23,魔族覚醒。
大空間に戻ると、暗闇状態が解除されていた。
この陰ながらの支援は、誰の仕業だったのだろうか。
気を取り直した様子で、神殿騎士団の面々が攻撃を仕掛けてきた。
無駄に量がいるくせに、連携が取れているのが癪だな。
騎士たちは数人で協力し合い、聖属性攻撃の重ね合わせを行ってきている。
ところで、魔人はみな聖属性が弱点属性だろ、とか思われているが、あれは偏見。
おれはすべての属性攻撃に耐性があるので、パリィさえされなければ、けっこう頑丈。
たぶん通常時ならば魔牙龍より強靭度は高いが、まぁ痛いのは嫌なので、タンク役は奴にやってもらうことにした。
「タンク、タンク、挑発しろ挑発」
しかし魔牙龍、その巨大な火龍という威厳からして、放っておいても敵の攻撃が集まっている。
ただヘイトを集めているのはおれなので、おれにも攻撃が集中している。
一方、メアリーへは、攻撃がいっていない。
なぜだろう。
メアリーは回復役に専念するため、人型のままだ。
これが理由だろうか。
よくよく考えると、メアリーもボスをしていたころは、戦闘フォルムに変わっていたはず。
メアリーの戦闘フォルムは、けっこう美しいが、腕が四本になったりと異形的なのは否定できない。
つまり戦闘フォルムだと人間も攻撃しやすいが、人型のままだと、ただの儚げな美人なので、たとえ『魔人だ』という認識があっても、攻撃しにくいというわけか。
一方、ちゃんとした人間であるアーグは、『人類の敵め』とボコられていた。
男女の違いか。さもありなん。
「まったく、せっかく役割分担したのに、お前たちはやる気がなさすぎる」
遠隔からアーグに回復魔法をかけていたメアリーが、困ったように言う。
「あのー、タンクとかサポートは専用スキルとかありますよね? わたしは一応、回復魔法ができますので、回復担当でいけますけど」
「やはり即席では無理があったのか」
〈魔滅の大槌〉と〈双蛾の斧〉を召喚。
二刀流でいこう。
しかし相手するのは、おれへ攻撃を仕掛けている連中ではない。アーグに攻撃を集中させている、別の騎士たちだ。
奴らの背後に回って、ぶんぶんと〈魔滅の大槌〉と〈双蛾の斧〉を振り回すと、きれいに跡形もなく吹っ飛んでいく。
「これが乱戦の魅力か。これならディレイするまでもないな」
一対一では、相手はこちらの攻撃だけに集中しているので、ディレイしなければパリィかまされていた。
が、こうして乱戦状態ならば、こちらは仲間に攻撃意識を向けている奴らを背後から狩り取れば、楽々と始末できる。
数的に不利なのだから、これくらいの手は使っていいだろう。
「よし、アーグいいぞ。いいサポートだ。囮役」
「お、お任せください、師匠!」
アーグの満身創痍ぶり。
もとが人間だから、ダメージが酷い。タイムラグなしでメアリーが回復していなければ、いまごろとっくに殺されているところか。
「アーグ。お前、そろそろ魔族覚醒しないと、もたないぞ」
「師匠! 僕は──」
何か言おうとしたらしいが、首を刎ねられたので、その次は聞けなかった。
アーグの首を刎ねたのは、長身の騎士。
歪な曲がりかたをしている長剣を装備していた。
まてよ。この剣は、〈アイオーのつるぎ〉か。
聖属性攻撃数値に、防御力数値が上乗せされるという効力。
レア武器を装備しているということは、騎士団内の腕利きの一人だな。
にしても、アーグ。短い間だったが、わが弟子よ。あっけなく死んでしまったなぁ。
と、感慨深く死体を眺めていたら、むくっと起き上がった。
これには〈アイオーのつるぎ〉の騎士もビビッている。
「な、なんだと!」
確かに、なんだと、ではある。
首なしのアーグが歩いてきて、おれに何やら身振りで伝えだした。
まぁ、魔族覚醒したのは確かだが──
これ、闇黒騎士ではなくて、首なし騎士だな。




