第四話
ある日、私はいつものように登校した。
教室に入ると、クラスの人が一斉にこちらを見た。
「あっ、梨穂ちゃんだ!」
「おはよう!」
「梨穂ちゃん!大丈夫?もう平気なの?」
私は、戸惑いながらも答える。
「…うん!もう大丈夫!」
「よかった!心配してたんだよ!」
「ごめんね……。心配かけさせちゃって。」
なんとか会話を乗り切った私は席に着く。
隣を見ると、唯奈がいた。
「梨穂、大丈夫?」
「うん……。」
「でも、顔色悪いよ?」
「大丈夫だから……。」
私は無理やり笑みを浮かべる。
すると、先生が入ってきた。
「皆さん、おはようございます。」
挨拶が終わると、授業が始まった。
そして休み時間になると、友達が私の周りに集まってきた。
「ねぇ、あの話聞いた?」
「えっ?」
あの話とはなんだろう?
「あれだよ、あれ。」
「えっと……どれ?」
「あれだよ、あれ。」
「どれ?あれじゃ分からないから教えて?」
「あれだよ、あれ。」
「もー、はっきり言ってよー。」
なかなか答えてくれない。なぜだろう?
「もー、しつこいなー。」
「分かったよ。」
やっと答えるようだ。
「…直斗くんのことだよ」
「えっとね、直斗くんが……」
聞きたくない。
「浮気し……」
「やめて!」
思わず叫んでしまった。
クラス中が静まり返った。
「ごめんなさい……。」
すぐに謝ったけど、誰も何も言わなかった。
「ごめんなさい……。」
もう一度だけ言ったけど、やはり返事はなかった。
その日の帰り道、一人で帰っていると後ろから声をかけられた。
「梨穂!」
振り返ると、そこには直斗の姿があった。
「直斗……どうしてここにいるの……?」
驚きすぎて言葉が出てこなかった。
すると、彼は照れくさそうに言う。
「実は俺、お前に言いたいことがあるんだ。」
彼の目はとても真剣だった。そして、覚悟を決めたように言った。
「俺は、まだ梨穂が好きなんだ!」
その瞬間、私の心の中で何かが壊れるような音がしたような気がした。
「……。」
しばらく沈黙が続いた後、私は言った。
「嘘つき……。」
その一言を聞いて、彼は驚いたようだった。
「えっ!?嘘じゃないって!!」
私は彼に背を向ける。
「嘘……嘘……」
そのまま歩き出す。
そんな私を見て、彼が追いかけてくる。
「おい、待ってくれってば!!本当だって!!」
直斗が必死になって止めようとする。
だけど、私は止まらない。
走って逃げようとしたその時、誰かがぶつかってきた。
「きゃっ!」
倒れそうになったところを、直斗が支えてくれた。
「ご、ごめんなさい……。」
慌てて離れようとしたが遅かった。
「梨穂!危ない!!!」
直斗が叫んだ時にはもう手遅れだった。
ドンッ! 鈍い音と共に、私の身体は宙を舞っていた。
目の前にはトラックが迫っていた。
「あぁ……死んだ……死んじゃうんだ……。」
そう呟いた時だった。
グシャッ!!! 強い衝撃を受けたと思った次の瞬間、意識は途切れた。
目が覚めると、そこは病院の一室だった。
「ここはどこ?確か、私はトラックに轢かれて……。」
そう考えているうちに、だんだん思い出してきた。
「そっか…私、トラックに轢かれたのかぁ。」
不思議と落ち着いていた。
「そういえば、直斗は無事かなぁ?」
ベッドの脇にあった鏡を見ると、自分の姿が映った。
しかしそれは自分ではなかった。
「えっ!?これって私……?」
そこに映し出されたのは、もう一人の私。
「どういうこと?これは一体……。」
困惑しているところに、一人の女の子が入ってきた。
「あっ、目覚めたんだね。」
その子は笑顔で話しかけてきた。
「…あなたは誰ですか?」
恐る恐る尋ねる。
「私は、神様です。」
「へぇ~、そうなんですかぁ~。って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
私は驚いて思わず大きな声を出してしまった。
「ちょっと!静かにしてよ!」
彼女が怒った顔をする。
「あっ、ごめんなさい……。」
私は素直に謝った。
「それで、どうして私はここにいるの?」
私が聞くと、彼女は呆れた表情をした。
「あんたねぇ……、自分が何したかも忘れたわけ?」
「何をしたって言われても……。」
「ほら、よく思い出してみて!」
私は目を閉じて考えてみた。
(私が何したっていうの?)
(んー……。)
(えっと……私の名前は……)
(名前は……)
(あれっ?名前?私の名前ってなんだっけ?)
(私の名前が思い出せない……。)
(あれ?おかしいな……)
(私、どうしてこんなところにいるんだろう……?)
考えれば考えるほど分からなくなっていく。
「あれ?あれ?」
頭を抱えて悩んでいると、彼女から質問された。
「ねぇ、一つ聞いていい?」
「はい、なんでしょう?」
「あんたが轢かれそうになっていた男の子のこと覚えてる?」
「もちろんですよ!」
「じゃあさ、彼の名前教えてくれる?」
「…直斗くんですよ!」
「ふーん、直斗くんね……。」
彼女は少し微笑んで言った。
「それじゃあ、直斗くんに会いに行くよ!」
「えっ!?」
「ほら、早く準備しなさいよ!」
「…はいっ!」
なぜか、彼女には逆らうことができなかった。