20,ままならないこともある。
「妹との距離感というものが、どうもつかめない。まぁ兄貴らしいことを、あまりしてやったこともないからなぁ。
だからといって、なついてくれたかと思えば、この嫌がらせ。あいつの考えが、まったく分からない。で、聞いているか?」
と、おれが問いかけると。
〈ガリア城塞〉の中ボスである魔牙龍が、うんざりした様子で言った。
「お前の贅沢な悩みなど、聞きたくもないわい」
「まぁまぁ、そういうなよ」
先日、妹の嫌がらせのせいで、神殿騎士団とかいう聖属性のヤバめなところに目をつけられた。
そのうち〈ガリア城塞〉に乗り込んでくるそうだが、おれは気乗りしないね。
そもそも、連中は冒険者ではないらしい。
まぁ冒険者とほかの人間の区別などは、冒険者ギルドに属しているかどうかでしかないが。
しかしダンジョン攻略の許可というのは、ギルド所属の冒険者だけにおりるはず。
そういう常識を無視して、こちらに乗り込んでくるというのだから、相手にするのも気乗りしない。
魔牙龍が煙たそうに言う。
「貴様、いい加減に徘徊に戻らんでいいのか?」
「ふむ。仕事しろというのか。ならいいだろう」
せっかく友達付き合いしようと悩み相談したのに、この塩対応。
中ボス部屋から出て、適当に歩いていると、前方から聖女が歩いてきた。
いや、こちらは【堕落した聖女】か。
「やぁ、メアリー。久しぶり」
メアリーは頭をぺこりと下げて、
「お久しぶりです、ソルトさん」
〈聖なる呪われた墓地〉のボスなのに、こんなところに遊びにきていいんだろうか。
その点を尋ねると、メアリーが落胆した様子で言う。
「実は、閉鎖になりまして」
「何が?」
「〈聖なる呪われた墓地〉です」
「え」
ダンジョンが閉鎖されることも、確かにあるといえば、ある。
最近だと半世紀ほど前、腐敗充満型のダンジョンにて、魔人さえも腐敗化で死ぬに至り、これはダメだと閉鎖決定されたものだが。
まぁ、腐敗状態は、よほど耐性がないと魔人でもきついからな。
麻痺とかは全般的に強いんだが。
「しかし、なぜ〈聖なる呪われた墓地〉が?」
「僧侶ゾンビのアイテムドロップのせいです。あまりにレア武器とか落すものですから、【廃都卿】より、閉鎖を命じられた次第です」
【廃都卿】といえば、いまの幹部会のトップか。
最終ダンジョンのボスであり、〈サリアの大樹〉の守護者。冒険者からしてみたら、ラスボスみたいなもの。
セーラと同じく、無敗のボス。
【廃都卿】が負けると〈サリアの大樹〉も破壊され、おれたち魔人が復活できなくなる。なので、無敗でなきゃ困るわけだが。
とにかく、ようはいまの魔人の王からの命令というわけか。
これでは、拒否権はないな。
「そうか。何かと辛いものだよな。ボスの座から追放されるのは」
「ソルトさんもそうでしたね」
「ああ。ただメアリーの場合、自分のダンジョンが閉鎖されてなくなってしまうわけだから、心中を察するよ」
「いえ、わたしの場合、まだダンジョン閉鎖ということで、かわりの者がボスの座についたわけではありませんから。ソルトさんのほうこそ、ショックは大きいかと思います」
おれは溜息をついて。
「まったく。おれたちのような、真面目にやっている魔人に限って、ろくな目にあわないよなぁ」
「そうですね。残念な話です」
二人して落ち込んでいたが、そういえば徘徊しとかんと。
というわけで徘徊作業に戻ると、メアリーも同行してきた。
「ところでメアリーは、何をどう堕落したんだ?」
「はい?」
「堕落した聖女というボス名だろ」
「さぁ。魔人なのに聖女ジョブという点が、堕落と認識されているのではないでしょうか?」
「なるほど。で、いまは【堕落した聖女】をやる必要もなくなったわけだが。〈ガリア城塞〉には何をしに?」
「セーラに呼ばれまして。あら」
メアリーの視線を追うと、アーグが駆け足でやってくるところだった。
「師匠! ついに、奴らがやってきました!」
「奴らって、誰?」
「神殿騎士団の精鋭たちです!」
「えーー。マジか。ってか、何人できたの?」
「騎士団総出、すなわち131人です、師匠!」
こいつら、まともに空気も読めんのだな。




