みんななんでそんなに弱いんですか?
「ゴレムが出たぞ!」
その言葉が聞こえた瞬間、みんな叫びながら、思い思いの場所へと逃げていった。
晴れていたはずなのに辺りが急に暗くなる。
ぐるるるるおおおお。
という重低音とともに、地響きがした。
その音のする方を見る。
縦横ともに俺の身長の数倍はあろうかというほど、大きな体躯のモンスターがいた。
岩でできたような、青い肌。四本足のそれは鈍重な動きだったが、でかい前足で何もかもを薙ぎ払った。
ーーこれがゴレムか……。
また悲鳴が聞こえる。モンスターがいた方向から何人もの市民が逃げてくる。
反対に城壁辺りにいた兵士たちが剣を抜きながら、ゴレムへと向かって走っていった。
「ちっ、また来る!」
リューゲンがギムの腕を投げるように離して、城壁の方へと逃げていった。
ここで俺が取るべき選択肢は一つだけだ。
「大丈夫ですか?」
いまだに地面にへたり込んでいる老人へと駆け寄る。ぷるぷる震えている。腰が立たないらしい。それどころか恐怖で喋ることもできないようだ。
ドゴオォオオオン。
またゴレムが何かを薙ぎ払ったようだ。衝撃で地面が揺れている。
見ると、ゴレムはさっきよりも近くまで来ていた。兵士たちはゴレムの足元で剣を振るっているが、俺にはその行動に意味があるのかよく分からなかった。
なぜなら効果がないように見えたからだ。
しかしここは任せるしかない。
「立てないか? なら、俺に捕まってくれ」
老人の手を肩に回す。すると、ギムが俺の反対側へと回った。
「ギム様も手伝う。教会の中へ!」
「分かった」
二人して老人を立たせようとする。しかし老人は足腰が弱いし、ギムも力が全くなかった。
「んむうう……」
老人を支えていたはずのギムが倒れそうになり、老人の腕を引っ張る。おかげでギムの方へと老人が倒れそうになる。俺一人で二人分支えている形だ。
ドゴオォオオオン。
また地響き。しかももう、ゴレムは近くまで迫ってきていた。
「そこでなにしてるんだ! 早く逃げろ!」
兵士が怒鳴ってくる。そんなこと言われなくても分かってる。そっちこそなんとか食い止めてくれ。でないと教会に逃げ込んでも教会ごとやられちまうじゃねえか。
と心の中で文句を言ってみるが、兵士たちはまったく役に立たなかった。
俺たちを包む影が一層濃くなる。
いつの間にかゴレムは俺たちのすぐそばにいた。なぜか兵士たちは誰も近くにいない。
ゴレムが腕を振り上げた。
真上から俺たちを潰す気だ。
これではもう間に合わない。
俺は老人の腕を肩から離す。
老人とギムが地面へ倒れた。
俺は二人の上に覆い被さる。
ゴレムの腕が迫ってきた。
…………。
音も、衝撃も、なかった。
背後を見ると、ゴレムの腕が俺の背中につく寸前で止まっていた。
その瞬間、俺は確信した。
やれる、と。
クンッ、と勢いをつけて振り返りながらゴレムの腕を振り払う。
奴の腕は、俺の手に触れることなく、引き戻された。
俺は巨躯に向かって立ち上がる。
ゴレムはまた前足を振り下ろしてきた。
一度目でダメでも、二度目を試してくなるのは分かる。
が。
振り下ろされる前足に向かって、俺は拳を振り上げた。
ゴレムの前足が俺の腕に当たる寸前で止まる。
だけではない。
俺の拳がめり込んでいく。手首くらいまでめり込んだところで、俺は拳に力を集中させた。
俺の拳を中心にして、パッとゴレムの前足に穴が穿たれる。
同時に赤い血がボトボト降り注いできた。俺の真上から降り注いできた血は俺を避けるようにして落ち、石畳を染めていく。
ウオオオォォォオン。
ゴレムが叫んだ。怪我をした前足を引く。まだ来るか? と思ったが、意外にもこのモンスターは精神に難ありらしい、石畳を血で汚しながらドスドスと地響きをさせて逃げていった。
俺は首を捻る。
全然強くない。
なぜこんなのに十数人も必要なんだ。
兵士たちは剣を使って何をやってたんだ?
そんなことを考えていると、周囲からパチパチという音が聞こえてきた。
見渡すとぶっ壊れた街並みの惨状の中、市民たちが俺に向かって拍手をしていた。兵士たちは居心地が悪そうにこちらを睨んでいる。
不思議な気分だった。でも悪い気はしない。
俺は恥ずかしながらも頭をポリポリと掻いて、愛想笑いを振りまいた。
すると突然、
「ギム様、感激した!」
振り返るとギムが胸の前で両手を組んでキラキラした目で俺を見ていた。
「お、おう……」
誰か教えてくれ。こういう時、男はどう返せばいいのか。なんて声をかけたらいいのか。絶対に「お、おう……」ではないと思うんだ。
そしてついでに俺の早まる鼓動を止めてくれないだろうか。胸が痛くてどうしようもない。
マジでどうしていいか分からなくなり、しばらくのあいだ俺は拍手と称賛の言葉、そしてギムのキラキラした視線を浴びていた。
とまあそんな時間は長く続かなかった。
コツコツと誰かが歩いてくる音がする。
「見ていたぞ」
女だった。村から出たことがない俺でも分かるくらい、格調が高そうな服を着ていた。腰にはレイピアを携えている。
彼女を見るや否や、周囲にいた兵士たちが敬礼をしだした。
女は青い長髪を風に靡かせながら、俺をまっすぐ見つめてくる。
多分、適齢期だ。つまり若い女だ。ギムとはタイプが異なるが、好みの範疇である。まあそもそも俺の好みの範疇がでかいというのは否めないが。
「さっき、ゴレムに何をした?」
正直言って、俺は彼女の言葉の意味が分からなかった。見ていたなら分かるだろ。
「何って、この手を使っただけーー」
「誰に向かって口を聞いている?」
えぇ……。
質問に答えただけで怒るなら、訊いてくるなよ。てか最後まで聞けよ。
「答えろ」
「この手というか、力をーー」
「もういい。無礼な奴め」
もう分からん。親父、俺には都会が分からん。
女は顎に手を当てて「ふむぅ」と俺を睨みつけてから、周りの兵士たちに命令を始めた。
「犠牲者と被害状況の確認を第一優先、破壊された場所の修復を第二優先に動け」
兵士たちは「ハッ」という掛け声と共に動き出す。
それから青髪の女はコツコツとブーツを鳴らしながら近づいてきた。
「来い。説明が欲しい」
俺も説明が欲しい。どこに行くのか。なぜ俺の話を最後まで聞かないのか。
ギムのほうを見ると倒れたままの老人に声をかけていた。
「面白い!」「続き読みたい!」「ギム様、かわいい!」「入信、する!」
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