100,ついにハーレムパーティの完成ね。
ところでセーラはどこに行ったのか。
冒険者ギルドのギルマスとして、まさかギルドのために働くなんてことはないだろう。
ではいまは何をしているのか。
兄であるおれも、よく分からん。この状況──アリサ一派の狙いを、〈紫ガ城〉に向けさせておいて。
しばらくして、【碁怒卿】がやってきた。
全身を東の国の甲冑で身を包み、鬼のような形相をした魔人。攻略推奨レベルは280と、魔人の中では中堅どころ。ただし、いまとなっては、最後の幹部魔人となった。
「ソルト殿。アーグ殿は見事な戦いぶりでござった」
「そうか。アーグは死んだか。聖騎士から首無し騎士に堕ち、最後は門番として散ったわけだが。まぁ当人が満足ならそれでいいや」
「師匠、ありがたき、お言葉! それは免許皆伝ということでしょうか!」
と、【碁怒卿】の手元から声がする。なんだ、アーグの生首を持っていたのか。
「てっきり死んだかと思ったが、頭部が無事なら、とりあえず無事なんだろ。はいはい、ご苦労だったな」
【碁怒卿】が、アーグの生首を床に置く。ところでここは傾斜が微妙にあるのと、首の断面が均等でなかったため、ついにはゴロゴロと転がっていった。
「あぁ、師匠~!」
「……まぁ、暇な人がいたら、あとで拾っておいてくれ」
【碁怒卿】が言うには、敵側も精鋭パーティで攻め込んできたらしい。6体の魔人。役割分担もまさしくパーティで、単体アタッカー、全体アタッカー、タンク、バッファー、デバッファー、ヒーラー。
「魔人のくせに冒険者パーティを参考にするとは。情けない」
勇者少女があくびしながら言った。
「ソルトは冒険者をしていたこともあったのに?」
「……あれはいいんだよ、あれは。で、【碁怒卿】。敵側にアリサの姿はあったか?」
ところで【碁怒卿】は、とくに抵抗もなく、おれがラスボス役をやることを認めてくれた。
いい奴なのに違いない。または、興味がないのか。
「拙者が見たところ、サリア様のオーラを感じ取れるものはいなかったようですが」
「ほう」
アリサがサリア様の残滓から生まれたのならば、サリア様と同じオーラを纏っているはず。とはいえ、おれもそれを感じたことはなかったが。
仮に敵パーティにアリサがいないのならば、さて、奴はいまどこだ。
「【碁怒卿】。お前は、敵パーティの動きを追ってくれ。交戦はできるだけ避けるように」
「はっ」
【碁怒卿】を見送ってから、一考する。〈紫ガ城〉には、それなりの魔物たちをそろえているが、時間稼ぎにしかならないだろう。
ラスボスたるもの、おれの手で、敵の魔人パーティを滅ぼさねばならない。
……やだなぁ。
面倒だが、頑張ろう。
メアリーが両手の拳を握りしめて、やる気の顔で言う。
「ソルトさん。わたしは回復役に徹しますね。【堕落した聖女】として、元聖女だったころの、ヒーラーテンションで」
「期待しているよ、メアリー」
ヒーラーテンションってなんだろう。冒険者ギルドにヒーラー注文しとけばよかったな。いや、メアリーが傷つきそうなので、それは無理だったか。
空間転移が起きて、誰かが送り込まれてきた。
視線を転ずると、ミシェルとケイティが入ってくる。
「ギルドマスター、ではなくセーラの指示で、応援に来た。必要だったかは分からないが──」とミシェル。
「あ、ソルトさん、お久しぶりです」とケイティ。
初対面のケイティとメアリーが、丁寧に挨拶しだす。
勇者少女がうなずいた。
「ソルト。ついにハーレムパーティの完成ね」
「そんなものを求めた覚えはないぞ」