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第1話 出会いは突然に

お気楽に宜しくお願いします。

 昼休み、いつものように学食のうどんとカレーライスをパクついていると一際デカイ女が走って来る。

 D組の郷田織江(ごうだおりえ)


 彼女と私は中一からの腐れ縁。

 同じバスケ部に所属しており、何かと話が合う私達は親友なのだ。


「紗央莉!」


「どしたのゴリエ?」


「その呼び名は止めろ!」


 因みにゴリエと言うニックネームは私が着けた、なかなか良い得て妙だと思うのだが。


「はいはい、で何?」


「じ...実は」


 織江は私の前に座り、いじいじと組んだ両手の指を絡ませる。

 186センチ69キロのガタイで、話す言葉も男みたいだから、その仕草は違和感がある。


「何よ、また女の子に告白でもされたの?」


「違わい!」


 違ったのか、織江はわりと綺麗は顔しているからな。

 髪はベリーショートで化粧っ気が全く無いけど、人気があるんだよ。

 ...女子限定だけど。


「ほ...ほれ、ほれ」


「ここ掘れワンワン?」


「...あのな」


 睨まないで欲しい、早く言わないと、うどんが伸びるではないか。


「ごめん、で?」


「...惚れちゃったの」


「はい?」


「惚れちまったんだよ!!」


 珍しい事だ、いつもなら惚れられる立場の織江が自分の方からなんて。

 でも申し訳ない。


「ごめんなさい、私ノーマルだから」


「お前じゃねえよ!」


 また違った、でも良かったわ。

 織江は親友であって、私は格好良い男の人が好きだから。

 まあ恋人自体、居た事ないけどね。


「ならどの子よ?

 A組の波乱母 悦子(はらんぼ えつこ)さん?」


 悦子は一年の時、織江と同じクラスで、陸上部の砲丸投げ選手。

 168センチ92キロの彼女は昼休みに織江とよく大食い勝負していた。

 そこから始まったのか、おめでとう幸せに。


「アホか!

 自分の腹の肉、摘まんで悦になってる奴じゃねえよ!!」


「詳しいのね」


「先週掴まれたんだよ!しかも両手でな!」


 そりゃ災難だったね。

 私も二週間前に片手で掴まれたよ、悦子の奴は握力70キロだから滅茶苦茶痛かった。

 だから次は両手で織江にしなさいって言ったんだけど、本当にやったのか。


「あらあら、それじゃB組の江口井 百合(えぐい ゆり)

 ...あの子は止めた方が」


「あんな腐女の訳ないだろ!

 ってか学校の奴じゃねえよ」


 江口井はガチの...って、家の学校じゃないのか?

 それじゃ私の知らない人って事だ。


「それじゃ誰?」


「可愛い子でな...所謂一目惚れってやつだ...」


 織江、照れから真っ赤な顔も出来るんだね。

 試合で見せる鬼の赤顔しか知らないから新鮮だよ。


「ひょっとして幼女とか?

 そりゃ不味いよ、コンプライアンスが」


 ストリートバスケしてると子供達が寄って来るからな。

『デッカイ()()()()()頑張って』って。


「アホかい!!ちゃんとした男だ!」


「...でも子供はちょっと」


 子供達に人気の織江だ。

 同年代の男子に縁が薄いけど、恋人が欲しいのは分かる。

 でも親友を犯罪者にしたくない。


「だから子供じゃねえって!高校生だよ!!」


「...嘘」


 まさか本当に?

 これは大変な事だ、食事どころではない。

 でも勿体ないから、急いで残りを口に押し込んだ。


「本当に男子高校生?」


「本当だよ...」


「何で分かったの?」


 まさかその人と会話を?

 中学から女子校の私達にとって、親兄弟以外の異性と会話するというのはハードルが高いよ。


「制服着てた...海皇高校の」


「海皇か...」


 海皇高校は隣の市にある男子校。

 確か向こうも中高一貫校で、偏差値も家の高校と一緒位だ。


 紺のブレザーにグレーのズボン、鞄には海のマークが施されていて、格好良い男の人が多いんだよな。


 男子校なら間違いなく相手は男...


