103,さすが聖女。
「敵のヒーラーを殺せ。あと、うちのヒーラーはちゃんと守ってよ」
うちのヒーラーで、デバフ解除担当のメアリーはどこに行った?
メアリーは玉座の下の隙間に入り込んでいた。おれと目があうと、親指をたてている。
ところで、死者蘇生って、敵がわのバフ効果扱いになるのか?
メアリーに敵バフ解除スキルもあれば、いいんじゃないか。ここにきて、メアリーにそこまで求めるのは、酷というものか?
現状を整理するに。
おれが戦っている全体型アタッカーを、まずケイティに預ける。
「ケイティ、任せた」
「え? あ、はいっ!」
ケイティ、装備するは風属性〈ゴーグの剣〉、パッシブスキル《上限突破》によってテータスは二倍。さらに必殺の《覇・滅の斬》の連撃。
ここで全体アタッカーの魔人を潰しても、敵ヒーラーによって復活させられると厄介だな。
いや、あれは厳密には復活ではない。そこが重要か。
ミシェルの空中支援を受けつつ、玉座のそばまで滑り込んだ。
「メアリー。もしかして、敵のバフ解除スキルとか、あったりする?」
「はぁ。そういえば、ありますよ。わたし、回復以外なら結構できます。回復は苦手ですけども」
それはもうヒーラーではなく、デバッファーな気がしてきた。聖女なのに。
「いや、さすが聖女! その万能さ!」
「え、そうですか? 褒められて恐縮です」
「で、そのバフ解除スキルで、敵の死者蘇生を解除できるんじゃないか?」
「あ、それは試したことがありませんでしたね。試してみます。ただもう少し近づかないと」
メアリーを護衛しつつ、前進。
どうも敵の数が多いと思ったら、どこかのバカが、魔物を召喚しているらしい。
敵パーティの中に召喚スキル持ちがいたのか。
飛びかかってくる魔物を排除しながら、ヒーラー兼ネクロマンサーの死者蘇生で元気溌剌たる単体アタッカーを発見。
近づいていくと、メアリーが、蛇型の魔物に文字どおり足をすくわれた。
「きゃっ。ご安心ください、わたしもかつてはボスだった身。インフレに負けずに戦いま、あぁぁぁ!!」
蛇型魔物に引きずられていった。いや、まてよ。
この蛇、胴体につながっている。あぁ、ヤマタノオロチか。レベル350。
メアリーを、敵召喚のヤマタノオロチから助けねばならないし、やることが多い。
視線を転ずると、敵の増えるばかりの魔物軍勢の向こうで、敵ヒーラー兼ネクロマンサーの姿があった。
そのそばの裏口から、首無し騎士が駆けこんでくる。アーグ。あいつ、生きてのたか。
ちゃんと生首も拾ってきたらしい。
「師匠! 不肖アーグが参りました!」
「いいところに来た。アーグ、そこのヒーラーを、殺せ」
「師匠! こいつですか!」
敵ヒーラーも、まさかいまさら、新手がボス部屋裏口からやって来るとは思わなかったらしい。
不意打ちとはこのこと。
アーグの聖剣がうなりを上げて、無防備な敵魔人のヒーラーの首を刎ねた。
ふぅ。これで死者蘇生は潰した。
「アーグ! お前を弟子にとって良かったと思った、いまが初めてだ!」
「師匠!! ……ここ、喜ぶべきポイントですか?」
とたん首を刎ねられた敵ヒーラー兼ネクロマンサーが起き上がり、魔杖でアーグをつきさす。
まさかのバフ解除で、アーグがただの首無し騎士、ようは死体と化して倒れた。
はぁー。あのネクロマンサー、自分に死者蘇生をかけた上に、アーグの『首無し騎士』パッシブスキルを解除しやがったのか。
「だーかーらー、そーいうの、やめろ」
とりあえず、メアリーさんを助けよう。