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女って難しい

 クルジ殿とかいう役者ジジイから出て行けと言われたのは俺一人だったが、なぜかデタラメ通訳者のシンシアも部屋から出てきていた。


「貴様、私に変なあだ名をつけていないだろうな」

「つけてませんよ」


 つけてました。

 ジト目で睨んでくるシンシアと目を合わせないように前を向いて歩く俺。

 こいつ、心の中を読む能力でも持ってんのか。


「先ほどはすまなかった。クルジ殿だけでなく、我々カルチアの貴族のほとんどは、大なり小なり、リューゲンとの確執があるのだ」

「へえ」


 すまなかった、と素直に謝られると少し不安になる。

 それと、なんとなく分かってはいたが、貴族だったのか。どうりで偉そうに話すわけだ。


「オリバはどこで奴の名前を?」

「城門の外に教会があって、その前で女の子の腕を引っ張っていたんです。ゴレムが来たらさっさと逃げましたけど」

「あいつ、まだそんなことしていたのか」

「今までもしていたんですか?」

「手当たり次第女に声を掛けている。あいつ、私にまで声を掛けてきたのだ。今思い出しても腹が立つ」


 拳を作って胸の前でプルプルさせているあたり、ガチでキレていると思われる。

 でもまあ、男の俺にはリューゲンの気持ちも多少分からなくはない。

 ギムもシンシアも容姿は抜群だからだ。そりゃ嫁に取りたいと思うさ。


「カルチアでは貴族が半ば強引に連れ去って結婚すると聞いたんですが」


 言うと、シンシアはため息をついた。


「そんなのはごく一部だ……と言いたいところだが、確かに金を積んで結婚を迫る男はごろごろいる。まったく情けないことだ」


 なるほど、金か。それじゃあコロッといく女もいっぱいいるわな。俺だってシンシアに金を積まれて結婚を迫られたらコロッといってしまう。

 いや、シンシアなら金を積まれなくてもーー。


「なにか私に失礼なことでも考えてないか?」


 こいつ絶対変な能力持ってるだろ。それとも俺の思考が顔に出まくってるのか?


「か、考えてません」

「そうか、ならいいが。しかしリューゲンには困ったものだな。何か思い罪でもでっち上げて追放したいくらいだ」

「そんなに?」

「あいつには黒い噂がたくさんある。それぐらい困った奴なのだ。殺人、誘拐、恐喝などなど、あらゆる悪事に手を染めているとも言われている」

「それなら追放できるんじゃ」


 シンシアは力無く首を振った。


「証拠がない。あと、手を染めていると言ってもリューゲン自身が実行しているわけじゃない。賊を雇って手を下させている」

「なるほど」

「厄介なことはそれだけじゃない。あいつはカルチアを乗っ取ろうとしている」


 俺は今、リューゲンの名前を出して良かったな、と心の中で思っている。こんなにベラベラと喋ってくれるとは思ってもみなかった。

 彼のことがよほど嫌いなんだろう。


「どういうことです?」

「カルチアの貴族は長老のクルジ殿をカシラにしてまとまっていた。しかし近年別の派閥が出てきて、次第に影響力を強めているのだ。もちろん、その派閥のカシラはリューゲンだ」


