14,来るもの拒まず。
頭がおかしくなった聖騎士が、冒険者グループへ特攻。
──からの〈聖瀑布〉という大技。
聖属性の全体攻撃で、魔法と物理のあわせわざ。何が言いたいかといえば、物理防御は不可で、魔法結界でもダメージ半分削るのが限度。
冒険者たちの半分が、この一撃で死んでしまった。
聖騎士、強すぎ問題。
【堕落した聖女】ことメアリーが、ボス部屋から出てきた。
ぺこりと頭を下げて
「あの、今日はたいへん助かりました……えっと、これは何事でしょうか?」
冒険者同士の争い。
というより、血迷った聖騎士の暴走を見て、メアリーも目を丸くしている。
魔人とは、大きく二つのタイプに分別される。
おれやメアリー、妹のセーラは、人型。
バトルフォルム時はもう少し魔物寄りになるが、基本的には人と同じ姿をしている。
お創りになったサリア様の目的は、いまだに分からない。つまり、人型の魔人を創造された意味は。
人類に潜入しやすくするためか、または最終的には和平交渉をするためだったのか。
まぁとにかく、何が言いたいかというと、驚いたときの表情は、人間と同じということだな。
「聖騎士が、闇黒騎士になりたいと言い出したもんで」
「はぁ。あの、闇黒騎士というジョブ、ありましたっけ?」
「魔人側に、似たのがいた気がする。というか、屍騎士とかいう魔物がいたような。被るなぁ。まぁ強さ的には、断然、こちらの闇黒騎士だが」
屍騎士は、『モブ敵にしては強いので、囲まれると厄介だが、一対一で対処すれば怖くない』程度だからな。
ちなみに真の雑魚は、『囲まれても問題ねぇ』。
「……まってください、ソルトさん! これ、どうされるのですか?」
メアリーは、ようやく事情がのみこめたようで──
しかし理解が遅かったのは、メアリーのせいではない。冒険者が、魔人に『寝返る』という事態、そうそう起こるものではない。
ましてや、レベル400超えの聖騎士が。前代未聞といってよい。
「どうされるのか、と問われても、困るんだよなぁ。そもそも闇堕ちした冒険者の扱いかたマニュアルとか、あったっけ?」
長らく〈暴力墓〉で引きこもっていたので、いまの時代に疎い。
案外、闇堕ち冒険者の数も増えているかもしれないし、魔人側がマニュアル作成とかしてくれていたかもしれない。
「そんなものはありませんけど……」
「だと思った」
「ですが、一般的な闇堕ち冒険者は、利用しつくしてから始末します」
「魔人的だなぁ」
「ただ、『あれ』は別です。レベル450の聖騎士ジョブなど、利用することはできません!」
「まぁ無理もない。じゃ、どうする」
「不意うちで、殺しましょう」
「え?」
わが耳を疑う瞬間。
メアリーは、聖騎士アーグを背後から急襲し息の根止めよう、と提案してきたのだ。なんという悪魔の発想か!
まぁ魔人だしな。
「いまならば──聖騎士が、冒険者たちと戦っているいまならば、わたしとソルトさんの連携攻撃で、始末できます。背後から、死技で決めましょう」
「……いや、まってくれ。おれは、冒険者の背後を取ることはしたことがない。そういうことは、しない主義だ。ボスたるもの、堂々と待ち構え、前口上を述べねばな」
「ですが……前口上を述べてから、堂々と殺せますか? あの聖騎士を?」
「それ、なんだが」
おれが考えを述べると、メアリーは正気を疑う眼差し。
「本気なんですか??」
「これも何かの縁かもしれないし。よく言うだろ。来るもの拒まず」
「……」
冒険者グループを皆殺しにし、白銀の鎧を返り血で真っ赤にした聖騎士アーグが、こちらに歩いてくる。
なんか目がぎらぎら輝いていて、だいぶ正気のほどではない。
そんな聖騎士が、おれの前に来て、跪いた。
「師匠、これで証明になりましたでしょうか?」
「あー。弟子にしてやってもいいが。いまのおれは、幹部ではないぞ。ただのモブ敵だ」
聖騎士アーグ、さすがに頭がおかしいだけあって。
「でしたら、師匠が魔人の王の座までなり上がるのを、お手伝いさせてください!」
は? なにを言っているんだ、こいつは。そんな大それたことは、一ミリも考えてない。
メアリーが、なんか尊敬の眼差しを、俺に向けてきた。
「え、そんな野望がおありだったのですか? ソルトさん、かっこいい」
「…………」
厄日だな。最近。