「...馴れ初めは?」


 一体どうやって知り合ったんだ?

 私なんか男子は遠巻きに眺めるしか出来ないのに。


「ああ...先週の日曜日に隣の市にある本屋でな」


「わざわざ隣の市まで行ったの?」


 珍しい、読書と無縁の織江が本屋とは。


「...ちょっと欲しい本があって」


「どんな本?」


「そんな事はいいんだよ!」


 確かにどうでもいい、どうせ恋愛マンガだと思うけど。

 純愛系が好きだからな、私もだけど。


「分かったわよ、それでどんな出会いだったの?」


「か...彼は上の本棚から本を取ろうとして、届かないみたいだから、私が取ってあげた」


「あんたデカいからね」


「デカい言うな!」


 いやデカイだろ。

 腕も長い織江は3メートル位なら脚立要らずだ。


「そして?」


「彼ったら、ありがとうって」


「ほうほう」


 それが切っ掛けか。

 織江よくぞ頑張った、私ならそこで試合終了なのに。


「んで惚れたんだ」


「は?何か他に話さなかったの?」


「そんな事出来るかよ!

 それで惚れちゃったんだから!」


「それだけじゃ...」


 まだ何にも始まって無いではないか!!


「頼む!次に繋がるアドバイスを!」


「...情報が少なすぎでしょ」


 それだけで何のアドバイスをしろと?

 どんな優れた恋愛マスターでも無理だ。


「それなら来週の日曜日、一緒に行こう!」


「どこに?」


「その本屋よ!」


「居る訳ないでしょ!!」


「いや居る、あれは運命だったんだ!」


「随分一方的な運命ね」


 呆れて物も言えない、たった一回会っただけの人が、またそこに居る筈が無いのに。

 だが、ひょっとしたらと思い、結局私は織江と本屋に向かうのだった。


「居た?」


 本屋に到着し、居ないとは思うが一応聞いてみる。

 結構大きな本屋だ、客も一杯いるからやっぱりダメだと思う。


「...居た」


「...まさか?」


 私達は本棚に隠れながら織江が指を差す方を見る。

 それにしても織江の両目は血走って、まるで小動物に襲い掛かる猛獣みたいだ。


「ほらあそこ」


「あの子が?」


 確かに海皇高校の制服を着ているが...


「あんたショタ?」


「...かもしれない」


 あれはどう見ても小学生でしょ?

 身長は150位しか無い、でも着ている制服は紛れもなく海皇高校。

 あんないたいけな子に、大女の織江から一方的な好意を持たれるなんて、可哀想だ。


「犯罪よ」


「なんで?」


「だってあんな年端もない少年を」


「だから高校生だって」


「それはそうだけど、見た目は小学生にしか見えないでしょ」


「見た目じゃない、運命なんだよ」


 必死で抗弁する織江だが、その言葉に説得力は微塵も無い。

 とにかくその子と話をしてみよう、おそらく織江を見たらビビってしまうだろうから私から行くか。


「...あの」


 織江が話せるとは思えない、だが私なら出来る。

 だって弟と同じ位だからね、もっとも弟は小五だけど。


「はい?」


 おっと声も可愛いじゃない、声変わりしてないのかな?


「ほら、織江」


「...あ...あう、あう」


 ダメだ、水槽から飛び出したアロワナみたいに口をパクパクさせてる織江は、とてもではないが会話なんか出来そうにない。


「あ、この前の!」


「は...はい」


 織江を見た少年の目が輝く。

 どうやら覚えていたみたい、そりゃ忘れられないわね、こんなデカイ女。


「この前はありがとうございました」


「い...いえ」


 頭を下げる少年に、織江は必死で声を出そうとしている、なんかこれも新鮮。


「おい(みつる)


 少年に声を掛ける一人の学生。

 どうやら彼には連れが居たのか。


「充...充ちゃんか...」


 織江は少年の名前が分かってご満悦、でもヨダレは拭いた方が良いよ。


「この前ね、僕の探してた本を取ってくれたんだ」


「そっか、そりゃ良かったな」


「うん」


 二人の会話から親友同士なのが分かる。

 私達みたいな...私...た...ち


 連れの男性を見た瞬間、私の全身に電流が駆け巡る。

 それは私の理想とする人。


 背は私より少し高くて、おそらく190センチ前後。

 鍛え上げた身体に浮き上がる見事な筋肉。

 彫りが深く、凛々しい風貌はまるで古代ローマの彫像みたいではないか!


