102,乱戦だもの。
あまたの攻撃が同時に起こった。
敵魔人のパーティは空間転移して乗り込んできたようで。
ミシェルがマナエネルギーのドラゴンに騎乗し、飛びあがる。空中から援護しようということだろうが、敵側にも飛行することを読まれていたようで、上方からの隕石攻撃。空間射出型の魔法陣が展開されているわけだ。
「人の部屋に隕石を落とす奴があるか」
ひとまずおれは玉座を跳躍台にして魔法陣まで飛びあがり、破壊しておく。
ミシェルが空中に飛び上がったところで、こっちは敵の情報把握。
どれを優先的に撃破するべきか。
たとえば、複数長剣をぐるぐるさせている全体アタッカーはどうだろうか。あの長剣、定期で魔法弾を射出しているらしく、こちらの仲間たちをじりじりと攻撃している。
空中で方向転換して、降下。
全体アタッカーの脳天に〈魔滅の大槌〉を振り下ろそうとしたところ、なんか世界の動きが緩やかになった。
こっちは《時間跳躍ディレイ》を使った覚えがないんだが。
勇者少女が通常速度で走ってきて、おれを見てから、誰かを指さした。敵パーティのデバッファーを。
つまり、おれはいまデバフ状態、減速されているのか。
「誰か、デバフ解除ー、解除ー、できる人、いないのか?」
そういや、誰もいないような気がしてきた。
敵パーティの単体アタッカー、炎の剣を持った大柄の魔人が、短い空間跳躍をしながらこっちに飛んでくる。
もしかして、でもなく、こっちが減速しているものだから、トドメをさしにきたんじゃないか。
先に攻撃をしようと、こっちは〈魔滅の大槌〉を敵に向けて振り下ろしにかかる。
しかし減速デバフは依然としてかかっているので、これは間に合いそうにない。
なんたってスローモーションだもの。
単体アタッカーの、青い肌をした魔人がにやりと笑って、必殺の一撃を放ってきた。
その一撃が達する前に、こっちは《時間跳躍ディレイ》発動。
時間跳躍を前方にしたことで、単体アタッカー魔人の脳天に叩き込む。
まさか、という顔がぐしゃりと潰れた。
《時間跳躍》は減速デバフを乗り越える。
「ディレイ、強し。これがディレイなのか微妙だが」
ふいにデバフが解除された。飛び交う魔弾を避けるため匍匐前進中のメアリーだ。
「メアリー。デバフ解除できたのか。偉い子」
「さっき、わたしも気づきました!」
気づくのが遅いなぁ。
とにかく敵パーティのデバッファーが厄介で、この時点でも、ケイティとミシェルが減速されていた。
減速といっても、ほとんど空間固定なみの強力さ。さすが魔人側も精鋭をそろえてきたわけだな。
メアリーは匍匐前進しながら、ケイティたちのデバフ解除していく。
この戦い、勝利したらメアリーをMVPにしよう。
しかし敵パーティにも、こちらにデバフ解除持ちがいることがバレる。
となると、まず狙われるのはメアリー。元ボス格だが、この戦いではレベル1冒険者なみに脆弱な。
「あ、まずい。誰かメアリーを守ってやれ!」
おれが守ってやれればいいのだが。
なぜか知らんが、全体アタッカーの奴と一対一で戦うハメになっていた。
複数剣を操るだけでなく、この剣ひとつひとつが、レベル300前後の力を持っている。
あと属性攻撃も分けているので、苦戦必至のムカつく敵。
いや、まて、まて。敵パーティのアタッカー一人死亡、一人はおれが相手しているんだ。
あとはバッファー、デバッファー、ヒーラーだろ。戦える役割は残っていない。
勇者少女もいるのだし、もう勝負は決まったも同然では?
で、視線をちらっと向けると、さっき頭を潰した単体アタッカーの魔人が、なんか元気に暴れていた。
「魔人だからって、死んだら、死ぬだろ?」
単体アタッカーの魔人の一撃を受け、防御したものの弾き飛ばされていた勇者少女。
おれのそばで勢い殺してから、言った。
「敵のヒーラー、ネクロマンサーも兼ねているみたい」
「あー、そういうのズルいんでないかい?」