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106/107

106,これが本当のディレイ。

 


 アリサの潜んでいるのは、こちらの世界と、『別の宇宙』。

 その狭間だろう。


 セーラがあえてこれまで姿を隠していたのは、追い詰められたアリサが、こちらに干渉してくるのを待つため。

 どこに潜んでいるのか、確実に見出すためだろう。


 アリサとしては、行動を起こさずにはおけなかった。

 こっちの冒険者ギルドのギルマスと結託していたのに、その手駒は消された。

 ついには精鋭の魔人パーティを送り込むも、苦戦を強いられていた。


 親玉のアリサが動き、魔物を供給するほかなかった。

 が、それによって、妹に見つかったのだ。


 では、おれも妹を追って行くか。

 世界と、世界の隙間に。


 我が身を滑り込ませる。

 空間転移の応用だな。案外と上手くいく。


 そこは無限の空間ともいえたし、意外と手狭な場所でもあった。床がないので、宇宙空間のようでもある。ただし目の痛くなる紫赤色であり、かつ重力方向はあるが。


 どうも、落ち続けているようだ。


 その状態の中、セーラとアリサが向き合っていた。

 アリサの姿は、第一印象は、『ばったもん』。


 つまるところサリア様の残滓に過ぎない。その姿もまた、サリア様を真似てはいるが、美しさ、高貴さで、足元にも及ばない。


 セーラが先に、おれに気付いた。


「あら、兄貴。来たのね。いま決着がつくところよ」


 アリサも、こちらに気付いて視線を向けてくる。


「……貴様らにはガッカリだ。我がなんなのか分かっているのか。我こそが、サリアの遺志を継ぐものぞ。貴様ら、我に跪くのだ。おい、ソルトよ。さぁ、我に従え。貴様はこの小娘と違い、サリアに忠誠を誓っていたな。では、我こそが貴様が仕える主と分かるはずだ」


 おれは呆れた。


「バカが。サリア様の遺志は、おれが引き継いでいる。それは冒険者と魔人のバランス、正しきダンジョン攻略難易度と、ダンジョンボスと冒険者との互いのリスペクトにある。よその宇宙からきてかき乱したお前には、なんの権利もない」


「な、なんだと!」


 セーラが苦笑した。


「あたしのパッシブスキル〈天上天下、唯我独尊〉で殺そうと思ったけれど。兄貴がぐさりと言ってくれたものだから、アリサに対するいら立ちもなくなったわ。あまりにこいつが憐れで」


「発動条件が満たされない? じゃ、おれが殺しておく」


〈魔滅の大槌〉を両手持ちし、アリサ目掛けて駆ける。


「我を侮るなよ!」


 アリサが迎撃態勢に入ろうとするも、セーラの闇属性奥義《闇が降る》による飛ばされた闇黒羽が、動きを封じた。


「き、貴様!」


「あたし、黙ってみている、とは言ってないわよー」


 さぁて。あたためていた新必殺技を使うか。あまりに破壊力がありすぎて、ダンジョン内で使い道がなかったが。

 別宇宙との狭間なら、有りだろう。


「愚かなるサリア様の偽物、食らうが良い。この一撃必殺、《滅する破動》!!」


 これは、ただのディレイでも時間跳躍でもない。

 ディレイしながらも、エネルギーをチャージする。

 しかもチャージ時間は、時間跳躍によって無限の時間とカウントされるのだ。


 その威力たるや、絶対無比。


「こ、こんなものぉぉぉ!」


 まさかのアリサ、パリィに入る。

 あのな。《滅する破動》は無限ディレイなので、パリィなんて永久にできない。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!!」


 アリサが綺麗さっぱり消え去り──その破壊の渦によって、おれとセーラは、もとの世界に吹き飛ばされた。


〈紫ガ城〉の入口に弾きだされたおれの右手から、〈魔滅の大槌〉が飛び。

 天井にめり込んでしまった。


「……天井、高いな。30メートルはあるか? あとでミシェルにとってきてもらおう。ん?」


 新手の気配がする。

 視線を転ずると、生意気そうな若造が歩いてくるところだった。

 その姿は──


「【消滅卿】か? 本物の? まさか、てっきり、アリサ一派によって消されていたかと思った」


 セーラがくすくすと笑って。


「あいつ、モブ敵のふりして、逃げのびていたのよ」


 おれもモブ敵役をやったことはあったが、そんな卑怯なことはしていない。


 というか、【消滅卿】の奴。おれと妹がアリサを滅ぼすのを、安全な場所から隠れて見ていたのか。

 でなければ、このタイミングでは現れることはできないだろう。


 で、【消滅卿】がほざいた。


「いいか! よく聞け! いまとなっては、僕こそが、正統なる魔王だ! なぜなら、ほかの幹部はみな死んだ! そして、お前たち兄妹は、幹部ではないからだ! 僕だけが生き残った幹部であり、そして──」


 天井にめりこんでいた〈魔滅の大槌〉が、ずるっと落ちた。

 そして喚いている【消滅卿】の頭頂部に着弾。


 ぐちゃりと、その頭部が潰れた。


「……これが本当のディレイ(遅延攻撃)だな」


 〈滅却絡繰り〉、使っておこー、と。


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