101,世界を救うのだ。
「それでソルトさん。わたしたち、何をするのでしょうか?」
と、ケイティが問いかけてくる。
「それはだな──……………………世界を救うのだ」
我ながら適当すぎる説明だったが、ケイティの心には突き刺さった。
「世界を救うのですね!」
と、目を輝かせて言うものだから。
まぁ『別の宇宙からの魔人』たちが、この世界での冒険者と魔人のバランスを尊重するとは思えない。となれば、ここで撃破することは、まさしく世界を救うことにほかならない。
その後、『別の宇宙からの冒険者』もお客にしよう、という妹の発想は、このさい関係ないわけだ。やれやれ。
【碁怒卿】からの使者として、一体の獣型魔物が走ってくる。
「陛下。わが主【碁怒卿】からの報告です。敵パーティを見失いました。奴らは、あるダンジョンフロアに入るなり必然と姿を消したのです」
ふむ。陛下って、誰だ。
あぁ、おれか。なんか祭り上げられた気分。
「あー、ご苦労。しかし、どうして消えることができる? ショートカットはないはずだ」
ダンジョンによっては、遊び心から、『ボス部屋直通の裏道』なんていうものを用意してあるところもある。が、このラストダンジョンに至って、それはない。
勇者少女が何やら気づいた様子で、おれに言った。
「ひとつ、思いついたことがあるのだけど。わたしが、ラスボスをやるというのは、どう?」
「ラスボスを?」
勇者少女が、そういうものをやりたがるとは思わなかったな。しかし考えてみると、勇者少女こそが適格なのかもしれない。
闇女神サリアさまの生まれ変わりだものな。
しかし、本当にそれだけか。
「どうしたいんだ?」
「そこの玉座に腰かけさせてもらえる?」
「……いや、それは断る」
勇者少女の奴、ラスボスの玉座に腰かけることで、いざというときの身代わりになるつもりか。
確かに敵パーティが消えた以上、どこから襲撃があるか分からない。そして向こうは、まずラスボスの玉座に座っている者を狙うだろう。
「あのな。おれも責任逃れは好きだが、だからといって、危険な役目をお前にやらせるようなことはしないぞ」
「だけど、わたしは戦略的に考えてみたわけ。というより、『世界を救う』というあなたの言葉に誘導されて。いいこと、だからこれは『未来』のためを思ってのこと」
「何が言いたい?」
「〈サリアの大樹〉を奪われている以上、ソルトたち魔人も殺されたら復活できない。そうでしょう? そして万が一、あなたが死んでしまっては、世界として取り返しがつかないことになるわ」
「おれはそこまで重要じゃないがね」
勇者少女は焦れたっそうに言う。
「分かってないわね。あなたは、とても重要でしょ。サリアに認められた魔人であり、サリアの遺志をつぐもの。そして何より、セーラの兄じゃない。よく考えてみて。あなたが死んで、誰がセーラを止めるの?」
「……いまだって、さして止められている気はないが」
「あなたがいるから、セーラの暴走はあれでおさまっている。ところが兄であるあなたが死んで、ストッパーがなくなったら、こっちの世界も向こうの世界も、無事じゃ済まなくなるわよ」
「……」
残念だが、勇者少女の分析は正しいかもしれない。
パッシブスキル〈天上天下、唯我独尊〉持ちの妹を、武力で止めることは不可能。
話し合いで説得できる可能性があるのは、兄であるおれだけか。
あれ。もしかして世界を救うの真の意味は、おれが死なないことか?
「……分かった。玉座を預ける。だが死ぬなよ」
「お互いにね」
勇者少女と場所を変わる。
いまから勇者少女がラスボスだ。ではおれはなんだろう。
やはり、ここは『ラスボスより強いモブ敵』でいくしかないだろ。
なぜかはじめに気付いたのは、ケイティだった。
「敵が来ますよ、皆さん!」