2,いまさら追放で辛い。
ここのところ、冒険者どもに敗戦続きで心が折れる。
それとは別に、同じ14幹部が一人、〈護魔卿〉が訪ねてきた。
〈護魔卿〉が運営している北方の城塞は、冒険者殺しの難所として有名。
モブ敵が中ボス並みの練度で、トラップは初見殺し、迷路構造で迷うばかり。
生還率は15パーセント。
攻略率にいたっては3パーセントだとか。
しかも熟達した三桁レベルの冒険者どもが、だ。推奨レベル200~とか、情報操作とか入ってんじゃないか?
〈護魔卿〉の姿はといえば。
青白い顔の男で、あんまり親しくない。幹部会議とかで集まったときは、こちらをまともに見ることもないが。どう見ても、あれはこっちを軽んじている。
ところが、今日はバカに馴れ馴れしい。
「おー、〈破壊卿〉。久しいな! わが友よ!」
こいつを友にもった覚えが微塵もないんだが。
ところで〈破壊卿〉というのが、おれの二つ名だ。
遠い昔、パリィスキルが出てくる前は、冒険者どもを破壊していたからなぁ。なつかしすぎて、死にたい。
「おー、〈護魔卿〉、友よ。久しいなぁ~」
こういうときって、相手とテンションあわせたくなるよね。
「〈破壊卿〉よ。しかし、どうしたことだ? ここはダンジョン〈暴力墓〉のはずだろう? ところが、どういうことだ? 地下型で、最下層のここまでは四層構造。ところがほぼ一本道だし、トラップもない。しかもモブ敵どもも覇気が足りん、とうより、あれでは野生の牡鹿のほうが強いんじゃないか?」
「あぁ、まぁ、そうだな」
こいつを友にしなかった理由がこれだ。
だが言い返せんのも事実。
ダンジョン系にせよ、城塞系にせよ、難易度は受け持っているボスによって決まってくる。
内部の複雑さとかトラップとかもそうだ。
が、何よりモブ敵どもだ。
モブ敵は冒険者に倒されたのち、そこのボスによって復活させられる。
つまり、ここ〈暴力墓〉ならば、このおれだな。
おれや〈護魔卿〉のようなボス格が、闇女神サリア様から直に復活させていただくのとは、違って。
で、復活させるモブ敵の強さというのも、やはりボスによって決まる。ボスが内包する魔水晶の量によって。
で、おれの内部に溜まっている魔水晶の量はどんなものか?
もう、かつかつである。
そりゃあ、そうだ。毎日のようにパリィ冒険者どもに倒されては、魔水晶を奪われているんだからな。
……しかし、あいつら、パリィ以外にすることはないのか? ガードとかしてくれりゃあ、ガードした盾ごと粉砕できるのに。
とにかく、魔水晶かつかつのおれでは、モブ敵も雑魚中の雑魚しか作れん。そんな雑魚中の雑魚では、冒険者どもに簡単に攻略され、最深部にいる俺のもとにあっさりと到達。
で、パリィ地獄で殺される。すると魔水晶を奪われ、さらにかつかつになって──この悪循環。
話題を変えよう。
「それで、あー、〈護魔卿〉よ。今日はまたどうした?」
「うむ。じつはソルトよ。お前に紹介したい者がいてな」
ソルトだと?
幹部同士で本名で呼ぶのはご法度のはず。冒険者が偶然立ち聞きしたら、どうなる? 二つの名の凄みが薄れるだろうが。
……〈護魔卿〉を本名で呼び返してやろうと思ったが、こいつの本名をしらなかった。
「〈護魔卿〉よ、紹介したい者とは?」
「あぁ、彼だ。入ってきたまえ」
そうして、ダンジョン〈暴力墓〉最深部に、もう一人の魔人が入ってきた。これまでは外で待機していたようだ。まったく気配を感じ取れんかった。そういうのは、もともと苦手だが。
「〈消滅卿〉だ」
と、〈護魔卿〉。
〈消滅卿〉は、見た目的には20歳そこそこ程度の若造。
まぁ俺も、見た目だけなら30歳くらいだが……それでも、おっさん枠か。
「あぁ〈消滅卿〉、よろしく……」
「あんたが、〈破壊卿〉か」
おれは握手の手を差し出したが、〈消滅卿〉はあからさまに無視。しかもバカにしたように笑う始末。
腹が立つが、もっと別のことが気になった。
「〈護魔卿〉。二つ名があるということは、彼も幹部なのか? しかし14人の幹部ではない。これからは彼が15人目の幹部となるのか?」
「いや、ソルトよ。幹部は14人のままだ。そして〈消滅卿〉には、今日からこの〈暴力墓〉のダンジョンボスを任せたいと思っている」
「……は? だが、ここはおれの」
「ソルトよ」
〈護魔卿〉が、おれの肩をぽんぽん叩く。馴れなれしい。というか、軽んじすぎじゃないか。
「お前はあまりに雑魚すぎだ。冒険者どもにバカにされるボスがどこにいる?
『パリィ練習用』とか『経験値を大量にくれるだけの能無し』とか、嘲笑われるようなボスが?
お前は魔人幹部の恥さらしだ。
よってわれわれ幹部会は決定した。
お前は追放だ。ボスとしての地位も、幹部としての地位も、二つ名もはく奪される。いまからはお前は、ただの魔物だ」