騎士団長は鮮やかに躱す。
こいつの回避能力ときたら。
「無駄だ、雑魚め!」
だが、こっちも真剣だからな。
やるときはやるもんだ。
「いや分かってないな。【破壊卿】を煽って無事で済むと思うな」
「なに!?」
騎士団長が驚愕したのも無理はない。
躱したはずの〈魔滅の大槌〉が、頭上から迫るのだから。
ディレイ攻撃は遅延攻撃だが、それをさらに深化させてみた。
すなわち、外した攻撃はやり直す。
時を巻き戻しての、攻撃がヒットするまで繰り返される真の『ディレイ攻撃』だ。
「見よ、この悪魔的ディレイを。技名はまだ思案中だ」




