16,徘徊中。
徘徊モブ敵の朝は遅い。
〈ガリア城塞〉の出入り口が開くのが、昼頃からだからだ。
これはボスであるセーラの、『早起きするのはごめんこうむる』という発想によるもの。
あと年末もダンジョン閉鎖されている。
これもまたセーラいわく、年末くらいはゴロゴロしたい、という、いつもゴロゴロしている者の発言だろうか。
〈暴力墓〉などは年中無休だったものだが。
とにかく、おれは仕事熱心なほうだ。やるべきことがわかれば、しっかりとやるもの。
徘徊するのが仕事ならば、徘徊しよう。
しかしこのダンジョン──迷路すぎる。
ダンジョン構造はボスの性格が反映されるもので、〈暴力墓〉は初心者冒険者向けなので、これはもうシンプル構造だったものだが。
セーラがクリア報酬を更新したために、冒険者たちがよく来るようになった。
セーラも『初見殺し』をやめてくれたようで、けっこうな数の冒険者が、侵入してくるように。
これで〈ガリア城塞〉内の魔物たちも、ようやく働けると喜んでいることだろう。
と、思った、ある日。
屍武者が死んだような顔で、おれに言った。
「ここのところ冒険者たちが来るもので、辛いんです」
「あぁ。そうなのか。辛いのか」
「これはみなの総意でして。殺されるのに慣れていないんです、われらは」
〈ガリア城塞〉のモブ敵は全体的にレベルが高め。
だが、ここに乗り込んでくる冒険者もレベルは高く、いまさらモブ敵ごときで足元はすくわれない、ということかぁ。
そもそも〈ガリア城塞〉の攻略難易度をSSSランクにたらしめているのは、ひとえにボスであるセーラによるもの。
「まぁ、頑張れよ。それが仕事だろ」
「はぁ」
徘徊に戻る。
ふと横合いから攻撃を受けた。
おっと、徘徊しているのに、冒険者を驚かせるどころか、こっちが驚くハメになるとは。
相手がたは、隠密スキル+探索スキルに長けているようだ。
徘徊中のこちらを早めに感知し、さらに隠密系で気配を消して──いや姿を消しているぞ。
攻撃はいまも受けているのに、冒険者の姿が見えない。
こっちはガードで手一杯だ。
というわけで、困ったものだと、周囲を見回す。
不可視になるスキルとか、〈暴力墓〉に来るような低位冒険者は取得していないからなぁ。
そもそも、パリィすれば済むので、向こうも透明にはならんか。
うーむ。せっかくのディレイも、見えない敵相手じゃ、使えんか。
とりあえず、ユニーク武器〈魔滅の大槌〉を振り回しておいた。
ぐちゃり。
謎の手ごたえ。
ぽかんとして、手元を見てみると、不可視が解けた冒険者の潰れた死骸が、〈魔滅の大槌〉から落ちるところだった。
これは思いがけない発見。こっちは目標もなしに振り回したため、向こうもパリィのタイミングを取れなかったのか。
もしかして、毎回ディレイしなくても、適当に振り回すだけで、相当効果的なのでは?
新たなる発見とともに徘徊を再開。
それからも何度かソロ冒険者と遭遇。
それぞれ、こんなところに〈暴力墓〉のボスがいるもので驚いていた。
で、パリィができないと知って、さらに驚愕の表情で死んでいった。
殺しすぎには注意だが……妹のセーラのもとに、あんまり冒険者を送り込みたくないという、この兄心。
たとえ、その妹が修羅鬼畜に強いと分かっていても。
あるとき、特大の大斧を引きずるようにして、大柄な冒険者と遭遇した。
おれは深く考えずに、〈魔滅の大槌〉でディレイ攻撃。
ところが向こうは、思いがけない敏捷性で、後方回避。
それから、フッと笑って言った。
「馬鹿め。俺はパリィスキルを極めている。だから分かる。貴様、さてはディレイを仕掛けてきているな」
「そんなこと、ドヤ顔で言われても困るが」