「あ...あの」


「何ですか?」


 おっと声までストライクじゃないか!


「どちら様か聞いてもいいですか?」


「はい?」


「ちょっと紗央莉...」


「黙ってなさい」


 織江うるさいんだよ!


「はい...」


「海皇高校だけど」


「そ、そうじゃなくって」


 学校名じゃないよ!


「お名前です、ワッチャネエーム?」


「ブ!」


 しまった!完全にテンパっている!!


「紗央莉、あんたね...」


「し、失礼しました!」


「いや良いよ、俺は山口政志でコイツは稲垣充だ」


 山口政志さんって言うのか。

 よし完全に覚えたぞ、明日全ての記憶を失っても、この名前だけは絶対に忘れないからね。


「稲垣...稲垣充...結婚したら稲垣織江...エヘヘ」


 織江は完全に旅立ってしまった。

 放っておこう。


「で、君達は?」


 待ってました!


「はい!河雪学園の山井紗央莉です!!」


「わ、わたくしは郷田織江と申します!」


「え?」


「河雪?まさか...」


 驚いた様子の政志さんと稲垣君。

 そんなに変な事を言ったかな?


「なにか...?」


「いやその...河雪学園って女子高ですよね?」


「そうですが...あ!」


 ...まさか私達の事を...いや、でもこれは...


「...帰ります」


 いたたまれない、こんな屈辱。

 織江だけならともかく、私まで...


「ちょっと待って!」


 帰ろうとする私達を稲垣君が呼び止めた。


「ごめんなさい、二人とも私服だから分かんなかったんだ。

 僕だって制服着てないと小学生に間違われちゃうし」


「...充」


「僕達大変な失敗しゃったんだよ?

 政志だって制服着てないと大人に間違われちゃうじゃないか」


「...そうだな」


 必死で話す稲垣君。

 なんて良い子なの?

 それに政志さんも本当にすまなさそうで...


「...1ヶ月後の日曜日にまたここへ来てもらえますか?」


「は?」


「それって?」


「また会って欲しいんです」


「紗央莉、あんた...」


 落ち込んでる場合じゃないよ織江。


「分かりました、1ヶ月後にまた来ます。

 いいよね政志?」


「あ...ああ、分かった」


「それじゃ!」


 織江の手を掴み、急いで本屋を出る。

 これからが本当の戦いなんだから。


「どうしたの紗央莉、急に?」


「特訓よ...」


「はあ?」


「女子力アップよ!こんな終わり方はイヤ!」


 やっと見つけた理想の王子様なんだ、これを逃す手はない。


「いや女子力って...」


「織江は悔しく無いの?

 ゴリエなんてアダ名で呼ばれて」


「いや、それを着けたのはアンタでしょ?」


「そんな事はどうでも良いの、織江は諦めるつもり?」


 そんな意気地無しとは知らなかったわ。

 それなら私一人でも。


「分かった...紗央莉」


「織江...」


「私だって充様を諦めたくない、やるわよ女子力アップ!」


 織江の目が燃えている。

 そう、インターハイ決勝の時を思い出すわ。

 こうして私達は来る日に向けて女子力アップの決意を固めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっべおもしれーぞこれw
[良い点] 「角野卓造じゃねぇよ!」とか言い出しそうなツッコみ方、嫌いじゃないよ ていうかガサツな大女は好みですねぇw [気になる点] 充…ミツル…ミツ… まさか兄弟にミツオはいないよね? [一言] …
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