17,パリィしてみた。
まーてーよ。
この大男の冒険者が装備している巨大戦斧は、〈双蛾の斧〉ではないか。
レア度としては、レジェンドの次。ユニーク武器のひとつで、ようは唯一無二。どこのダンジョンを攻略すると手に入るんだったかな?
つーか、おれのユニーク武器〈魔滅の大槌〉よりも、通常攻撃力が髙かったはず。
あとは使用者の『筋力』補正次第か。
「俺の名を知っているか、【破壊卿】? 俺の名は、怪力無双のレックスさま!」
「あー、そうなの」
レベルは254か。
ステ振りからして、ジョブは剣闘士あたりか。剣闘士って、剣士との差別化のためか、やたらと筋肉系の奴が多いよな。どーでもいいけど。
筋力自慢だからといっても、敏捷性も捨てていないのは、先ほどの回避で判明している。
いや、何かしらのバフ効果かもな。バフ系ならば、いつまでもこの敏捷も続かないんだろうが。
ところで、パリィスキルを極めた、とか言っていたが?
「レックスといったか。パリィスキルを極めたとか?」
普段は戦闘中、冒険者と会話はしないんだが。
レックスはドヤ顔を維持したまま。
「ふっ。ちゃんと俺の言葉を聞いていたようだな。【破壊卿】。かつてボスだったころのお前をパリィ使用で殺してから、月日が経った。あいにく、お前ほどタイミングを取りやすい敵は少なくてな。ほとんどの冒険者はリスクの高いパリィスキルを捨てるが、俺は磨きをかけたのさ」
「……」
地味にプライドが傷つくことを言うね。
「そして、そのパリィスキルでお前をまた倒せると思うと、ワクワクする──と言いたいところだが、いまのお前など、パリィを使うまでもない!」
え、ディレイ攻撃を見せようと思ったのに?
レックスが〈双蛾の斧〉を振るう。
とっさにおれは〈魔滅の大槌〉で弾いた。
とたん〈魔滅の大槌〉が、おれの手から弾き飛ばされる。
えー。力負けしたの?
それって、かなり屈辱的。
「これで、俺の勝ちだ!」
確かに、これはドヤ顔されても仕方ない。
ここは負けるとするか。
怪力冒険者レックス、恐るべき──
そのとき、なんとセーラが、のんびりとした足取りでやって来る。
「兄貴、晩御飯のことだけれども」
「いまか? いまなのか?」
タイミングが悪すぎる。
兄として、ここで妹の前で殺されるのだけは、避けたい。
兄の威信というものが。
「もらった!」
レックスはセーラの登場も気づかず、高く跳躍。
〈双蛾の斧〉が、おれの頭上へと振り下ろされる。
ガードしてもやられるだけだ。
では、どうするのか?
とっさにおれがしたのは──
「な、なんだと!!」
「あ、やっちまった」
硬質化した右腕を盾がわりにしてのパリィである。
とにかく冒険者にパリィばかりされてきたので、こっちもパリィスキルを会得してしまっていた。
ただ今まで、あまりに卑怯というか、ボスとしての沽券にかかわるので使ってこなかったが。
まぁ妹の前で殺されるよりかは、だいぶマシということで。
パリィをくらわされたレックスは、その場でダウンした。
冒険者もパリィされると体勢が崩れるものなんだな。当然か。
「し、信じられ、くぎゃぁぁぁぁぁ!!」
レックスの頭部をつかんだセーラが、生きたまま引き抜きだした。
「……」
ついにレックスの頭部が引きちぎれる。
セーラも人型のまま引っ張ったものだから、引き抜くまでに無駄に時間がかかってしまったわけだ。
無駄に苦しませるなぁ~。
セーラは生首を捨ててから、すっかり興味をなくした様子で言った。
「兄貴。今夜は外に食べにいくわよ」
「外って、どこだ?」
「近くの人間の都市。そこに行きつけりレストランがあるのよ」
「魔人という自覚がない奴だなぁ、お前は」
おれは、主が死んだ〈双蛾の斧〉を拾い上げた。
二刀流でもしてみようかな。