11,聖騎士(前編)。
──アーグの視点──
聖騎士というジョブは、とても稀なものだ。
なりたくても、そうそうなれるものではない。
聖なる力を宿し、同時に騎士スキルにも長けていなければなることはできない。
アーグは生まれながらに、この二つの才覚を有していた。
ただ才能があっただけではない。鍛錬を惜しまず、レベルも450に到達している。
巷の噂では、レベル上限は523だとか。
ただ、さすがにここまでレベルが上がると、伸びも悪くなる。
それに必要なスキルはすべて身につけ、防具もレジェンドクラスをそろえ、剣にいたってはかのエクスカリバーを装備している。
つまり、これ以上のレベル上げなど不要。
すでに14のダンジョンでボスを撃破している。
すなわち〈魂の欠片〉を14個入手してあるわけだ。
あとは最終ダンジョンに乗り込み、〈サリアの大樹〉を破壊するだけ。
そうすれば、長らく続いた魔人との戦争も終わり、人類は平和に──はならないだろうが(人類同士の争いはどうせ終わらない)。
だが少なくとも、聖騎士アーグの名は、いつまでも語り継がれることになるだろう。
そう、あとはただ最終ダンジョンに行くまで。
アーグの知人は、最終ダンジョンに挑む前に、〈ガリア城塞〉という辺境のダンジョンに行ってみてはどうか、などと言っていたが。
噂では、冒険者ギルド側の指定ランクは正確ではなく、〈ガリア城塞〉の攻略難易度はSランクだとか、なんとか。
アーグは失笑で返した。
バカバカしい。ただの噂ではないか、と。辺境のダンジョンごときが、Sランクだと? ボスは幹部でもないのに? ありえない。
それに今更、Sランク程度が高難易度にはならない。
聖騎士として完成された己は、最終ダンジョンさえも、クリアしてみせるだろう。
ではなぜ、いまここにいるのか。
この下級ランクの〈聖なる呪われた墓地〉に。
それは、あるアイテムドロップを求めて。
〈聖の水〉という、希少価値の高いアイテムを。
〈聖の水〉。
これは聖属性の効力を、一定時間、高めてくれるものだ。聖騎士として、〈聖の水〉はいくらあっても多すぎることはない。
〈聖の水〉を補充して、いざラスダンに挑もう、というわけだ。
そうして、いまや〈聖の水〉も大量に集めた。
ただでさえ僧侶ゾンビのドロップの希少性が髙い上に、聖騎士のパッシブスキルが、〈聖の水〉を出させやすくしているためだ。
あとは、ここのボス──確か【堕落した聖女】を倒して、ダンジョンから出るとしよう。
そうして一人歩いていると、前方から冒険者グループが走ってきた。
知り合いではあるが、名前までは覚えていない。そういう連中。
聖騎士アーグは立ち止まった。
「逆走しているようだが、諸君?」
逆走してきた冒険者グループの一人が、青い顔で言う。
「あんたは、聖騎士じゃないか。良かった。あんたに同行させてくれないか? どうやら、この先に『何か』いるようなんだ」
アーグは首を傾げた。
「『何か』だと? それは【堕落した聖女】のことじゃないのか?」
「いやボス部屋の前の、雑魚モンスターなんだが。みんな、そいつに血祭にあげられているらしい。そんな雑魚はいなかったはずなんだが」
アーグは少しばかり興味を覚えた。『ボスより強いモブ敵』とは、冒険者にとっての悪夢──または好奇心の対象か。
「どんなモンスターか聞いたか?」
生き残りがいないのだから、聞きようがないか。
だがモブ敵ならば、ボス部屋と違い、引き返すことは可能だ。
「未確認情報なんだが、【破壊卿】のようだ、とも聞いている」
「【破壊卿】だと…………」
アーグが黙り込むと、相手の冒険者が言う。
「だがおかしいな話だよな。あれは幹部の中でも、雑魚中の雑魚だというのに。パリィし放題の」
「ふむ……」
アーグはあることを思い出していた。
腕試しとしてパリィ縛りで、【破壊卿】に挑んだことがあったが……そのとき、すでにより上位の幹部ボスを撃破しており、いくらパリィ縛りでも楽勝と踏んだのだが。
思いがけず大苦戦した。
いや、それどころか……。
「確かめる必要があるな」