 あの役者ジジイ、長老なのか。


「このままいくと、リューゲンがカルチアを仕切ることになる。そうなると奴の思い通りになってしまう」

「どうなるんです?」

「まずはどこかに攻め込んで領土を拡大するだろうな。以前からそのようなことを口走っている。あとは税収を増やして私腹を肥やすんだろう」


 分かりやすい構図だ。結局最後は金に走る。


 クルジ殿のいた部屋を出た後、俺はシンシアが進む方向へと歩いていた。てっきり外に連れていってくれるのだろうと思っていたのだが、彼女はとある一室の扉を開いた。


「な、なんだこれ……」


 その部屋の中を見て、俺は唖然とする。いや、むしろしない奴の方が少ないと俺は思う。

 床に足の踏み場はなく、服や本、ぬいぐるみ、剣や盾までそこら中に散らばっている。

 物置きにしても乱雑すぎる。それに部屋の真ん中にはでかいベッドがあるから、物置きではなさそうだ。


「えっと……この部屋はなんですか」

「ん? 私の部屋だが?」

「えぇ……」


 この女、片付けられない女だったのか。

 もっとちゃんとしてる人だと思っていたのだが、それは幻想だったようだ。俺の中でなにかが音を立てて派手に崩れていく。


「ちょっとそこで待っていろ。絶対入るなよ」

「入れるかよ。……あ、すみません。そもそも入れませんよ」


 シンシアは器用にぴょんぴょんと足を運んで中に入っていく。

 それから、何かを探しているようで「あれ、どこに置いたんだっけな」とキョロキョロしたり、タンスの中や床に置いた物の間に手を入れてごそごそしていた。

 容姿は綺麗だが、彼女の部屋を見ると少し失望してしまう。いや、むしろ人間らしくて逆にアリか?


「ところでお前、さっきから無理して喋っていたのか。普通に話していいんだぞ」

「はい?」

「私に対して、普通に話していいと言っているんだ」

「さっき、誰に口を聞いているとか、無礼とか言ってませんでしたっけ?」


 俺の記憶が間違ってなければ、ゴレムを退けた後、初めてシンシアと出会った時にそんなことを言われたはずだ。あの時は会話すらしてもらえなかった。


 シンシアはぬいぐるみの下から何かを見つけたようで「ここにあったのか」と言うと、こちらに戻ってきた。


「それはそうだろう。あの時のお前は一般人だし、警備兵の前で無礼な口を許すわけにはいかないんだから。しかし、今は違う」


 シンシアが俺の首あたりに両手を伸ばしてきた。その両手が俺の首の前でぴたりと止まる。


「おい。能力を使うな」


 何をされるか分からないから異次元緩和能力を使って拒絶していたが、ジト目で抗議された。

 俺を攻撃しようというわけではなさそうだったから、能力を解除する。

 するとシンシアが俺の首の後ろに手を回した。

 そこでようやく理解した。

 俺の首にペンダントを取り付けたのだ。先には銀色の飾りがついている。


「今は栄誉称号を与えられたのだから、お前も立派な貴族だ。だから私に対しても普通に話していいぞ。あと、なくすんじゃないぞ。まだいくつかあったと思うが、探すの大変なんだからな」

「分かり……分かった」


 言うと、シンシアがにっこり笑った。


「ではオリバ、また会おう。私は少し昼寝をする」


 そう言って彼女はまた汚部屋の中へと入り、ぴょんぴょんと進んでいく。それから腰につけたレイピアをその辺に放って、真ん中にあるデカいベッドに飛び込んだ。


「すまないが、扉を閉めてくれないか」


 ベッドに横になったシンシアが言う。

 軽く返事をしてから、ノブに手を伸ばして扉を閉めようとしたが、奇妙なぬいぐるみが挟まってしまって閉められない。つま先でそっとぬいぐるみを押して、さっと扉を閉めた。


 ……さすがに、ないよな。

 まあそもそもシンシアが俺のことをなんとも思っていないだろうが、もう少しくらい良い夢を見たかった。

 容姿は抜群、言葉遣いも丁寧、肩書きも十分。片付けができないのかしたくないだけなのか分からないが、それ以外は完璧……なんだがなあ。


 俺は首にかけられたペンダントを手に取って観察した。

 これが栄誉紋章らしい。天使か何かをかたどった装飾がついている。

 このペンダント、床に落ちてたものなんだよなあ。

 俺はため息をつく。女ってのは分からんもんだ。

「面白い!」「続き読みたい!」「ギム様、かわいい!」「入信、する!」


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