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教会の中で

 賊のアジトから出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 家、もとい教会へ向かって足早に帰る。

 いくら都会であるカルチアと言えども、夜は静かで、人通りはほぼない。見かけるのは城門近くの警備兵くらいだ。


 広場には街灯がいくつかあるが、火が消えているものばかりでまったく役に立っていない。

 教会の近くまで来ると、教会の中からガシャンという音がした。

 ギムが何か落としたのだろうか。


 教会の扉の取っ手に手をかけた。

 ちょうどそのとき教会の中からなんとなく声が聞こえた。


「オリバ」


 ギムの声だった。

 急いで扉を開く。

 教会の祭壇の前。

 大小二人の人影。

 小さい方はギム。

 大きい方は不明。

 手を繋いでいる。


「オリバ!」


 もう一度。今度ははっきりと聞こえた。

 影に近づく。

 教会の上方にある窓から入る月明かりに照らされて、影が浮き彫りになっていく。

 大きい方の影がはっきりとした形になった。


「リューゲン」


 その影はリューゲンだった。かっちりとした服装。長髪。憎たらしいほど切れ長の目。

 リューゲンがギムの手を引っ張っている。ギムは引っ張られていない方の手で祭壇の端を掴んで耐えていた。


「何してる?」


 言いながらリューゲンを睨む。

 彼は舌打ちしたが、ギムの手は離さなかった。

 両脇に並べられている椅子の間を通って祭壇へと近づく。

 教祖かどうかはどうでもいいとして、一人の女の子が嫌がっているなら助けたい。


 突然、横から気配を感じた。

 見ると、知らぬ前に首元に短剣が突きつけられていた。

 黒っぽいローブを纏った小さい奴が短剣を手にして俺の真横に立っている。暗殺者と悟るのに一秒と時間はかからなかった。


 正直、少し油断していた。多分椅子の陰に隠れていたんだろうが、ギムにばかり目がいっていて全く気付かなかった。

 リューゲンの近くには賊や暗殺者などが彼を守っているという話を聞いていなければ、やられていたかもしれない。

 しかし先に話を聞いている俺は『異次元緩和』を全身に張っていた。備えていてよかったと本気で思う。


 首元の短剣を手で払おうとした。が、その前に暗殺者が後ろに跳ねた。距離を取られる。

 耳の周辺のみ『異次元緩和』能力を解除すると「オリバ、助けて」とギムが叫ぶ声が聞こえた。

 なぜか暗殺者は距離を詰めてこない。状況の理解ができていないのかもしれない。

 短剣がなぜ刺さらなかったのか考えているのだろうか。

 ならば動かない今がチャンスか。


「ギムを離せ」


 暗殺者が再度向かってくる前に、俺は床を蹴ってリューゲンとの距離を一気に詰めた。


「くそっ」


 リューゲンは思いきりギムの手を引いた。その勢いでギムの手が祭壇から離れ、「きゃっ!」と前に倒れる。


 俺はリューゲンの腕を掴もうと手を伸ばす。が、さっきの暗殺者が間に割り込んできた。こいつ、素早さが異常すぎる。


「どけ!」


 相変わらず短剣で首元を狙ってくる暗殺者の腕を掴んで、横に押す。

 暗殺者は勢いよく椅子にぶつかっていった。


「一人殺す仕事もできないのか! くそっ」


 リューゲンが叫ぶ。いつのまにかギムの手を離していて、代わりに長剣を握っていた。

 俺の目の前に長剣の刃が向けられる。

 ギムは床に横座りの体勢になって様子を窺っていた。


「貴様、なぜ俺の邪魔をする?」


 リューゲンは鋭い眼を俺に向けた。

 おそらくリューゲンは俺に刃を向けていることで、優位に立っていると思っている。


「お前がギムを連れて行こうとする理由を先に知りたいね」

