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09話 依頼に同行します -5-

【私がシュジュア様を幻滅する──??】


「そうだ、その目だよ。リーゼリット嬢、君は俺を敬愛のこもった目で見てくるからね。ついつい疑い深くなってしまうよ……。君がどうして、そんな目で俺を見てくるのか。俺を神職者か何かと勘違いしているんじゃないかなって」


【神職者か何かと勘違い──??】


「……とにかく、俺をそんな目で見ないでくれ。俺は俺自身の為に、ラニやジオを利用しようとしている。保護という名目で。そんな目で見られるような人間じゃない」


【そんな目で見られるような人間じゃない──??】


 ……推しが自分自身の評価を認められないなんて、許せない──。

 どうあったとしても、私が推し自身の在り方を受け入れていく限り推しは推し(・・・・・)なのだ──。


「……そんなこと、そんなこと嘘でも言わないでください! たとえ利用しているのだとしても、ラニやジオ君に優しいのは本当でしょう! 情報を集めてまでして、真っ先に動いてくれたのは、他ならぬシュジュア様でしょう!!」


 私のただならぬ勢いにシュジュアは圧倒されている。

 けれども、推しには自分の道を突き進んでいってほしいのだ──。


「どうあったとしても、私はシュジュア様を素敵な方だと思っているんです!! それをシュジュア様ご自身が否定しないでください……」

「あっ、ああ……。そうだな……うん、そうだ。君の言いたいことはわかったよ……」


 心なしか、シュジュアはドッと疲れたような表情をしている。

 ともかく、私の言い分が推しに伝わったようで何よりである。



「それはそうと……君の侍女は戦えるのだな? 正直、驚いたよ」

「ジェリーは強いんですよ。とても素早くて、軽快な動きで敵を瞬殺するんです」

「しゅ、瞬殺?」


 シュジュアが驚いた様子で話を伺ってくる。

 だけど私は、それを聞かなかったことにして隣に座っている侍女と小声で話を続ける。


(「そうだわ。気になっていたことなのだけれど、ジェリー。今日は手を抜いて戦っていたでしょう?」)

(「申し訳ございません、お嬢様。お嬢様がとことん非力であることが、とんと頭から抜けておりました。まさかお嬢様が、簡単に敵の術中にはまるとは思いもしませんでした」)

(「またそうやって、主人である私を挑発して。……まぁいいわ。そのお陰で、シュジュア様の華麗なる体術も目の前で見れたし」)


 侍女と小声で話すのをやめて、今度はシュジュアと会話する。


「そういえば、シュジュア様とイルゾ……さん? が剣を置く前にアイコンタクトをなされた時、どうしてイルゾさんが嫌そうな顔をなされていたんですか? 体術が得意なら、剣を置いても構わなかったでしょうに」

「イルゾでいい。逆だ、体術が得意だからだよ。俺は剣術より、素手の方が好きなんだけどね。『公子様ともあられる方が、剣を使用せず素手で戦うなど滅相めっそうもございません』と、言われてしまっていてね」


 そうか、貴族が素手で戦うのは醜聞しゅうぶんになってしまうことなのか。

 ついつい私は、前世感覚で物事を考えてしまいがちだが、今世の考え方もいざというときのために学ばなければいけないようだ。




 シュジュアと会話をしている間に、もうすぐノーマン侯爵邸に着きそうらしい。

 御者がその旨を伝えてきたので、到着間近の準備をし始める。


「リーゼリット嬢、今回の一件について助力ありがとう。前はすぐに帰らせようとしてしまったが、また事務所の方に来てくれて構わない。……以前言っていた、『窓の製作者に会いたい』という依頼もラニに打診してみよう」

「……! 本当ですか!私、今回ほとんど何もしておりませんのに」

「ああ。君の腕の痛みの代わりといってはなんだが、私が叶えられる程度の願いなら叶えてみせよう。望みが決まったならば、君の願いを言いにまた俺に会いに来てくれ」

「ありがとうございます!! またシュジュア様とお会いできる機会をいただけるなんて、本当に嬉しいです!!!」

「あ、ああ……」


 食い気味に返事をしたせいか、微笑みを浮かべていたシュジュアの顔がやや引きっている。

 だが、またシュジュアと会える機会に比べればなんて事はないのだ。




 そんな話をしているうちに侯爵邸に着いたので、私と私の侍女は馬車を降りる。

 シュジュアへ出迎えてもらったお礼の挨拶をして、リーゼリットは我が家へ戻った。


 この時間まであまり出掛けたことはなかったからか、お父様であるノーマン侯爵が心配そうな顔をして出迎えてくれる。

 初めこそ今日の出来事を簡単に応えていたが、娘アイラブユーのお父様の心配症は留まることを知らない。


 そして、お母様からは『そんなことになっているなんて、聞いておりませんわ!!』と叱られる始末。

 途中からなんだか面倒になってしまって、そんな両親を適当にあしらい、私は自分の部屋に戻った。


「今日は疲れたわね、ジェリー。こんな日はさっさと眠るに限るわ」

「お嬢様は体力がなさすぎです。……遠出をしたからには、お食事を召し上がってご入浴をなさってくださいませ。こんなこともあろうかと、お食事は置いておくよう申し付けております」

「流石、ジェリー。有能だわ」

「そう思ってくださるのなら、衣服を脱いだ途端にベッドで寝ようとしないでください」


 そんなこんなで食事とお風呂を済まし、私はベッドに寝転んで眠りつつ今日の出来事を思い返す──。



 *****



 今日は大変な一日だった。

 シュジュアに馬車で連れられて"魔法使い"のラニに会い、ラニの魔法と私の想像したカメラで写真機を製作した。

 その写真機でジオが"遊びに出掛けた"先の調査にあたったつもりが、連続盗難事件の犯行現場を目撃し、その場の事態を収めることになってしまった。


 まさか先日、シュジュアの事務所の出入りをこっそりと覗いていたからといって、後に"情報屋の助手"となるジオの動向調査の依頼を一緒に行うなんて思いもしなかった。

 勉学ばかりに明け暮れる日々を過ごしたばかりに、推し要素が足りなくなってつい魔が差してしまったとはいえ、推しに私の存在を悟られてしまうとは迂闊うかつだった。

 結果的に次もシュジュアに会ってもいいことにはなってくれたが、一歩間違えれば二度と会えないところだった。


 ……だけど今度からは、推しを推しのまま(・・・・・)観たいのであれば、距離感を考えた方がいいかもしれない。

 シュジュアと共に行動ができたし、ジオや"物作りの達人"であるラニと面識ができたことは心より嬉しい限りだ。

 その代わりに、推しや推しの仲間と仲良くなることは、本来直接関わりを持とうとしなかった私自身も離れがたくなることもわかってしまった。


 シュジュアはこの先、寝る間もしんで情報収集に明け暮れていくことで、精神的に病んで完全に体調を崩してしまうのだ。

 それがいくら推しの運命とはいえ、私はその運命にどんどん逆らいたくなってしまうことだろう。


 ──私は正直、どうすればいいのかわからなくなってきた。


 原作を愛しているし、転生直後は原作通りに事が運ぶのが当然だと思っている節があった──。


 初めこそはそれが彼らの運命として受け入れるつもりで、推しを推しのまま(・・・・・)で観て鑑賞するような心持ちだった。

 だが、シュジュアが生きている姿を実際に目の前で見てしまうと、その判断に迷いが生じてきた。


 このまま小説バイブルの通りに、未来が進んでしまっていいのだろうか──。



 その答えはまだ、私の中で結論が定まっていない───。


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