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第3話 やったね!!

 遂にこの日が来た。

 約束の1ヶ月、織江と磨いた女子力を政志さん達に披露するのだ。


「...今日が運命的の日になるのね」


 10月の眩しい朝日に向かい、自分を鼓舞する。

 時計は朝の7時を指す、結局昨日は殆ど寝られなかった。


 おそらく織江もそうだったに違いない。

 昨夜は簡単な打ち合わせだけして、その後は連絡をしなかった。

 してしまったが最後、徹夜で話し込んでしまうのが分かっていたからだ。


「さてと」


 勝負下着を手に浴室へ向かう。

 もちろん昨夜も入ったが念の為、何が念の為か分からないけど。


 徹底的に体を洗い清め、自室へ戻る。

 ハンガーに掛けられているクリーニングしたばかりの制服に着替え、椅子に腰掛けた。


 机の上に並ぶ化粧品、いよいよ本番。

 入念に化粧を済ませ、髪をセットした。

 前回は一纏めにして後ろで束ねて、その上からキャップを被ったのも失敗だった。


 今回は違う、丁寧に髪にブラシを入れる。

 ショートボブなのが少し残念だが、ベリーショートの織江に比べたら贅沢は言えない。


『なんで引退した時に私は伸ばさなかったの?

 どうして切っちゃったんだろ...』

 悔しそうに呻いた織江だったが、今さらだ、仕方ない。

 私にもずっと切れて言っていたんだから。


 でも、あの髪型は織江に似合っている。

 元々健康美人だった織江は、あの髪型に合うメイクもマスターして、今やモデルの様な雰囲気を醸していた。


「...行ってきます」


 そっと自宅を出る。

 現在家に家族は全員居るので、気づかれない様に注意しながら外に出た。


 当然だが今日の事を家族全員知らない。

 下手に知られ、万が一失敗したら、変な慰めをされてしまうだろう、それは惨め過ぎる。

 だから内緒なのだ。


「よ!」


「おはよう織江」


 待ち合わせの駅に着くと、既に織江は待っていた。

 凄い気合いだ、またしてもインターハイを思い出してしまう。


「昨日は眠れた?」


「全然、寝不足よ」


「私も」


 隣の市に向かう電車の中、織江の目が少し赤い、私もだけど。


「腫れてないから大丈夫」


「そうね」


 織江と話すと、緊張が解れお互い笑顔になる。

 やっぱり親友、以心伝心、心強い。


「まだ早いわね」


「だな、少し時間を潰すか」


 前回政志さん達に会ったのは11時だった。

 現在時間は朝の9時、まだ2時間もある。


「そこの喫茶店にするか」


「そうね、あそこなら本屋の入り口が見えるわ」


 本屋の向かいにある喫茶店に入る。

 店内は空いており、私達は通りに面した窓側の四人席をお願いした。

 これで政志さん達が現れたら直ぐに本屋へ行ける。


 店内の席は各々観葉植物で区切られていて、デカイ私達も目立たず済むのが嬉しい。

 先ずはモーニングを注文し、一息つく。


 今日は朝食を抜いてしまった。

 聞けば織江もそうらしい、いつもの私達なら朝からガッツリ食べるところだけど、今は無理。


「...ふぅ」


「もう食べないの?」


 織江はトーストを一口だけ頬張り、皿へ戻した。


「そう言う紗央莉だって」


「食欲がでないの」


「一緒か」


 織江もか、気持ちは分かる。


「後で化粧直しをしないとな」


「そうね」


 カップについたリップの跡を見ながら織江が微笑みを浮かべる。

 憂いを帯びたその顔は、なんて綺麗なんだろう。

 まさか織江を見てそう感じる日が来るなんて。


「どうした?」


「いや、織江が綺麗になったなって」


「はい?」


 私は何を言っているんだ?

 織江がビックリしてるではないか。


「いや、綺麗って言うのは...その上手く化けたな...ちがうな」


「紗央莉、フォローになってないよ」


「だね」


 なんか気楽になってきた。

 やっぱり力を抜いた方が私達らしい。

 今日はしっかり私達が女の子だと分かって貰うのだ。


 そして次は料理を振る舞う。

 段階を踏み、最後に恋人になってみせる。


「で、話し方はそれで行くの?」


「やっぱり変か?」


「さすがに男言葉は」


「そっか...」


 織江の言葉使いについては前々から気にしていた。

 以前から何度か言ったが、どうしても直らないのだ。


「...男の子だと思っていたんだって」


「それって?」


「両親がだよ、私が生まれるまで男だと思っていたそうだ」


 そんな事ってあるの?


「産院のエコーでなんか映っていたから、医者も間違えたらしい」


「なんかって...」


 つまりアレ(ちんちん)の事か。


「全部男の子の物を買い揃えていたんだ。

 ベビー服も、玩具(おもちゃ)もな」


「へえ...」


 なんだか神妙な気持ちになるよ。

 きっと両親は男の子待ち望んでいたのだろう。


「で、生まれ見れば付いて無いと」


「...うん」


 またちんちんか...


