ギム様との出会い
簡単な準備を済ませて村を出ること早一週間。
やっとこカルチアに到着した。
恥ずかしながら俺は今まで村を出たことがないから、どの道を行けばカルチアに着くのか見当もつかない。その上、地図すら持っていなかった。
道行く人や泊めてもらった家の人に聞いて、たまに迷子になりながらも目的を果たした。
いや、目的は嫁探しか。
カルチアは俺が思い描いていた都会像よりもはるかに凄かった。
まず中心部には高い城壁で囲まれている地区がある。その城壁の内と外では世界が違っていて、外側は貴族ではない一般人ばかりが生活していて、内側は貴族も多数いるらしい。
城壁の外から見る限り、高い建物や塔なんかもある。
「かっけえ」
多分俺の目は今、きらきらと輝いているだろう。初めて見るものがいっぱいだ。
幸い、ゴレムとかいうのにも出会わなかったし、周りを見ると若い女がたくさんいる。
嫁候補はすぐに見つかるな。
「何だお前は」
「ん?」
急に横から声をかけられた。
見ると武装した男が数人いる。兵士ってやつか。腰から剣をぶら下げている。みんな俺を睨んでいた。
俺なんかしたっけな。
「道の真ん中で突っ立ってんじゃねえ!」
「え? ああ、悪い」
都会では道の真ん中で立っていると怒られるのか。
兵士たちは俺に向かって舌打ちして、城壁の方へと歩いていった。
すると今度は背後から声をかけられる。
「あんた、どっから来たの? この街は初めてでしょ」
振り返ると青果店のおばさんだった。乳はあるが、嫁候補には絶対に入らない。
「ええ、まあ」
「気をつけな。兵士に目をつけられたらタダじゃ済まされんよ」
「マジですか」
「マジよ。あと貴族にもね。そこに城門があるでしょ?」
おばさんが顎で指し示す方を見ると、でっかい門があり、そのそばには多くの兵士たちがうろついている。さっき睨んできた奴らもそこにいた。
「あの門の向こうは行かないほうがいいよ。あたしは毎日果物を届けに行くんだけどね、もう横柄な人ばっかりですぐ怒鳴られるから」
都会こっわ。
聞いただけでちょっとおしっこちびりそう。村では怒鳴られるなんてなかったからなあ。むしろみんな優しかった。
「で、あんたこの街になにしに来たの?」
「ちょっと嫁探しに」
言うと、おばさんが豪快に笑った。いや、おばさんだけじゃなくて周囲にいる人も笑っている。
「手、出しな」
訳が分からんが、笑われながらも言われるがままに手を出す。
するとおばさんは売り物の果物であるルンゴを一つ、俺の手の平の上に乗せた。
「カルチアではね、容姿がいい女は、貴族に半ば強引に取られちまうんだ。それ食って大人しく帰んな」
「そうなのか」
親父すまん。嫁は見つからなかったぜ。都会は謎ルールが多すぎる。
「とは言ってもなあ」
おばさんに礼を言ってその場を後にする。一週間もかけてここまでやってきたのに、すぐに帰る気にはなれない。
嫁探しは置いておくにしても、もう少しこの街でぶらぶらしていくのもいい。
それに、なにも都会はここカルチアだけではないのだ。俺はよく知らんが、他にも都会はあるはずだ。
おばさんにもらったルンゴを鞄の中に入れて、もう少し散策することにした。
市場、飲食店、雑貨屋……等々多数の店が並んでいる。それらを外から眺めるだけでも楽しかった。
大勢の人が行き交っているのも俺にとっては新鮮だ。
村を出ていった若者が帰ってこないのも頷ける。のんびりしている村と違って、刺激が多すぎるからな。
そうして歩いていると、教会の前に人だかりができているのが見えた。
最初はなにか催しでもやっているのかと思って近づいたのだが、どうやらそうではないらしい。
「やめてくだされ」
「お前はすっ込んでろ。俺はこいつと話がしたいんだ」
男同士でなにか言い合っている。
けして野次馬になりたいわけではなく、何が起こっているのか純粋に見たくなって人だかりへと近づいていった。
人だかりといってもそれほど人数は多くない。後ろの方からでも様子がよく見える。
言い争っている男二人以外に、もう一人女がいた。
見たところ、俺と同じく結婚適齢期で、しかも俺好みの容姿だ。だが、見たこともない格好をしている。フード付きのワンピース、とでもいうのだろうか。青と白を基調とした色合いで、体のラインが浮き出ているほどにぴっちりとしている。
教会の前だから、修道服ってやつなのかもしれない。見たことないから想像だが。
「いや! ギム様に触らないで!」
女が叫ぶ。
女は若い男に腕を掴まれていて、それを振り解こうとしていた。もう一人の男ーーこっちは全身白い服の老人ーーは若い男を止めているようだ。
「リューゲン殿、何度も言っておるが、ギムは渡せん」
「渡すも渡さんも、お前のものじゃないだろう! さあギム。二人で話そう」
俺の頭がバカじゃなければ、老人の名前は不明、若い男はリューゲンとなる。するとギムっていうのは女のことになるが、しかしそうなると……。
「ギム様は行かない! 離して」
と拒絶している女は自分のことを様付けしていることになる。
村には自分の名前に様をつけて話す奴なんて一人もいなかった。都会では普通なのか?
しばらく三人はそうやって争っていたが、やがて若い男が老人を思い切り突き飛ばした。
老人は尻餅をつく。強く尻をついてしまって動けないようだ。しかし野次馬は誰も助けようとしなかった。
「金は出すって言ってるんだ。変な宗教やってるよりいいだろ」
「変じゃない!」
リューゲンはギムを力づくでどこかへ連れて行こうとしている。明らかにギムは嫌がっている。野次馬たちは見てるだけ。
この状況が、俺にとっては不愉快だった。
不愉快。ただ、それだけだ。
でも、それで十分だろ?
「あの」
野次馬たちの前に出て、リューゲンという男に声をかける。
長髪で切れ長の目。俺より頭一つ分、身長が高い。服はなにやら威厳がある感じがする。
その男がムッ、と俺を睨んだ。
「なんだ、貴様は」
「特に何者でもないですけど、嫌がっている女性を無理やり連れて行こうとするのはーー」
「うるさい! 一般市民は黙ってろ!」
「いや俺はここの市民じゃなくて、ちょっと遠くの村のーー」
「そんなこと聞いてない! 貴族でもないのに俺に指図するなゴミカス!」
まったく聞く耳を持たない。
ギムという女の方を見ると、瞳が潤んでいた。
俺は自分のことをつくづく単純な男だと思う。
女の涙を見ると簡単に心と体が動くんだから。
リューゲンにもう一度、声をかけようとする。
しかしその時だ。
カン、カン……。
鐘の音が鳴った。
どこか遠くの方。
周囲がざわつく。
悲鳴が聞こえる。
怒号も聞こえた。
誰かがさけんだ。
「ゴレムが出たぞ!」
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