「決まっているだろう。俺のモノにするのだ」


 さすが貴族というべきか、シンシアと同じような鼻につく喋り方をする。シンシアは女だし、容姿もいいから許せるが、こいつの場合は腹が立つ。


「ギム様、あなたのモノじゃない!」と、横座りしたままのギムが反論する。

「いい歳した女は結婚するものだ。それに俺は貴族だし金もある。言うことないだろう」


 勝手な持論を並べ立てる男だ。


「お前にとって結婚ってのは誘拐することか?」

「庶民のお前が女を連れ去ると罪だが、俺の場合は持ってるものが違うから誘拐でもなんでもない」


 説明が無茶苦茶すぎる。

 庶民はノーだが、貴族は良いって? 何言ってんだこいつ。

 しかもその無茶苦茶の中にひとつ、意味不明な行動が含まれている。


「そうかい。あと、気になってたことを聞きたい。部下か手下にでも連れてこさせればいいのに、なんでお前がいつも連れて行こうとしているんだ?」


 前回も今回も、リューゲン自身がギムの手を引っ張って連れて行こうとしている。

 周りにたくさん味方がいるなら、なぜそいつらに誘拐させないのか、理解不能だ。

 さすがにリューゲンほどの悪党でもそれはやってはいけないと考えたんだろうか。

 と思っていたが、まったく見当外れだったようだ。


「そんなものは美学に反する!」

「び、が、く……?」

「そうだ。俺自身がこの手で妻を招いて、夜を明かしてこそ、結婚というものだ!」

「嫌がる女を無理やり連れ去るのは美学に反しないのか?」

「これだからバカな庶民と話すのは疲れる。いいか、女の『イヤ』は駆け引きなのだ。真に受けていたら結婚なんて出来ぬわ」


 高尚な貴族と話すのは疲れる。

 つまり言いたいことはどういうことなんだ?

 嫌がっていようが、なかろうが、女を家に招き入れることで結婚が成立するのか?

 もうシンシアでもいいから、こいつの言うことを村生まれの庶民に分かるように訳してほしい。


「悪いが俺も、お前と話すのに疲れた」


 めんどくさくなったので、先ほどからずっと俺の眼前に突き付けられている長剣の刃先を指でつまむ。


「なにっ?」


 リューゲンは長剣を持っている手を動かそうとしているようだが『異次元緩和』の前では無効だ。

 剣を固定したまま、リューゲンの脚に蹴りを入れようとする。

 が。


「うがああああああ」


 突然上から降ってきた男が目の前に現れ、俺の蹴りを腹に受けて悶えだした。感覚は伝わってこないが、かなり身体が歪んでいた。

 多分リューゲンの護衛だろう。どこに潜んでいたんだか。


「くそっ、どうなってやがる……」


 リューゲンはそう言うと、長剣から手を離した。なぜか教会の奥へと向かう。

 教会の奥にある窓の一つが開いていて、そこからリューゲンが出ていった。その後に五人ほど続いて出ていく。


「どんだけ護衛いたんだよ」


 てか暗殺者と、今でも目の前で悶えている男以外は何してたんだ?


「おい、大丈夫か?」


 腹に手を当てて悶えている男に声をかける。

 さすがに背骨までは折れていないだろうが、苦しみ具合からしても臓器が破裂していてもおかしくない。

 と、心配していたが。


「ふんぐうっ」


 男は腹を手で押さえたまま、後方へ転がる。俺やギムと距離を取ると、なんとか立ち上がってリューゲンが逃げた窓から脱出した。

 逃げられるほどの体力は残っていたようだ。


「ふぅ……」


 一件落着。

 俺は息をついた。

 もちろん、能力も解除した。

 しかしそれが間違いだった。


「んんっ!?」


 急に首が締まる。いつの間にか紐状の何かが俺の首に巻き付けられていた……。

「面白い!」「続き読みたい!」「ギム様、かわいい!」「入信、する!」


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