「織江は男の子の服で過ごしたのね」


 なんて可哀想に、酷い両親だ。


「いや、両親は慌てて女の子の物を全部買い揃えてくれたぜ」


「はあ?」


「でも私が女の子の服を嫌がったらしい、玩具も人形より、戦隊ヒーローばかりでな、だから話し言葉もこうなった」


「なんじゃそりゃ?」


 だったら、さっきの話はなんなんだ?


「織江、ちゃんと女の子だよね?」


「当たり前だ!!」


「もしかして付いて(ちんちん)ない?」


「付いてねえよ!知ってるだろ!!」


「ずっと挟んでたとか」


「アホかい!私は正真正銘の女だ!

 そりゃ初めて好きなったのが充様だけどさ!!」


「ごめんって、私だって政志さんが初恋なんだから」


 真っ赤な顔で織江が立ち上がる。

 そんな興奮しないで、軽い冗談だよ。


「「え!?」」


 後ろの席から驚いた声がする、誰かに聞かれていたのかな?

 結構おっきな声だったから。


「ウゲ...」


 そう言って織江が固まってしまった。


「...終わった」


 次の瞬間崩れ落ちる織江、何があったのか?


「...嘘」


 振り返る私が見たのは真っ赤な顔をし、海皇高校の制服を着た稲垣充君と...


「...山口さん」


 なんて事だ...聞かれてしまったのか...


「なんか...ごめん」


「ごめんなさい、なかなか声を掛けられなくて」


 申し訳なさそうに二人が謝る。

 恥ずかしさと情けなさで顔を上げられない。


「でも嬉しい...政志君もでしょ?」


「ああ...そうだな」


「「え?」」


 何が嬉しいって?

 驚いた織江も顔を上げる、折角のメイクは全部取れてしまったが、薄めにしていたから大丈夫だ。


「座って良いかな?」


「は...はい」


 政志さんが私の隣に、充君が織江の隣に座る。

 私達は少し窮屈だけど、織江は丁度良いみたい。


「「あの...」」


 政志さんと声が被さり、慌てて声を止めた。


「先に...」


「あ、うん。

 約束の時間潰しに俺達もここへ来たんだ」


「...そうだったの」


 偶然だった訳ね...


「この前は失礼な事言ってごめん」


「...いいのよ」


 ダメだ、全く会話が弾まない。

 当たり前だよ、あんなの聞かれてしまったんだから。


 織江は...この世の終わりって顔してる。

 ...ごめん、私のせいだ。


「...二人は凄いバスケの選手なんでしょ?」


「...どうしてそれを?」


 稲垣君、どうして私達がバスケをしてるって知ってるの?


「妹が河雪学園のバスケ部に入ってる友人が居るんだ、君達の後輩になるんだって」


「「なんですって?」」


「彼から雑誌も借りてね。

 その妹さんの物だけど、インターハイ優勝の選手だったなんて凄いな!!」


 稲垣君は鞄から一冊の雑誌を取り出し、ページを捲る。

 それは高校バスケを特集した物で、私達はカラー写真で納められていた。


 後輩って一体誰の事だろう?

 それを知っていたなら、もっと政志さん達の情報を集められたのに。

 秘密にしたのが悔やまれた。


「だから僕達ずっと楽しみにしてたんだ」


「ああ」


 何が楽しみだったの?


「それって?」


「...いや、その...」


「つまり...」


 どうしたんだろう?

 二人はモジモジし出した。


「話して...充君」


 織江が勇気を振り絞り稲垣君を見つめる。

 もう後が無い、私もだ。


「...ええ、良かったら教えて」


 必死で言葉を絞り出した。


「...政志君」


「分かったよ、充」


 二人はしっかり頷いて私達を見つめる。

 なんて真剣な目、息が詰まり全身の血が頭に昇って行くのを感じた。


「あれからずっと気になっていたんだ」


「気になっていた?」


 それは男と間違えた事か?


「僕達ずっと男子校で、女の子と話す機会が無くて...だから、まさか声を掛けられるなんてって」


 そっか、二人も異性と接する機会が無かったんだ。


「ずっと二人が頭から離れなくて、雑誌を見た時はビックリしたよ、こんな...綺麗な有名人からって」


「ふぇ?」


 今なんて言ったの?


「き、綺麗...」


 織江も聞こえたのか、どうやら聞き間違いじゃないのね。


「だから...その僕達と友達に」


「...お願いします」


 二人が頭を下げる。

 これは夢じゃないの?


「ああ...」


「まさか...そんな...」


 声が出ない、早く返事をしなくてはいけないのに...


「...織江」


「...分かってるよ、紗央莉」


 ここは根性だ。

 しっかり頷き二人を見つめ返す。


「「喜んで!!」」


 今日一番の大声で私達は叫んだ。


 この結果は何故か後輩達は全員が知っていたが、気にならなかった。

 きっと私達の知らない所で動いていたんだろう。


 私達は友人から始め、そして1ヶ月後に改めて交際へと繋がって行った。


 別々の大学へ進んだ私達だったが、絆は強固で、卒業後に...


 私達は結ばれるのだった!!


「「幸せ!!!」」

おしまい!

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[良い点] 爽やか作品良きです [気になる点] でもここから数年後にまさかの [一言] 亮二「えーっととりまアップしておけばいいのかな?」(駄目です)
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