105,最後の決戦中だし結婚する。
てっきり空間転移用のゲートでもあるのかと思ったが。
それは、へたに捻った考えだったようだ。
単純明快な話、魔物たちは無から出現している。
これはダンジョンで魔物を産出するときと同じ法則。
このラスダン〈紫ガ城〉を、勝手に向こう側のルールで設定しなおしているようだ。
こんなことができるのは、サリア様の残滓たるアリサに他ならない。
ということで、敵の親玉はここにいるということになる。
姿は現していないが。
ふむ。では、セーラの奴も──
「まずは、慰みものにされている気の毒なメアリーを助けておくとするか」
ヤマタノオロチの心臓がある本体部分に、〈魔滅の大槌〉を叩きこんだ。消滅。
メアリーがすすり泣きながら、這ってきた。
「うう、汚されてしまいました。もうお嫁にいけません」
「よしよし、おれが引きとってやるから」
「え、本当ですか? プロポーズですか? あの、わたしで良かったら、よろしくお願いします」
「え? あ、そう。じゃ、そんな感じで。よろしく」
結婚おめでとう。
こんなことしている場合だろうか。
「長い回り道をしたが、バフ解除を頼めるか」
「任せてください。よろしかったら、死者蘇生の付与者のもとまで運んでくださいます? えーと、まだ足腰が立たなくて。蹂躙されていたので!」
そんな『!』つけんでも。
メアリーを抱きかかえ、お姫さまだっこという古典的に、跳躍。
群がってくる魔物たちを、勇者少女の《不の刃》が両断していき、道を開く。
これで必要なほどに接近した。
メアリーが敵性者のバフ解除、《癒しの反転》スキルを発動。
ヒーラー兼ネクロマンサーの魔人にバフ解除を行う。死者蘇生の状態がバフと解釈されるか不安もあったが、効果は絶大だ。
ヒーラー兼ネクロマンサーは消滅し、それに連動して、ほかの死者蘇生状態だった魔人たちも倒れていく。
これで敵魔人パーティのうち、ヒーラー兼ネクロマンサー、単体アタッカー、デバッファー、バッファーは潰したことになる。
残りは全体攻撃のアタッカーであり、これはケイティと死闘中。
ケイティのステルススキルが限界を突破し、敵の全体アタッカーのすべての剣を回避。
背後に回り込んでも、全体アタッカーは気づくことさえない。
その背中から魔法剣〈ゴーグの剣〉を貫き、風刃を四方へと放った。
「お見事」
翼竜型魔物を掃滅したミシェルが、自身のマナドラゴンに乗り移ってから、降下してくる。
「敵パーティは片付いたようだが、魔物たちはまだ多い。というより、殺しても復活するばかりだな。敵パーティの魔人たちは復活しないようだが──【堕落した聖女】はなぜニコニコしているんだ?」
「先ほどソルトさんと結婚しました」
こちらに駆けつけていた勇者少女とケイティ。
ケイティがメアリーの報告を聞いて、
「えっ、」
となんだか絶句した。
勇者少女が溜息をつく。
「面白い展開だけど、いまはそんなことよりもっと大事なことがあるように思う。わたし、いま、まともなことを言ってしまった感じ? あぁ、このパーティのなかで、わたしが最も精神的に成熟している、ということよね」
ミシェルが、それは違うだろう、という顔で勇者少女を見る。
「もしや、敵側は無尽蔵に魔物を復活できるのか? だとすれば、ジリ貧ということになるが」
おれは首を横に振った。
「いや、大丈夫だろう。よくよく考えると、妹がこの場面にいないというのは、おかしな話だった。当人としては、いまほど盛り上がる場面もないだろうに」
「つまり?」
「きっと、いいところを持っていくつもりだ。しかし──」
アリサを仕留めるなら、妹だけでは、万が一ということもある。
ここはお兄ちゃんも駆けつけるときだろう!
たぶん。