第五話
これで完結となります。
直斗の病室に着く。
「直斗!」
声をかけると、彼はこちらを振り向いた。
「梨穂!」
彼は嬉しそうに駆け寄ってきた。
「梨穂!本当によかった……。」
彼は目に涙を浮かべている。
「心配かけてごめんね……。」
「直斗…ごめんね。」
思わず私も涙が溢れてくる。
「落ち着いた?」
「…うん、ありがとう。」
ようやく落ち着きを取り戻した私たちは話を始めた。
「梨穂、俺の話を聞いてくれるか?」
「えっ?う、うん……。」
突然真剣になった彼の顔を見て、私は戸惑ってしまった。
彼は真剣な眼差しで言う。
「…俺は、まだ梨穂が好きなんだ!」
「えっ」
あまりにも唐突だったのでびっくりしてしまった。
「だから、俺はお前と一緒にいたいんだ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の心の中にあった何かが壊れるような音がしたような気がした。
「私は……。」
私は、ゆっくりと口を開いた。そして、自分の気持ちを伝えた。
「実は…私には今彼氏がいます。」
「私には、直斗より大切な人がいるの。」
「ごめんなさい……あなたの気持ちに応えることはできません。」
すると、彼が叫んだ。
「そんなの嫌だ!!絶対に諦めないぞ!!」
「えっ?」
「梨穂が誰を好きだろうと関係ない!!梨穂は俺のことを愛してくれるようになるんだ!!」
そう言って、私の腕を掴んだ。
「痛い!離してっ!」
私は必死に抵抗するが、全く歯が立たない。
「大丈夫だよ。すぐに俺のことが大好きになるからさ。」
そう言いながら、私に顔を近づけてくる。
「やめてっ!」
私は恐怖を感じて、思わず目を瞑ってしまう。
『お願い、助けて!』
そう心の中で叫ぶと、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「梨穂に触るんじゃねぇっ!!!」
ドカッ!! 鈍い音と共に、直斗が倒れる気配を感じた。
恐るおそる目を開けると、そこには今の彼氏、透吾の姿があった。
「透吾……。」
安心感で、また泣いてしまいそうになった。
「おい、梨穂。無事で良かったぜ。」
そう言って、透吾は優しく微笑みかけてくれた。
「あの~、お取り込み中のところ悪いんだけどさ~。」
突然、神様の声が聞こえてきた。
「直斗くんは、もう死んでいるんだよ~。」
「えぇっ!?」
私は驚いて叫んでしまった。
「…本当なのか?」
透吾も驚いているようだ。
「まぁね、だってこいつ幽霊だし。」
「へぇ、そうなんですか。って、えぇぇ!!」
またしても大きな声で叫びそうになる。
「ちょっと!静かにしてよ!」
神様が怒った顔をする。
「あっ、ごめんなさい……。」
「それで、直斗さんが死んでいて、どうしてここに居るのかを説明してもらえますかね?神様さん?」
透吾が低い声で尋ねると、
「いいわよ。教えてあげる。」
と言って、説明を始めた。
「まず、直斗くんはトラックに轢かれて死んだ。ここまではいいかしら?」
「ああ。」
「はい。」
私たち二人は同時に返事をした。
「でも、あなた達には二つの選択肢があるの。」
「二つ?」
「なんですか?」
二人が首を傾げると、彼女は言った。
「一つは、直斗くんがこのまま天国へ行くこと。」
「もう一つは…?」
「まだあるんですか?」
私が聞くと、彼女は答えた。
「ええ。それは、直斗くんがこの世に未練を残して現世に残るということよ。」
「つまり、成仏しないってことだな。」
「そういうことになるね。」
「なるほど……。」
私は納得したように呟いた。
「それじゃあ、直斗はどうしたいの?やっぱり、成仏したくないの?」
直斗に問いかけると、彼は俯きながら言った。
「俺は……。」
直斗は黙り込んでしまう。
「俺は……もう少しだけ梨穂と一緒に居たいんだ……。」
「直斗……。」
「俺、梨穂のことを振ってしまったけど、梨穂が好きだったんだ。」
直斗は震えていた。
「こんなことを言う資格はないかもしれないけれど……、梨穂……俺ともう一度付き合ってください……。」
「…えっ?」
私は驚きのあまり固まってしまった。
(どうして一回振ったのに…?)
私は戸惑っていた。
すると、突然神様が叫んだ。
「ふざけんなよっ!」
「ひっ!?」
突然の大声にびっくりしてしまう。
「あんたみたいな奴に梨穂ちゃんを渡せるわけないじゃない!」
神様は怒りを露にしている。
「梨穂ちゃんがどんな気持ちであなたと別れたと思っているの!?」
透吾も言う。
「梨穂がどんな気持ちでお前と別れたのか分かってるのかよ!」
「梨穂ちゃんがどれだけ悩んで苦しんだと思ってるの?そんなことも分からないようなクズ野郎には絶対に梨穂ちゃんを渡したりなんかしないんだからね!!」
二人とも怒っていて怖い。
「うぅ……。」
私は怖くて泣いてしまった。すると、透吾が私を抱きしめて頭を撫でてくれた。
「大丈夫だぞ、梨穂。」
透吾は優しい口調で言う。
「うん、ありがとう…。」
私は涙を拭いながら言った。
「直斗さん、俺たちは梨穂のためにお前とは一緒には居られない。」
「そうだよ、直斗くん。さっさと成仏しちゃいなよ。」
二人が直斗に向かって冷たい言葉を浴びせかける。
「そんな……。」
直斗の目から大粒の涙が流れる。
「嫌だよ……。梨穂……。お願いだから……俺を捨てないでくれよ……。」
彼の声は掠れている。
「お願いします…!なんでもするから!」
直斗は必死に懇願している。
しかし、二人は冷たく言い放つ。
「ダメなものはダメなんだ。」
「諦めて、さっさと天国へ行きなさい。」
直斗は絶望的な表情を浮かべる。
そして、ついに決心がついたようだ。
「分かった……。」
そう言って、ゆっくりと立ち上がる。
「梨穂…今まで楽しかったぜ。」
そう言って、直斗は消えていった。
「これで良かったんだよ……。」
私は自分に言い聞かせるように言った。
「じゃあ、これからもよろしくね。」
神様が私に笑顔を向ける。
「はい、こちらこそです。」
私も神様に微笑み返す。
こうして、私の長い一日が終わった。
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