107,後日談は簡潔に(完)。
長い戦いが終わった……
結婚して終わった。
その後。
さまざまなことが再編成されることに。
まず、セーラは冒険者ギルドのギルマスの座を、ミシェルに譲る。
そして恙なく、ラスダン〈紫ガ城〉のラスボスとなった。
セーラを撃破できる冒険者は、永久に現れることはなさそうだ。
しかし他のダンジョンでボスをやれそうな魔人は、ほとんど残っていなかった。
アリサ一派によって消滅させられてしまっていたため。こればかりは、取り戻した〈サリアの大樹〉でもどうにもならない。
セーラは、『別の宇宙』の冒険者たちも、新たな客として招く考えのようだが。
そのときはまだ随分と先になるだろう。
まず、自分たちの魔人たちの育成から始めねばならないので。
えーと。つまり、おれはさらに古参、おっさんということになってしまうのか。
※※※
ふむ。
後日談ということならば、いろいろと語ることはできる。
魔人は何百年と生きるからな。
しかし、だ。その手の後日談は、また機会があったら、語るとしよう。
そういえば先日、メアリーから妊娠したと。
まさか、このおれがパパになるとはな!
……子育ての自信がない。
とにかく、おれは〈暴力墓〉に戻った。
わが古巣。我が家に帰る、だ。
これからも〈暴力墓〉は、冒険者たちの『はじめの関門』として、役割を果たすことだろう。
よって《時間跳躍ディレイ》も、封印だな。あれは誰も回避できないし。
まぁ通常のディレイは使うが。
※※※
さて、別れもあった。
勇者少女だ。
おれが〈暴力墓〉に戻ってからしばらくして。
「勇者少女。まさか、お前が旅立つときがくるとは──『別の宇宙』に」
「その『まさか』というのは、わたしが『別の宇宙』に行き、見分を広めることに対する驚きなのよね?」
「というより、お前は一生、ミシェルに寄生しているものと思ったから。な、ミシェル?」
ミシェルは別れの寂しさに、大泣き中。
「うう、セシリア。いつでも帰ってきていいんだぞ。私がいるところが、貴様の我が家だぞ。うう……」
勇者少女は困ったように笑う。
「今生の別れでもないのに。サリアの生まれ変わりとして、さまざまな世界を見て歩こうと思っただけ。じゃ、もう行くわね。大丈夫。定期的に帰ってくるから」
勇者少女はミシェルに別れのハグをしてから、おれにうなずきかけた。
「じゃぁな、勇者少女。手紙、たくさん書けよー」
「ばいばい、またね」
※※※
そういえば、アーグも生きていたんだったな。
しぶとい首無し騎士だ。敵がたの《首無し》スキル解除を、さらに解除されたことによって、復活したらしい。
※※※
で、おれはいま、〈暴力墓〉のボス部屋に待機中。
中ボスのアーグが、先ほど撃破されたという知らせが届いた。
やがて、アーグを撃破した者が、ボス部屋に入ってくる。
二人の冒険者。
片方は、久しぶりに見る姿。さらに成長し、強くなったようだ。
まてよ。もう四年になるのか。〈紫ガ城〉での、アリサとの戦い以来の再会。
お互い、立場が違うので、そうそう会わないほうがいいだろうと。
しかし、やはりこうして弟子との再会は嬉しいものだな。
「ケイティ。こうして、このダンジョンで会うことになるとはな」
「ソルトさ──いえ、【破壊卿】。やっぱりソルトさんで。お会いできて嬉しいです。ですが今日、わたしはただの見守り役です」
「ああ、聞いたよ。アーグを撃破したのは、お前じゃないそうだな。そっちの、」
ケイティのそばには、まだ12歳程度の少女が立っている。
少し怯えているようでもあるが、勇気を振り絞っているようだ。
この若さで、アーグを撃破するとは。将来有望な冒険者である。
「紹介しますね、ソルトさん。彼女はライラです」
ライラが装備しているのは、魔法剣〈ゴーグの剣〉。かつてはケイティが装備していたものだが、受け継いだようだ。
「ライラか。つまり、ケイティ、君の弟子というわけだな」
「はい」
つまり、おれの孫弟子か。
「今日は、わたしの自慢の弟子であるライラが、ソルトさんを──【破壊卿】を撃破するのを見届けに来ました」
おれはボス用の玉座から立ち上がる。
おっと、当然、すでにバトルフォルムだ。〈魔滅の大槌〉を持ち上げる。
「ほう。言ってくれるね。だが、いくら『はじめの関門』のボスだからといって、簡単に撃破できると思ったら、大間違いだ。それでは──ああ、そうだ。戦いを始める前に、ひとつだけ忠告しておくぞ、ライラ」
ライラはすでに魔法剣を構えていたが、緊張した様子で言う。
「な、なに?!」
「おれに対して、パリィは狙わないことだ。ディレイするからな」