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101/107

101,世界を救うのだ。

 


「それでソルトさん。わたしたち、何をするのでしょうか?」


 と、ケイティが問いかけてくる。


「それはだな──……………………世界を救うのだ」


 我ながら適当すぎる説明だったが、ケイティの心には突き刺さった。


「世界を救うのですね!」


 と、目を輝かせて言うものだから。


 まぁ『別の宇宙からの魔人』たちが、この世界での冒険者と魔人のバランスを尊重するとは思えない。となれば、ここで撃破することは、まさしく世界を救うことにほかならない。


 その後、『別の宇宙からの冒険者』もお客にしよう、という妹の発想は、このさい関係ないわけだ。やれやれ。


【碁怒卿】からの使者として、一体の獣型魔物が走ってくる。


「陛下。わが主【碁怒卿】からの報告です。敵パーティを見失いました。奴らは、あるダンジョンフロアに入るなり必然と姿を消したのです」


 ふむ。陛下って、誰だ。

 あぁ、おれか。なんか祭り上げられた気分。


「あー、ご苦労。しかし、どうして消えることができる? ショートカットはないはずだ」


 ダンジョンによっては、遊び心から、『ボス部屋直通の裏道』なんていうものを用意してあるところもある。が、このラストダンジョンに至って、それはない。


 勇者少女が何やら気づいた様子で、おれに言った。


「ひとつ、思いついたことがあるのだけど。わたしが、ラスボスをやるというのは、どう?」


「ラスボスを?」


 勇者少女が、そういうものをやりたがるとは思わなかったな。しかし考えてみると、勇者少女こそが適格なのかもしれない。

 闇女神サリアさまの生まれ変わりだものな。


 しかし、本当にそれだけか。


「どうしたいんだ?」


「そこの玉座に腰かけさせてもらえる?」


「……いや、それは断る」


 勇者少女の奴、ラスボスの玉座に腰かけることで、いざというときの身代わりになるつもりか。

 確かに敵パーティが消えた以上、どこから襲撃があるか分からない。そして向こうは、まずラスボスの玉座に座っている者を狙うだろう。


「あのな。おれも責任逃れは好きだが、だからといって、危険な役目をお前にやらせるようなことはしないぞ」


「だけど、わたしは戦略的に考えてみたわけ。というより、『世界を救う』というあなたの言葉に誘導されて。いいこと、だからこれは『未来』のためを思ってのこと」


「何が言いたい?」


「〈サリアの大樹〉を奪われている以上、ソルトたち魔人も殺されたら復活できない。そうでしょう? そして万が一、あなたが死んでしまっては、世界として取り返しがつかないことになるわ」


「おれはそこまで重要じゃないがね」


 勇者少女は焦れたっそうに言う。


「分かってないわね。あなたは、とても重要でしょ。サリアに認められた魔人であり、サリアの遺志をつぐもの。そして何より、セーラの兄じゃない。よく考えてみて。あなたが死んで、誰がセーラを止めるの?」


「……いまだって、さして止められている気はないが」


「あなたがいるから、セーラの暴走はあれでおさまっている。ところが兄であるあなたが死んで、ストッパーがなくなったら、こっちの世界も向こうの世界も、無事じゃ済まなくなるわよ」


「……」


 残念だが、勇者少女の分析は正しいかもしれない。


 パッシブスキル〈天上天下、唯我独尊〉持ちの妹を、武力で止めることは不可能。

 話し合いで説得できる可能性があるのは、兄であるおれだけか。


 あれ。もしかして世界を救うの真の意味は、おれが死なないことか?


「……分かった。玉座を預ける。だが死ぬなよ」


「お互いにね」


 勇者少女と場所を変わる。

 いまから勇者少女がラスボスだ。ではおれはなんだろう。


 やはり、ここは『ラスボスより強いモブ敵』でいくしかないだろ。


 なぜかはじめに気付いたのは、ケイティだった。


「敵が来ますよ、皆さん!」



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